第3話 その女狂暴につき
ここは東京某所にある大型ショッピングモール。特に特徴が無い私の地元にそびえ立つ。
東京といったら地方の人はきらびやかなイメージを持つだろうが、何も全てがイメージ通りにいかないのがこの世の中。渋谷、原宿、新宿、六本木などはきらびやかな東京の代表だろう。私の地元はというと、住宅街が迷路のように連なり、灰色の景色が地平線まで続いている。その灰色の砂漠が如く住宅街が続いていくその先に、さながらオアシスのように緑豊かな自然公園が現れる。
自然が溢れる灰色の街。私の地元を一言で表すとそう表現する。
しかし、そんな灰色の街にも若者にとって本物のオアシスが存在するーーそれが大型ショッピングモール〈オアシス〉だ!
まんまじゃないか!というツッコミはもっともだと思う。しかし!〈オアシス〉を侮ってはいけない。ショッピングはもちろんのこと、飲食店、映画館までもが入っており、休日にはアイドルが中央広場で握手会やパフォーマンスをしにやって来るのだ~!
何を言いたいかというと、ここが私の地元で、この〈オアシス〉には地元民が数多く集まる場所、ということだ。なので、この場所で数少ない知り合いに声を掛けられることはある。当然、私の知り合いなので、私の目が見えないことは知っている。なので不安をあたえない配慮のために、体を触れる前に必ず声を先にかけてくれる。
なので、突然手を握られてきた時は驚いた。しかし、すぐに頭を巡らせて桜あたりが悪戯で握ってきたのだと思った。
だが次にその人物が放った言葉は、
「ママ~、早く映画観に行こうよー」
だった。
私まだ18だよ?あなたのお母さんも同じくらいなの?
それとも私が老けて見えただけ?ーーと心の声はしまっておいた。
突然の出来事に逡巡していると、
「陽菜乃ちゃん!?奇遇だね~!」
と前の方から声が聞こえた。少し息をからしているそうだ。
「僕だよ!狐坂だよ!陽菜乃ちゃんとは研究所を紹介して以来だね!」
「こさかさん?あぁー!お久しぶりです!どもです!」
警察官の狐坂式神(こさかしきがみ)さん。両親の知り合いだ。たしか年齢は30代後半だっけ?私を〈未来科学研究所〉に紹介してくれた人物でもある。それが私にとって良かったのかどうかは置いといて、当時は色々と助けてもらっていた。
今では明るく生活できているが、両親が死んでからしばらくは家に籠りっぱなしで手をつけられなかったーーと私を知る人は口々に証言している。
私を預かると言ってくれた親戚もいるのだが、私がそれを拒否した。早く一人立ちしたかった。そんな時に力を貸してくれたのが狐坂さんだ。
ちなみにいつもにこにこしていて署内では『福顔(ふくがん)の狐坂』と言われているらしい。
私と狐坂さんの話しになってしまったが、今はとんでもない状況だった!10代で親に間違えられてしまったのだ!
すると、ふんわりとオレンジの色を感じた。
「あれ、このオレンジ...。」
「こんだけオレンジ持ってたら気づくよね!」
オレンジ色を感じたのは実際に目の前にオレンジがあるからだった。
「この子がいっぱい持っててね~!この年ごろの子はオレンジ好きだから!僕も親戚の子におんなじくらいの子供がいるから分かるよ!」
たしかに私も小さいときはお母さんによくミカンを剥いてもらっていた。
「この女の子がお母さんとはぐれてしまったみたいで!かれこれ1時間くらいこの子といるけど...。それはもう大変だよ~!ショッピングモールの館内走り回ってー!」
それで一緒にいるのか。ご苦労様です。
「スマホも取られちゃってね!取られちゃって撮られちゃって!僕が走り回ってるところを陰から盗撮してたみたいで!ーー『お巡りさんが走り回ってる恥ずかしいところを送られたくなかったら、言う通りにしろ!』ーーなんて言うからさ~!困ったよ~!」
怖っ!ーー右手で握った手の大きさと声からして4歳くらいの女の子だと思うけど、今の子ってこんなことするの!?多分、映画とかで観た情報だと思うけどーーというかそう信じたい...。
「お巡りさんのケータイはトイレに置いてきたよ!お姉ちゃんと一緒にいるから取ってくればー!」
「トイレ!?それって女子トイレかな~。...悪いけど陽菜乃ちゃんちょっと見ててくれる?悪いね!」
と慌てて女子トイレに走って行った。警察官の制服を着ているので騒がれることはないだろう。
すると、女の子は、
「さぁー行くわよ!邪魔者は居なくなったし!」
と意気揚々に私の手を引いて歩き始めた。
「ちょっと待って!?お母さん探さなくていいの!?」
私は慌てて女の子を止めた。
ピタリと止まった女の子は私の方を向き、こう吐き捨てた。
「飼い犬に噛まれるとはこのことね」
ギロリと睨まれた(ような圧倒的な圧を感じる)。飼い犬どころか蛇に睨まれた蛙になってしまった私はただただ呆然としている(というか、いつ私が4歳女の子の飼い犬になったの?)。されるがままに、首に手綱を巻き付かれた蛙に成り下がった私は引っ張られ〈オアシス〉という名前のショッピングモールを後にした。
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