2-7

 目を閉じてみたけど開いてくるので、薄目を開けたまま、身体が浮く感覚に意識を持っていった。風に乗る。空気になる。私がなくなる。

 集中するのは「中」じゃなく、外。

 集中とは真逆かも知れない。無我。瞑想。

 坐禅やヨガに似てる?

 あ、いかん。また我に返っちゃった。

 改めて手を広げて顔を上げて、息を整えた。


 ゆっくり、深く、長く、息を吐く。

 吐いて、吐いて、吐ききる。

 すると。

 新しい空気が、すうっと鼻から入ってくる。


 またゆっくりと吐く。吸う。吐く。深く。身体の芯に空気を入れる。

 新しい空気に自分が溶けていくようなイメージが脳裏に浮かぶ。

 吐く空気に私が消えていく。

 入る空気に私が流れていく。

 私が溶けて、透けていく。

 空気の中に私が在る。

 大気が在る。

 空が広がる。

 広げる。


 空気が動く。

 風が吹く。

 気が集まる。

 熱が起こる。

 温かい。

 熱い。

 昇る。

 溶ける。

 大気が。

 冷える。

 冷たい。

 縮む。

 固まる。

 重い。

 落ちる。


「あっ」


 誰かが呟いた。

 耳鳴りがした。

 呼吸が響いた。

 息を飲む。

 まばたきする。

 空が見えた。

 鼻から息を吸う。

 口から吐く。

 立っている。

 手足がある。

 私だ。私が在る。

 雲だ。

 青くない。

 いつの間にか暗雲を広げている。

 水滴が、顔に当たった。

 また当たった。

 次々に。

 無数の水滴が落ちてくる。


 雨。


「雨だーっ!」


 歓声が湧いた。急激な声の波に押されて、身体がよろめいた。身体が重い。いや、だるい?

「危ないっ」

 背後で誰かが小さく叫ぶ。可愛らしい女の子の声。

 でも私の腕を掴んだ手はガッシリと大きく感じられた。誰なのか見えない。私が目を閉じてるせいだ。

 いや、ちょっと待って、これ、また気絶の直前か、もしかして?


「よくできました」


 どこからともなく優しい声が響いた。

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