2-6

 これ絶対……皆さん、決死の覚悟でしょうよ。必死な顔だよ。

 そんな、いつでも簡単に降らせてもらってる訳じゃないよ、きっと。

 いとも簡単に雨を降らせたっていうけどさ。でも、その雨乞いは毎回じゃないでしょ。最後の手段でしょ。

 だとしたらミコ様のスキルとしても、これは「いとも簡単」なことじゃ、ないんじゃない?

 ほいほい降らせられるなら、ここまで民を放置しないんじゃない? もっとお手軽に皆を救うもんじゃない?


 そうしない、できない理由が能力的なことじゃないのだとしたら、何なんだろう?

 政治的な策略みたいな? 本当はいつでも簡単にできるけど、もったいつけて、やってあげない……みたいな。

 だとすれば嫌味男が場を牛耳ってそうだ。実際、あの人に洞窟へ放り込まれて死にかけたし。

 でもヤツは今、大人しく下から見上げて、雨を降らせて下さい〜なんつって、拝んで来てるし。なんなんだ、まったく。どっちのが立ち位置が上なんだっつーの。

 なんて思って眺めたせいか、嫌味男と目が合ってしまった。

 うわ、イヤダイヤダ。目が腐るわ。


 すると向こうは、一瞬、ニマッと笑ったのだ! 絶対見間違いじゃない、今、笑った。

 でも反応してやらない。したくない。

 あれ絶対、何か企んでる顔だ。


 洞窟に転がされた時だって、アイツは言ったじゃないか。

『ツウリキを失くしているなら、処刑する』っていう、アレ。

 何か上手いことやれて無罪放免になったのかなって勝手に思ってたけど、アレは今でも続いてるんじゃないだろうか?

 ここで雨が降らせられなかったら、私、処刑されるんじゃ?

 まさかと思うけど、あの洞窟での出来事を思い出すと、コイツならやるなって思える。冗談通じない顔だ。

 そう考えながら隣に座る男の人を見ると、よく分かる。心配してくれてる顔だってことが。やっぱ、あの人は味方だ。

 ただし嫌味男には逆らえない人なんだ。


 悔しいから、雨を降らせたい。

 それもあるし何より、皆を救いたい。

 干からびている土地に水をあげたい。

 現代の日本だって水不足やら節水やらと色々あるたび大変そうだけど、まだ、それがために人が餓死したってのは、聞いたことがない。ひょっとしたら、あるのかも知れないけど。

 もし現代でも起こり得る事態なら、こんな世界でなら、もっと重大事件じゃないか。水がない、なんて。

 日本以外の国では、しょっちゅう聞くことだ。


 雲の気配は、からっきし。

 身体のどこに、どうやって力を籠めれば神通力なんてものが出てくるのかも、さっぱり見当がつかない。手の先にまで力を込めて緊張してみたけど、何も感じない。お腹の底から声を出すイメージで腹筋を絞めてみたけど、力が湧いてくる感覚はない。

 だいたい死にかけてた洞窟の時だって、あんな状態で込められる力なんて、なかったし。何をどうして、どうやって助かったんだか、さっぱりよ。


 むしろ死にかけないと出ない力だったりして? 神通力ってぐらいだもん、神様に近くならないと出ないんじゃないか? だから幽体離脱みたいなことになってたんじゃない?

 この身体、洞窟に閉じ込められたせいで痩せ細ったかと思ってたけど、元々細かったんだよね。草原で意識を取り戻してから割とすぐに追いかけられたせいで忘れてたけど、あの時の私も空腹だった。


 忘れてた。空腹。

 思い出してしまった。ご飯、食べてないんだよな。

 でも絶対、皆の方が食べてない。きっと私に貢いでくれてた。雨を降らせてもらうために。

 だとしたら、普通に食べてた私の様子を、食べずに見守っていたヒタオたちは、どんな気持ちで見ていたのだろう。

 雨を降らせられなかったら殺してやるぞ、ぐらいに憎しみながら見ていたとしても私、文句言えないんじゃね? あの嫌味男に嫌われるよりは、よっぽど道理が通るわ。


 ぼんやり、お腹空いたなぁと考えながら、空を観る。

 けど、消化の良いもの食べてたからか、この身体が空腹に慣れているのか、考えないようにしたら、空腹感は消えてなくなる。

 考えない。考えない。

 皆の呟き、うめき声。風の音、匂い、臭い。観えている空の色、雲の形。意識を、飛ばす。


 あ、何かちょっと分かったかも。


 って余計なこと思った瞬間に、足がズドンと重くなった。いかん、やり直しだ。

 だからかな、この身体の主は死にかけようとしていたんじゃなく、魂の飛ばし方として、身体を軽くしようとしていたのかな。確かに身体が軽い方が飛べそうだもんね。

 何かちょっと違う気もするけど。


 違和感を感じるけど、今は意識を飛ばす方法にチャレンジしてみよう。

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