第6話 ゴレンジャー

 「はぁ~~~~~~~...。」


 今日もまた〈未来科学研究所〉には怪獣が運ばれてきていた。いくつか横たわっている怪獣には、昨日、倒したものもいた。

 「どうしたぁー?今日はいつにも増して大きいため息ついて。陽香。」

 スピーカーから、いつものように机の上に足を乗せてぐうたらと雑誌を読みながら涼しい部屋でくつろいでいるであろう赤星局長は言った。

 「だって今日、怪獣多くないですか!?いつもの2倍はありますよ!?...もうあっついし!作業着の夏服ってないの!?さいっあく!!!」

 「そうは言ってもね~、なかなか人員増やせてもらえないし。作業着にしたって夏服用に生地薄くしちゃったら放射能から守れないでしょ。第一、作業着を変えられる予算なんてウチにはでないよ。」

 陽香が愚痴を言いながら作業をするのはいつもの見慣れた光景だ。(私にとっては聞き慣れた)

 ただたしかに年々、怪獣が運び込まれる量が多くなっている。ウチみたいな弱小研究所にも運び込まれるくらいだ。猫の手も借りたいとはこのことだ。


 怪獣の処理はいたってシンプル。切り刻み、燃やし、埋め立てる。この繰り返し。

 ただ、怪獣の中にはものすごく大きいやつ、ものすごく外皮が固いやつ、ものすごく臭いやつなどさまざまなやつがいる。怪獣からは微量の放射能も発せられるため、頑丈な宇宙服みたいな作業着は必須。そうした作業着を着ても、匂いに敏感な私からしたら臭いやつはきつい。そういう怪獣は大抵、桜に任せてとっとと他の怪獣を解体する。桜にはその後で奢ったりするので、ギブアンドテイクの関係だ。

 「今日は緑夢と亜藍はどうしたのです?」

 「おう。今日はあいつらは別の場所で作業だ。いろいろと人手が足りないらしくてな。」

 「チッ、こっちだって忙しいですよ...。」

 今日の桜はご機嫌斜めらしい。そういう私も暑さでヘロヘロだ。

 「もう、愚痴ばっかり言ってないでゴレンジャーなら頑張ってよ。世の中の平和のために。」

 「だから、私は違うって言ってんでしょうが。名前の桜がピンク色だからって勝手にピンクレンジャーにしないで下さいよ。」

 桜がため息混じりで愚痴をこぼす。

 赤は赤星局長、青は亜藍、黄は萌黄色、緑は緑夢、そしてピンクの桜。五人五色揃ってゴレンジャーだ。

 「ちょっとー!アタシだって違うからね!?なんで名字に黄色が入ってるからって三バカトリオと一緒にされないといけないの!?」

 「陽菜乃だって名字が色彩なんだから、三バカを束ねるバカリーダーにはもってこいの名字じゃないですか。くっくっくっ。」

 二人がいっせいに口撃をしてきた。さすがゴレンジャー、連携がとれている。私は暑さで、二人の口撃を受け止めるので精一杯だ。

 「おーい、さらっと局長の俺を三バカに入れるなよ。」

 赤星局長は気だるそうに、反論する。

 するとそこへ、

 


 「すいませーん!〈未来科学研究所〉はこの場所で合っていますか?」


 聞いたことのある声がした。

 「おっ、来たか。お前らに助っ人だ。」


 「今日からお世話になります!内木田黒百と申します!」

 とその人物は言った。



 それから、私、桜、陽香で黒百くんに二時間ほど作業を教えて手伝った。ーーといっても、桜と陽香はご機嫌が斜めなのと、私が顔見知り(声見知り、色見知り?)であったことから、ほぼ私が作業を教えた。

 赤星局長によると、黒百くん(と光ちゃん)のご両親は離婚調停中らしく、黒百くん(と光ちゃん)はおじいちゃん、おばあちゃんの家に預けられているそうだ。

 しかし、おじいちゃん、おばあちゃんも農作業で家を空けることが多いので、二人だけでよく外出していたそうだ。ーーそこへ警察官が声をかけ、ウチに来た。という経緯だそうだ。

 たしかにウチは、私含め、親のいない未成年の子を預かって労働力として働かせている。ーーというと聞こえは悪いが、そんな子たちの居場所を提供してくれる場所だ。いわば、ボランティア精神ということだろうか。食費や、住む場所が無い子どもには、寮も提供しているので、貧乏研究所なのも納得だ。

 ただ、年齢が年齢なので、率直に思ったことを質問してみた。

 「二人は学校はどうしてるの?」

 ウチはゴレンジャーの中で、陽香しか学校に行っていない。陽香は夜間学校に通っている女子高生だ。(ギャルだ。)

 だけど、光ちゃんは4歳くらいで、黒百くんもせいぜい6歳くらいだろう。

 「僕はオンライン授業を受けています。光には、僕が先生代わりで教えています。」

 黒百くんは手早く作業をこなし答える。

 「今日はおばあちゃんが家にいるので、光は置いてきましたけど、明日からは光もここに連れてきます。」

 そうなんだ。いろいろな学ぶ環境があるもんだ。

 「あれっ?知らないんですか?今の時代普通ですよ?」

 イラッ。ーー黒百くんも大分環境に慣れてきたもんだ。...環境というより私の扱いか。やっぱり、あの妹に、この兄ありね!

 危ない、危ない。危うく、心を許すところだったぜ!ーーどれどれ。少し匂いを嗅いで本性を探ろうか?

 くんくん。ーーんっ。またオレンジだ。

 「あぁー、実はおじいちゃんとおばあちゃんの育てたオレンジでいくつか商品展開をしてまして!僕が今付けている香水もそうです!いい香りでしょ!」

 へぇー、そんなことしてるんだ。ーーもしかして、商品開発は黒百くんがしてるの!?

 「はい!もしよろしければ、陽菜乃さんもおひとつ、いかがです?安くしときますよ!」

 さりげなく商品PRをして私に売りつけようとは!やはり侮れないぜ!内木田兄妹!

 あれっ?ーーそこで気がついた。

 「あれっ!...黒百くんもそうか!」

 「黒百くんは名前に黒が入ってるからブラックレンジャーだね!」

 「ブラックレンジャー...ですか?」

 「それをいうなら白もじゃないですか。陽菜乃。」

 桜が言った。

 「白?...あぁー、あぁーー!」

 黒百の百から一本引くと白。名前に黒と白が入っている。

 「きゃはは!じゃー黒百くんもゴレンジャーの仲間入りだね!」

 「も、っていうことは陽香さん自身もゴレンジャー入りを認めているんですね。」

 「...!..違うってば!そういう意味じゃないから!..桜は身長的に敵キャラの方が合ってるかもねっ!」

 桜と陽香は騒ぎ合って、赤星局長はそれを気だるそうに見つめる。いつものありふれた日常。

 そこに新たな登場人物が参入してきた。


 内木田黒百。


 やっぱり、昨日の今日で偶然また出会うなんて、タイミングが良すぎるような...。考えすぎかなぁ...。

 名前に黒と白が入っている黒百くん。...まるで裏表があるような、掴みどころが無い黒百くん。...それに、昨日の光ちゃんの態度と言動も気になるし。

 ーーちょっと探ってみようかしら。


 怪獣の処理の仕事が終わって、皆は解散した。その後で黒百くんの後をつけてみることにした。

 黒百くんとは道が逆方向だったから、わざと元の道を進んでから迂回してきた。

 黒百くんは特徴的なオレンジの香水を付けているので匂いで辿りやすい。

 何か探偵みたい!と思っていたら、前の方から、足音が聞こえてきた。

 まずい!ばれた!?と思ったら、その人物から少しこもった声で意外なことを言われた。


 「だめだよ。止めておいたほうがいいよ。陽菜乃さん。」

 その言葉に私は固まり、オレンジの匂いは遠ざかっていった。


 

 

 

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