第2章 異世界を旅して

第7話 異世界でのお金の稼ぎ方

 俺とナナバ、バーナードで冒険に旅立だったその夕方……

 俺は大きなミスをしていた事に気付く。

 それは――


 「うむ……路銀がない」


 それもそのはず、俺は召喚されてから…どころか生まれてきてこの方、仕事というものに従事したことがない。

 当然、お小遣いをくれるものもいない。

 最寄りの街の宿を取ろうとした時にその事実に気がついた。

 これでは宿どころか今晩の食事にすらありつけない。

 ただ、他の2人はというと……


 「まあ、この先稼ぐしかねえよな」


……とバーナードは正論で答え、ナナバに関しては、 


 「手っ取り早く稼ぐ方法ありますよ」


と楽観視でいる。

 2人とも焦っている様子はなさそうだ。


 「ずいぶん余裕だな」


 「まぁ、私に任せて下さいよ」


 ナナバはそう言うと自慢げに小さな胸を張り出した。



 ……何か厭な予感がする。



 まさか、娼婦みたいな事してして金を稼ぐのか?

 だが、この貧相なカラダでは余程の物好きじゃないと客は寄りつくことはないだろう――とそんなことを考えていたら、ナナバが頬を膨らませてジト目で俺を睨んできた。


 「何か失礼な事を考えていませんか?」


 「いや――ただ、勝手に色々と想像していた。どんな稼ぎ方するんだ? カラダ売るなら俺らよりもバーナードあたりが稼ぎそうだぞ、特に熟女あたりから」


 当然二人から――


 「はぁ?! ちょっと待て! 何で俺がババア相手にカラダ売らなきゃいけないんだ?」


 「ちょっと待って。私、娼婦をするつもりはありませんよ。それに『俺らよりも』って何ですか……それじゃあ私のカラダは男の人にとって興味ないって言っている意味ですね。それはそれで失礼ですし、私が自分のカラダを売ってお金にするような女と思われるのは、心外です!」


――と怒られる羽目になる……特にナナバはカンカンだ。


 「では何をすれば手っ取り早く稼げるというのか? まさかモンスターでも討伐すると金でも得られるのか?」


 俺はこの世界でも『冒険者ギルド』があるものだと思って話を進めていたのだが、バーナードは俺の話とかみ合わないことを言い出した。


 「ダメだわ。一部のモンスターは精肉店で売れるけど、基本的に野生のモンスターの肉はマズいから売れない。美味くて売れるのは養殖モノだね」


 「あぁ、お肉もそうなんだが――俺が言っているのはそこじゃない。日銭稼げる……確か『冒険者ギルド』っていうところ、あったよな?」


 確かに俺の記憶では……おっと、失礼。ここで言う『記憶』とは俺が転移する際に付与された『かつてこの世界で生活していた誰かの記憶』を指すものであるが、それには冒険者ギルトという名前が存在していた。

 だがバーナードから現状を知らされることになる……


 「あぁ、そう言えばそういう組織が昔にあったと聞いている。だから今はないよ」


 「えっ、冒険者ギルドないの?」


 「ないよ。第一、今は専門職がいるから。あっ、でも……仕事するなら商工会の就活支援課でも行って仕事の斡旋を受けることになるけど、あそこで紹介される職業は給料月末払いがほとんどだからねぇ。日当払いを探すのは大変だよ」


 ふむ……要はその街のハロワ(ハローワーク)みたいな所に行って仕事探せということか。うむ――夢のない話だ。

 なお、日本のハロワは商工会所管ではなく、都道府県労働局の公共職業安定所のことなので、補足しておく。話を戻す。


 では、ナナバが言う『風俗ではない方法』でどうやって手っ取り早く稼ぐつもりなのか。

 それを彼女が説明する。


 「まず。道具ですよね。刃こぼれしたり、壊れていたらダメです」


 そういうと彼女は俺が与えたナイフを丹念に確認する。丁寧に扱ってくれているようで刃こぼれ一つも無く綺麗な状況を維持している。


 「なるほどな……刃物を使った仕事なんだな。それからどんなことするんだ?」


 「そして、街道からちょっと離れて木の陰に隠れます」


 彼女はそう言うと街道脇の木の陰に隠れる。

 俺らも彼女の挙動に合わせて行動する。


 「うん? あっ、そうか狩りするのか……それで何を狩るんだ?」


 「そこでジッと街道の様子を覗っています……ほら、今馬車が来ました。アレは行商人の馬車ですね……」


 だいぶ遠くであるが馬車がこちらに向かっているのを確認できた。

 行商人から何か取引するのか?

 売る物もないし……

 そう思っていたら、彼女が次の行動に移る。


 「まず、顔を見せないように布で口元を隠します……そしていよいよこれの出番です」


 彼女はそう言うと先ほどのナイフを取り出し、ジッと馬車の方向を確認している。

 ソレを見てバーナードも戸惑いながら弓を構え始めた。

 コレって、もしかして……


 「……おい、まさかだと思うが――」




 「――はい、馬車を襲います」




 俺はナナバの脳天にコツンと軽くゲンコツを喰らわせた。


 「きゃうっ……何するんですか!」


 ナナバは頭を抑えて若干目を潤わせている。


 「いいか、おまえら――俺らは盗賊じゃねえ」


 「でも、お金がない時は皆こうしますよ!」


 ナナバは何やら物騒なことを言い、訳の分からない理屈を捏ね始めた。当然、俺は「するか!」とナナバを叱りつける。だが、ナナバは完全にイっちゃった様な目つきでこう反論する。


 「大丈夫です――巧くやればあの馬車と荷物は全部私達の物になります……」


 「その、巧くってどういうことだ? そんなことしたとしても、バレるだろ?」


 俺の問いにナナバはハアハアと荒い呼吸で悪い笑みを浮かべて答えた。




 「大丈夫ですよ……皆殺しにすればいいんです」




 サイコパス発言をする彼女に対して俺は無言でゲンコツをもう一度……今度は強めのやつを喰らわせた。

 彼女は「ぎゃうん!」と悲鳴を挙げ涙を零す。


 「これって、おまえらを拉致監した奴と同じ理屈だぞ」


 「……だってお金ないじゃないですかぁ!」


 ナナバは恨めしそうに甲斐性なしの俺に愚痴った。


 「今、ちょっと待ってろ。良い方法が必ずあるから……」


 とりあえず、先走らないようにと彼女をなだめつつ、方法を考える。

 まぁ、いざとなれば秘策がある。それはその辺の木や石ころを物質変換で食材に加工して食わせてやればいいし、寝床はそこらのよさげなところを探して寝れば何とかなる。

 俺はそう安易な考え方で構えていたのだが、どうやら彼女は余程お腹を空かしている様で――


 「兄さん、何かウサギでも鳥でも何でもいいから捕まえて食べましょうよ」


――とバーナードに訴えた。

 さらにバーナードも「そう言えば、昨日から何も食べていないよな」と愚痴っている。

 如何にも俺が甲斐性無しとでも言わんばかりに文句垂れる2人……ちなみに、俺はもうおまえ等の主人でも何でもないのだが。

 あんまりガタガタ抜かしている様だったら、そこらに転がる死体でも食べ物に物質変換して食わせてやろうかとすら考えてしまう。


 

 だが、俺たちが何かする前に事態は動いた。



 ナナバが襲おうとした行商人の馬が嘶く。

 ナナバと同じような布マスクで顔を覆った黒ずくめの盗賊、ぱっと見で約5人だろうか。この感じだとあと数名は俺ら同様に木の陰で隠れていると推測できる。

 そいつらが馬車の前と後ろを塞ぎ何かをチラつかせている。


 だが何故か馬車から用心棒らしき護衛が飛び出すことはなかった。

 護衛役がいないと見える。


 これを見てナナバがヒスを起こしながら怒りだした。


 「先を越されちゃったじゃないですか! しかも護衛なしですよ! 勿体ないぃぃ……」


 逃がした魚じゃないが、憤る気持ちも分からないでもない。でも、盗賊行為を諫めた俺に文句をいうのはお門違いだ。

 そこで俺はある方法を思いついた。


 「おい、おまえら、あの馬車の連中を助けるぞ!」


 「今度はなんで危険な事をするんですか!」


 俺の指示にナナバはすっかりお冠モードであるが、バーナードが俺の意図を読み、「あっ……確かにこの方が堂々と謝礼を請求できる」と俺に続き、彼女も渋々それに従った。

 ただ、今のナナバの様子では盗賊相手に容赦なく斬りつける可能性がある。

 だから、彼らの不意を突く様な事はせず――


 「何をしている!」


――と大声を掛けた後に彼らに飛びかかった。

 これにはナナバとバーナードが「えっ!」と驚きの声を挙げる。

 彼女らが驚くのも無理はない。盗賊を始末するのであれば無言襲撃が理想である。

 それにこちらの方が人数が少ない。

 相手に気付かれて困るのはこちらの方である。


 ――俺は敢えてそのセオリーを無視した。


 当然、盗賊らはすぐに俺らに向かい、こちらを威嚇し対峙することになる。


 「五月蠅い! おまえらも痛い目に遭いたいようだな!」


 まぁ、人数的に考えてみても、痛い目に遭うのはうちらの方だ。

 だから、バーナードが俺の援護で矢を放った。

 それは正しい援護である。


 ――だが、今回に限り、相手に命中されては困る。


 俺は、飛んでくる矢の弾道を法術で彼らの足下に落とすと、まずは手前にいた男の胸ぐらに掴みかかり、柔道でいう体落としで地面に叩き付けた。


 問題は次だ。俺のすぐ後ろにナナバがいる。

 ナナバは俺と違って容赦なさそうだ。

 俺はナイフを振りかざす彼女に対して「殺すな!」と指示をして次の盗賊に掴みかかった。


 ――案の定、この状況に困惑する2人。

 

 前もって打ち合わせする暇があればよかったのだが、今回は緊急事態につき省略。ぶっつけ本番で俺の行動に合わせてもらう。

 俺とナナバは素早く数人を組み伏せると、多勢であった賊達もジリジリと後ろ後ずさりをし始めた。


 「どうするんだ? 今、退けば見逃すが。もし続ける気があれば、今度は武器を使わせてもらうが」


 あえて揺すってみる。

 通常の場合であれば、逃げるか向かってくるかどっちかである。

 今、目の前にいる盗賊は戸惑っている状況で辺りを見回している。


 ――おや、すぐに退かないか。ならば、森にいる方が親玉のようだ。

 


 「ナナバ、気をつけろ! 森に何かいるぞ」


 「はい! 確かに右奥の森に何かを感じます――正直、怖いくらいに……」


 ナナバも人の気配を感じていた様で、いつになく慎重に身構えている。

 俺には彼女が感じるほどの怖い何かを感じることはなかったが、アサシンである彼女が警戒しているということは相手の親玉は余程手練れているということだ。

 彼女がそう警戒して固く身構えている――この状況はよくない。素早い対応が出来なくなる。


 ――ちょっとナナバには重荷だったか?


 そう思いつつも、これは『チャンスだ』と合理的に判断してしまう自分がいた。 

 もし俺の考えが正しければ相手の行動はなんとなく読める。

 俺は物質変換で長剣を創り出すとそれをナナバ目掛けて押し出すように剣を振った。


 カキン!


 金属音が響く。

 俺の剣先はナナバの首横でぴったりと止めた。盗賊の刃先は俺の剣で弾かれ、刃先はナナバから離れたところで静止している。

 ナナバは怯み反応が遅れてしまい、恐怖で顔を強張らせていたが、幸いどこも怪我はなさそうだ。

 

 「ほぉう……あたしの剣を弾くとはおまえ何物なんだ? ……て言っても普通は答えねえか」


 声がする方を確認すると、そこにいたのは年はバーナードくらいの褐色の美少女だった。

 彼女は茶色のフード付きのマントを纏い、そこから薄紫の髪が覗かせていた。

 彼女の装備は皮の胸当てと小手当て、皮ブーツといった軽量なもので、中は緑色の半袖シャツ、灰色ズボンといったラフな服装だ。

 いかにも女盗賊そのものである。

 ただ、彼女が携えている長剣が飾りっ気がない武骨なもので、実践的な業物である。どこぞで分捕って来たものではなさそうだ。

 それにしても、盗賊にしては剣筋が良い。

 興味が湧いたのでで少し話してみた。


 「あんただって、こいつを殺そうとは思っていなかっただろ? 寸止めもしくはちょっと傷つける程度で、脅し掛けようとした様だが……」


 「おーぉ、恐っ……何ておっかないのが潜んでいたのかねぇ……こいつとんでもない野郎を雇ったみたいだな」


 そういうと彼女は若干後ろに下がり剣を構える。

 彼女から先ほどと違った鋭さを感じた。

 今度は本気で掛かってきそうだ。


 ――まぁ、今回はそういうのが目的ではないのでスマートに話を進めて行こう。

 

 「おい、そこの姉御。俺はこいつらに雇われた訳ではないぞ」


 「はぁ? どういうことだ」


 彼女は『何を馬鹿な事を言っている』といわんばかりに怪訝そうに俺を睨んでいる。

 そこで、俺はある提案をした。


 「そこで取引といこうではないか。もし俺らがここで退いたら、おまえはいくら金出す?」

 

 「何?」


 「そして――そこの馬車に乗っているおまえ!」


 俺は馬車に乗っている行商人と思われる男に大声を上げた。

 男は警戒しつつ「何かな?」と答える。

 そこでこの男にも面白い提案をしてやった。


 「おまえとも取引だ。もしそこの姉御より高い金を俺に支払えれば俺はおまえを守ってやる――さあどうする?」


 「……えっ?」


 行商人の男はキョトンとしている。そして女盗賊も『はぁ?』という表情で首を傾げた。


 これは俺が咄嗟に考えた『オークション』作戦である。

 これなら大した労力を要せず、手持ち金なしで手軽に稼げる。


 もちろん、そんなの無視して強行する盗賊もいるだろう。

 もしくは拒否されるかもしれない。

 その時は、うちらが退くか、盗賊を倒せばいい。


 ただ、実践的なデモンストレーションができたので、少しは期待している。

 これで俺の提案に双方応じてくれらば、ナナバらにも路銀で苦労させなくて済む。



 ――だからといって俺は盗賊側に付くつもりはない。



 『まさか転生したら盗賊になっていた』――っていう小説があるのかどうか知らないけど、そういう転落人生は送りたくないものだ。

 そこまで自分を堕としたくないし、ナナバを叱責した人間がそんなことしていたら本末転倒になってしまう。

 それなのになぜ『競りを掛けたのかって?』――まあ、普通はそう思うだろう。

 それは簡単な理屈だ。


 基本的に盗賊は金がないから罪を犯すものであって、行商人より金は出せないのである。


 だから、通常では行商人にお金の勝負を挑む盗賊は存在しない。

 もし、行商人がその競りに降りてしまえば、積み荷は大した価値はなく、頭の良い盗賊であれば、競りの金を払うことなく立ち去ってしまうだろう。


 ――もちろん、例外はある。


 その例外もある程度は想定したが、想定外だった場合は、その時点で考えれば良い。

 話を戻す――

 

 「今から競りに掛けるから……さあ、どうする?」


 当然、高く競り上がるハズ……もしこれで暴れるのも良し、そうでないのも良し。

 目の前のナナバが目を丸くして感心している。

 何も殺すとか怪我させる方法じゃなくともお金は取れるのだ。しかも今回はボロ儲け案件だ。


 ――ただ、これだけでは盛り上がりに欠けていた。




 「一番得するのはおまえじゃねえか――やめだやめだ……馬鹿らしい。今回は見逃してやるよ」




 彼女は完全にやる気を削がれ、呆れた表情で剣先を収めてしまった。

 そして部下と思われる連中を掌で合図を出すと彼ら共々森へと消えていった。


 もちろん、盗賊が降りてしまうことも想定していたが、そうなるとちょっとばっかり金額が下がる。

 案の定、行商人は何事もなかったの様に「競りが成立しなかったんで……もういいかな」と身支度を初め出す。


 後になって、もう少し双方を嗾ければよかったっと後悔している。

 これを見たナナバがまた涙目で俺を問い詰める。

 

 「どうするんですか!」


 もちろんその点は問題ない。

 俺は行商人にこう告げた。


 「ちょっと待て。今回の礼金は貰っていないぞ」


 ここまで来ると俺は悪徳業者そのものだ。

 さらに脅しを掛ける。


 「いま、無視していくなら俺らは先ほどの盗賊に『俺らが身を退くからあとはご自由に』と知らせておこうか。それにこの先はどんな盗賊が待ち構えているかも知れないし……」


 行商人が苦み潰した表情で俺を見る。


 「では、成功報酬で如何かな?」


 すぐに俺らに金を出すつもりはなさそうだ。

 つまりこの行商人は、俺らに護衛をさせて、無事搬送場所到着を以て成功報酬として一括で支払うと言っているのだ。

 日銭が欲しい俺らとしてはこの提案に安易に乗るのは良くない。ごねてみる。


 「なら、盗賊を撃退した礼金はもらえるかな。あとは出来高払いで」


 この出来高払いということは彼が言う成功報酬のことだ。


 「つまり、護衛も頼めるかということでいいのかな……」


 「そうだ。どうせ気ままな放浪旅だ。目的地まで付き合おう。もちろん裏切ることなくちゃんと職務を果たすよ。ただ、宿と食事の支給は必要だな。そこらは一般常識的な範囲でかまわん」


 行商人は少し悩んだ表情で俺を見る。

 まぁ、普通に考えても俺とさっきの女盗賊がグルになって金を無心している……とも思い浮かぶだろう。

 だが、俺はさらにこう付け加えた。


 「盗賊を追い払った報酬は金貨3枚で手を打つよ」


 俺は信頼構築で敢えて安めに交渉を始めるつもりだったが、ナナバの奴が――


 「ええーっ!」


――と今にも泣きそうな抗議の声を挙げた。

 金貨3枚――日本で言うなら3万円程度だ。

 彼女からすればもう少し吹っ掛けてもよかったのではないかとヒスってる。

 

 「おたくの仲間が、反対している様だが……」


 「まあ、俺らがしたことはこんなもんだ。それに馬車には大したお宝があるわけでもないだろう」


 俺は荷台をあからさまに覗く様なことはしないが、あらかじめ法術で運搬物は分かっていた。

 食料や貴金属、珍しい物産品などではないが……これは必要としているヤツらからすればかなり価値があるものだ。

 それなのに行商人が1人……ということは、その価値について理解出来ない輩からすれば、奪う価値がないとみなすか、もしくは――

 俺は敢えて運搬物のことを見て見ぬ振りをして、男に確認した。


 「あんた、本当は強いだろ?」


 それについて行商人は嫌な表情で俺を睨む。


 「まぁ……腕に多少の自信はあったけど、さっきの女盗賊相手だったら分が悪かったのも事実だね」


 「あんたの荷物は必要な奴がいたから仕入れたものだろうが、仮にこの荷物を横流ししてもせいぜい二束三文ではないのか? だからあんた1人で行商出来ると踏んでいた。だが、あの姉御は予想以上の強者だった。彼女の目的は大凡この荷物か、おまえさんかのどちらかだな……俺にはおまえさんの価値がどれだけあるのか想像つかないが、仮にその荷物が目的だったらその価値も十分わかっていたのかもな」


 俺はもっともらしい事を言って同意を誘う。

 実は、これには若干話を盛っている。

 先ほどの女盗賊がたまたま狙っただけだったかもしれないという内容は触れていない。

 逆に触れないことで付け狙われたと思わせる方がこちらにとって都合がいい。


 「あの女盗賊は『今回は見逃してやる』って言っていたから、またあんたを襲う可能性はあるよな」


 彼にそう告げたところ、行商人は観念した表情で「分かった。あんたらを用心棒として雇うことにするよ」と手を差し伸べた。


 ――ミッションコンプリートである。


 そこで当面の寝床と食事、路銀の確保が出来た。

 当然、俺も握手に応じ雇用契約が成立したわけだ。

 それでもナナバは不満そうな表情で俺を睨んでいるが、あとから来たバーナードに――


 「あんまりカノンを責めるなよ。おまえがカノンに認められたい気持ちも分かるが、あれが俺らの大将のやり方なんだから従おうぜ」


――と促されると、ふて腐れた表情で納得した様だった。

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