第4話 急襲

 ナナバらの戦闘スキル強化は済ませた。これで簡単に殺されることはないだろう。

 ただ、彼らの戦闘スキルは支援系で白兵戦向きではないので、彼らが活躍できる安全な場所に移動する必要がある。

 先に進む。

 通路は登り階段のところで途切れた。

 上を見上げると階段は天井まで続きそこで途切れている。

 階段を数段上がって天井に手を触れると天板がずれた。どうやら、その先がありそうだ。

 天板をもう少しずらしてみる。上は暗く、人の気配はない。

 後ろから色味がかかった明かりが差す。ガラス窓がある様だ。

 天板を退かして頭をそっと上げて、辺りを見回す。そこは教卓みたいな台の下だ。周りは赤い絨毯が引かれている。

 辺りに人はいないし、警戒法術は敷かれていない。

 台に隠れながら周囲を見回す。台の正面には学校の教室みたいに机と椅子が並べられており、出入口があるのも確認できた。

 背後は大きな十字架に似たオブジェが置かれ、その裏にはスタンドグラスが設けられている。

 このオブジェとスタンドグラスはどこかで見た記憶がある。

 この記憶によるとそれらは『法王庁』を意味するものだと告げている。

 

 ――法王庁教会の講堂?


 法王庁関係の建物だとすると、その割には法術防衛結界は施していない。

 辛うじて『祝福の陣』は敷いてあるが、この陣は相当古く劣化して、幸せ感が若干高揚する程度の効果しかないし、それ以外御利益はない。

 設備はそれなりに手入れされているが、やたら修繕箇所が目立つ。備品の更新もされていないようだ。

 法王庁が直接管理しているとは考えにくい。法王庁は衰退したのか?

 いずれにしてもかつての栄華はない。ただの『古い教会』だ。


 ――御利益がないのに教会として存在しているのか? 信者を騙して金儲けとは嘆かわしい。


 だがを問題はそこではない。

 何故、教会の下に召喚施設があるのか、である。

 あとから召喚施設を設けたという説も否定出来ないが、それならコストを掛けてわざわざ教会の地下に作る必要はなく、新たな場所に召喚儀式用の神殿を設けた方が安上がりである。

 ならば、召喚施設は教会が出来る以前、もしくは同時期に建設したと考えた方がすんなり理解出来る。


 要するに教会が出来た当初は、法王庁が召喚施設を管理していたが、法王庁が何らかの原因によりこの場所に影響力が及ばなくなり、誰かが引き継いだ――そして代を重ねる毎に、『贄を自分の欲望に利用する』等好き勝手に改変したという説がもっとも有力だろう。



 俺は迷惑この上ない召喚の儀式をこれで終わりにする。



 そのためには『建物の破壊』と、その信仰心を煽る『祝福の陣の無効化』、そして『伝承者の抹殺』を行う必要がある。


 まずは『祝福の陣』の無効化を行った。

 逆に、嫌がらせで『呪いの陣』なんて仕込んでやってもよかったのだが、どうせここの住人には無用の長物であるから無駄なことはやめておこう。

 

 次の情報収集に移る。

  

 「おまえら、ちょっとここで待ってろ」


 俺は彼らに教卓の下で隠れる様に指示すると、自ら出入口へ行き、そこから外を覗く。

 同所は大広間となっており、その先は大きな扉が設けられている。ここは玄関ロビーの様だ。

 ロビー中央まで進み、そこから後ろを振り向くと、講堂と講堂両脇に通路2本があった。

 確認するのは玄関の外と右側、左側通路の先……ここから先は再び蟲を使って偵察する。


 まず一つ目の蟲を玄関から外へ。すでに辺りは真っ暗で歩いている人はいない。この蟲はここで待機させる。


 二つ目の蟲を講堂右側通路奥へと進ませる。

 そこにはここの神父だと思われる男が裸で寝ており、脇には同じく裸の若い女が男にしがみついて寝ている。その女は清楚系ではなく派手な感じの女性だ。

 聖職者というよりかは生殖者なのだろう。

 しかも彼らの持ち物を確認するに貴金属類が多数検知できた。まったく良いご身分だ。

 また、彼らから法力は感じられず、召喚儀式関係者……エセ神父である。

 今回は拘束するまでもない。それにここは破壊する予定である。

 だから、このままずっと寝ていてもらおう。

 俺は蟲を経由し数日間は眠り続ける強烈な睡眠法術で彼らの足止めをした。


 そして三つ目の蟲の出番である。

 それを使って左側通路へ向かわせると、奥にはトイレと階段が確認できた。トイレは誰もいない。蟲をさらに階段へと上らせると、そのまま最上階にたどり着く。

 同所は鐘楼だ。

 六角形のドーム状の天井から西洋式の鐘がぶら下がっていた。鐘楼の床面から鐘の底辺までの高さは概ね3メートル。人が立ち上がっても全く問題はない。

その屋根は六本の柱が屋根を支えており、吹き曝しで壁や窓はない。一応、転落防止のための柵が周囲に巡っている。

 視線を床面に移すと、奥行きは縦横共に概ね8メートルの石畳になっていた。人が寝そべっても問題はない。

 吹き曝しのところから蟲を外に飛ばしてみる。教会スタンドガラスがある壁側が見えた。反対側は屋根となっている。同所に階段等はない。

高さ的には5階建てビルくらいの大きさか。けして高いとはいえないが、周囲の建物が平屋もしくは2階建てなので見晴らしは良い。

 高台の見張りとして使えそうな作りでもある。今の時間帯は夜間で肉眼ではよく見えないことから見張りを配置していないのだろう。


 あとは彼らがこの場所から逃げられる経路を確認する。


 スタンドガラス側には昇降する為のステップや梯子はなく、同所からの逃走することは不可能である。その一方、反対の屋根側を確認すると、最上部は人が歩ける通路になっているが、下に降りる階段はない。通路の途中、途中に丸輪の金具が設置されていたので、非常の際はそこにロープで縛り下に降りるしかない――逆を言うと簡単には下から屋根に上ってくることはできないということだ。

 

 しばらく時間は籠城できるな。このドームでナナバ等を配置させるか。


 安全を確認したので俺は待機していたナナバ等を呼び出し教会内部の説明した。

 その上で、彼らに上に行かせて階段の所を結界で封じた。

 ケアレスミスが起きる前に役割を与えよう。


 「俺は下で白兵戦を仕掛ける。おまえらはこの建物で作戦遂行しろ――まずナナバ」


 「はい!」


 「ナナバの役割は昇ってくる敵を殲滅すること。階段付近で潜伏して待機して、昇ってきた敵を確実に潰せ! 一応、階段には登れないように法術結界をしかけておいた。もし1人で処理しきれない場合は無理をせずバーナードのところまで退け。そこでバーナードを守れ」


 「わかりました」


 「次、バーナード」


 「ハイよ」


 「お前はこの場所で敵を狙撃しろ。もしナナバがお前の所まで退いてきたら、お前は覚悟を決めて銃を使え。連射レバーに切り替えて殲滅しろ」


 「それはわかったが――カノンさん1人で白兵戦大丈夫か」


 「自信がなければとっくにおまえ等連れて逃げているわっ、だから安心しろ」


 彼らは一丁前に俺の心配をしている様だが、本音を言うと、こいつらがどれだけ俺に貢献できるのか疑問である。むしろ俺の邪魔になる可能性だってある。だったらここで大人しくしてもらう方がいい。

 とりあえず無難にそう答えておく。


 ――ただ、万が一のことがある。


 それは俺の予想外にアイツらが頑張りすぎた場合だ。

 この場合も困るので予備作戦も伝えることにした。


 「……念のためにもう一つの作戦を説明しておく――」


 ――さて作戦開始だ……おっと、その前にしておく必要がある。


 それは蟲の回収だ。

 そのままにしておくと、そのまま情報が送られ続け、集まり気が散るからだ。

 もし俺が作戦司令だけであれば情報は多ければ多いに越したことはない。

 だが、俺自体が実行部隊も兼ねている。蟲が集めた情報で気を散らされたら、戦闘中に隙が生まれる。だから配置した蟲はすべて回収した。



 これで準備は整った。それでは戦闘を開始する――



 俺が戦闘する相手はこの村の兵である。だから兵舎に急襲を掛ける。

 場所はすぐにわかる。

 入口で武器をもった屈強な男がいる場所を狙えば良い。仮にその場所が違うところであったとしても、その場所はその地区の重要な場所を守衛しているハズなので、それはそれで構わない。

 俺は、守衛している男を気配を消して背後から回り、喉元を切り裂いた。

 あとは簡単だ。

 火炎法術を使い建物を燃やすだけだ。

 当然、そこが急襲されたのだから、仮眠していた兵士等が一斉に起き出すが、時は既に遅し。彼らは業火に焼かれていく。

 その作業が終了したら、さらに似た様な場所を同様に急襲していく。


 ただ、火災が2カ所であがると3カ所目以降はすでに兵が警戒しており、非番兵や予備兵も参戦してくるだろう。10名以上相手にすることは当然のことだ。

 そこからは片付けるのは難しくなるが、そこで作戦を予定どおり切り替える。


 ここから肉弾戦である。


 両手に法術剣であるクリスタルブレードを展開させ、1人1人片付けて行く。

 まずは喉元を切り裂き、胸元に突き刺し、頭から縦に切断……どんどん敵をかたづける。

 剣士、アサシン、法術剣士――それらの記憶があるので非常に楽だ。


 敵をバッサバッサと切りつける。


 人の記憶だけでここまで身体が動くとは気持ちがいい。

 もちろん殺したヤツらには申し訳ない……という罪悪感はある。だがその一方で、『一歩間違えれば自分らである』と理解しているので割り切りも早かった。

 ここは作業と割り切って、無心で片づけていく


 ……だが、一つ困ったことが起き始めた。


 イマイチ違和感を感じるのだ。

 その違和感は俺の判断行動を躊躇ためらわせる。


 どこかで罪悪感を感じているのか?

 小学生の俺が強い拒否を示している……という訳でもないらしい。

 どうもその違和感が気持ちが悪い。


 何かが変だ。おかしい。


 とりあえず疑問が判明するまで黙々と作業を続ける。

 すると身体を動かしてみてようやく違和感の正体がわかってきた。


 どうしても間合いが微妙にずれている。

 その上、肩で息をする様になってきたのだ。


 ――こんな経験は……今までない。


 敵を1人殺し、2人殺していくと、段々剣先がずれだして致命傷を与えにくくなってくる。それでも身体補助法術を使い2倍の動きをすればとりあえず対応が出来る。


 そして息切れである。


 倍動けばそうなるのも当然だ……いや、補助法術を使っているからそれはない。

 身体が思ったとおり働かないのである。

 ただ、このままだと俺のスタミナが切れる。


 緊急事態である。


 そこで身体の動きを補助する法術を展開する。

 2倍……いや3倍に身体が動ける様加速する。


 何故だ、何故なんだ。


 過去の記憶に問いかけるが、そういう経験はない。

 では、今の俺がその原因を考えるしかない。


 身体が鈍い、間合いが取れない、スタミナの消費が激しい――ヒントはそれだけだ。


 法術関係も原因として考察するが、それを考慮すれば可能性が色々出てくる。

 ……が、今回はそんなに難しい問題ではなさそうだ。

 

 幸い、俺がこうして戦っている間に、バーナードの放つ矢が敵の動きを封じてくれている。

 この場所から鐘楼まで概ね100メートルか。それだけ離れた距離でよくピンポイントで当てられると感心はするが――ただ、それだけ離れていると矢の威力が落ちているので即死とまではいかない。

 頼むからそんな旧式の武器を使わないでくれ。

 それに、刺さった矢の方向からおまえらの場所を特定されてしまう。

 案の定、1人の兵が教会を指し示した。


 やはり、不安は的中した。彼は自分の得意分野で頑張り過ぎたのだ!


 俺は直ぐさまその兵の首を切り落としたが、他の兵に悟られるのは時間の問題だ。

 俺の方は、まだ違和感だけで押されている状況ではなかったが、この兵達をいつまでも構っているほど暇ではない。

 ここからさらに乱暴な手段で駆逐する。

 この地区一帯を強力な爆裂法術を展開させることにした。


 轟音と共に周囲50メートルは吹き飛ぶ。兵士等は兵舎ごと吹き飛んだ。


 もちろん俺自身も爆風で吹き飛ぶが、その際に全方位型の防御法術を展開させており、無事にその場から離脱した。

 当然、轟音で住民が一斉に目が覚め、大騒ぎとなるので、アサシンの潜伏スキルを使って気配を消す。


 ――ここまでは想定内だ。


 騒ぎになれば生き残った兵士等は教会の鐘楼に向かい、村の状況確認を開始する。

 状況を確認するくらいなら少数で向かうハズだ。

 玄関にはあえて結界を張らなかった。はじめから結界を張っていては『ここが怪しい』と相手に教える様なものだから、中にはすんなり入れる様にした。

 ナナバらには悪いが、とりあえずそこで対応してもらう。

 少しぐらいは時間稼げるか?



 しかし、その想定もズレた――教会から小銃の音がする。



 余程の事態が起きたのだろう、あれほど彼が渋っていた銃を使ったのだ。

 事態は緊急と思われる。

 それにしても展開が予定よりかなり早い。


 バーナードの奴は俺の場所以外でも矢を射っていたのか?

 あいつ、本当に弓のスキルは優秀だ。だから使えねえ……


 俺は彼らの救助のため、身体強化法術で加速し、民家の屋根に上り伝って教会の屋根に向かう。

 その際に兵士等が一斉に教会になだれ込むのが確認できた。


 さて、ここからナナバ等に指示した予備作戦実施である。


 俺が口笛を吹くと、機銃の音は止み、2人は鐘突きドームから屋根に飛び降りた。


 「わりーっ、しくじった!」


 「何やっているのよこの馬鹿っ!」


 気まずそうに詫びを入れるバーナードに対してナナバは彼の頭を小突いた。

 俺も八つ当たり的にバーナードを小突いてやりたかったが、冷静に考えれば、彼の実力を確認しないまま、弓を使わせた俺が悪い。

 完全に俺の作戦ミスだ。

   

 「おまえらよくやった。あとは予備作戦を実行する」


 俺は彼らの襟首を掴むとすぐさま、その場所から離脱する。


 「ずらかるぞ、首の血管を守るため顎をさげろっ、力一杯に」


 「お、おう」「わかった」


 とりあえず加速、加速、加速、加速……どこまでも彼らを引きずって屋根伝いにその場から離れた。

 そして、教会から2キロ弱離れた場所、村の外の丘あたりまで避難すると、予め準備仕込んでいた法術を展開させた。


 ガガ――ンと大きな地響き。


 教会の周囲が一斉に中心に集結圧縮される。重力爆弾だ。

 教会に一斉に集まった連中と寝ていたバカ2人は重力に押しつぶされて一網打尽なる。

 これで問題の建物を破壊し、兵の大半はかたづけられただろう。

 


 ――さて、まだやるべき事がある。



 丘から村の様子を覗う。

 村の中央に大きな窪みが見える。そこが教会の跡地である。

 村の至る所で火災が発生し、大騒ぎになっている。

 この村の建物は基本石造りであるが、内装には木材が使われているハズだ。

 その場合は彼らの家にも火が回ることだろう。

 

 実に気の毒な状況だ。


 爆発や火災、兵士の死体を見れば相当パニックに陥っているハズだ。

 住民は一斉に村の外に逃げ出そうとするだろう。

だが村の周囲に村を守る為の城壁があり、東西南北に村に出入りするための門が設置されている。夜間の為、門は閉じられている。

 当然、そこから村外に脱出しようとする者も出るだろう。

 門を開放されて、召喚儀式関係者が逃げられては元も子もない。



 だから――ここの住民は一切、外に逃がさない。



 「バーナード、誰一人外に逃がすな。門を開けないようにしろ」


 「えっ、さっきは慌てて使ってしまったけど……これってどう使うんだ」


 バーナードは小銃を俺に差し出した。


 「いいから言うとおりにヤレ! 単発に切り替えてスコープを見ろ。おまえは俺の援護をできたのだからそれを使えばできる」


 「届くのか? 射程距離が短いと先ほどみたいに致命傷を与えられないし、届かないと逃げられてしまう。少なくとも村の奥外まで余裕で届くとありがたい」


 さすがにそれは自覚していた様だ。

 ならば、射程距離を伸ばす様に強化する。

 

 「ちょっと貸せ。それを強化する」


 俺は彼のライフルを受け取り強化を施した後に返す。


 「これで村の反対側まで届く。壁や建物にも影響せずに貫通する」


 「真っ直ぐ?! 角度は計算しなくていいのか?……ならば、問題ない。もっと効率が良い方法があるので任せてくれ」


 バーナードはうつ伏せになり、門を狙っている。

 

 「正直、この武器にどこまで精度があるのかわからんが……やってみるか」


 「あわてて撃つ必要は無い。ゆっくり狙え」


 彼は親指を突き出し無言で狙撃ポイントを確認する。

 弓矢であの距離を撃てるのだから、これならもっと先を狙えるはずだ。

 とりあえず、ここは彼に任せよう。


 あとは、ナナバだ。ヘロヘロなってその場に座り込んでいる。

 しかも軍用ナイフをずっと握り締めたまま緊張感を維持している。

 ナイフを見ると、血がついており、彼女はバーナードを必死で守っていたのだろう。


 「ナナバ、よく頑張った。感謝する」


 「い、いえ……まさかあんなに早く騒ぎになるとは思いませんでしたから」


 「それは俺の作戦ミスだ、すまん」


 「ミスなんてしていませんよ。とりあえず脱出できましたし。それにまだ終わっていませんから」


 彼女はまだ戦う気でいる。

 今回の作戦で予想外の事態になった責任は、俺自身にある。

 それは後で改善するとして、今は後処理が優先だ。


 俺はそう考えていた時、――バス、バス、バス、バスと計4回の発砲音が下から響いた。


 バーナードが抱えた銃口から硝煙があがる。

 何故4回なのか。しくじったのか?

 バーナードを見ると、彼はそのまま寝そべったまま、俺の顔を見た。


 「これ、いいな。スゲーや……」


 「しくじったのか?」


 俺の問いに、彼はニヤッと笑い自信満々に答えた。


 「まさか。東西南北の門の開閉装置を破壊した。しばらくは開けられないはずだ」


 彼はそういいながら、さらにスコープで村を睨んでいる。

 これに早速ツッコミを入れたのはナナバである。


 「アンタなに格好つけて大嘘ついているのよ! そんな望遠鏡で壁の裏にある開閉装置まで確認できないでしょ!」


 ナナバは彼の頭をコツンと叩いた。

 彼女の言う望遠鏡とはスコープのことである。

 このスコープは5キロ先まで見通すことができる品物であるが、それ以上特殊な仕様にしていない。彼女が言うとおり、そのスコープではそれは不可能だ。

 でも、俺は彼は弓の狙撃スキルを与えている――もちろんそれには『物に隠れている狙撃対象の正確な位置』を把握出来る能力が付与されている。

 だから狙おうとする隠れた狙撃対象を正確に狙えるのだ。

 俺は実際に千里眼スキルを使って、各門の状況を確かめる。バーナードの放った弾は、門の石垣を貫通させ、開閉させるための木製歯車を丁度いい角度で破壊しており、破壊された歯車が違う歯車に挟まって固定されていた。

 これはちょっとやそっとじゃ直せない。つまり門を開閉することは出来ない。

 

 こいつは本当に優秀だ。やはり優秀な人材には適切なアイテムを与えるべきだな。

 もし俺が何かの部隊を作る時にはこいつもスカウトしよう……

 

 「ナナバよ、もう少し兄を褒めてやれ。バーナードの腕は確かだ……これでは容易に動かないな」


 「はい……お兄ちゃん。え・ら・い・わ・ね」


 彼女は俺に促されて渋々彼を褒めた。

 一方で、バーナードは小突かれた頭をわざとらしくさすりながらスコープを睨み続けている。


 ――こいつら、あんまり仲良くないな


 「カノンさん。あとは逃走者を始末すればいいんだね。任せてくれ」

 

 でも、これで村人ほぼ全員閉じ込められた。

 

 あとは立体映像を村の教会跡辺りに映させ、彼らを審判にかけるため村人全員を明日、教会跡地に召集させることとしよう。

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