2-5

 眼下で私を讃えてくれてる方々に、手を振ってみる。湧き上がる歓声。

 気持ち良い……なんて思えない。彼らの期待に応えなくちゃいけないのだ。

 私は手を広げながら、じりじりと後ずさりした。さぁ始めますよ〜ってな体を取ってみたけど、何も起こる訳がない。

 雨乞いって、どうすれば良いんだろう。

 背後に控えているヒタオを、そっと振り向く。と、察して、ヒタオが耳打ちしてくれた。


「以前のミコ様なら、空に願うだけで雨を降らせておいででした」


 マジか。


「願っ……うだけって……空を見るだけ? 火を焚いたり、何か木の枝を振ったりとかしないの?」

 思わず大声を上げそうになり慌てて小声にしたけど、下の人たちに聴こえただろうか。あの嫌味野郎に聴かれてなかったら良いけど。

 私の質問に、ヒタオが怪訝な顔をした。

 あっ、そういうのはナシなのね。

「先ほどなさったように手を広げられ、空に祈っておいででした。とても神々しいお姿で……」

 と言いかけて、尻すぼみになるヒタオの声。うなだれ、頭を下げてしまった彼女は、もう話しかけても応えてくれない。

「あ、ちょっ……。ねぇ」

 などと困った声を出す私は、さぞかし神々しさがないことだろう。

 が、どれほど凄かったのか分からないけど、あまりに今の私が情けなくて話す気も起きないのだろうか。

 きっと、自分たちの食い扶持を減らしてまで世話してるのに、だもんな。


 だって。

 祈るだけとか、訳わかんない。

 超能力の世界じゃん。ってか超能力だって、そこまでの、そんな能力なんてアニメにもないんじゃないかな。やれてもストームぐらいじゃね?

 ただし何も分からないなりにも、断片的な情報ではあるけど、なんとなくは想像できる。

 ツウリキ、という言葉。

 これは……神通力じんつうりきの略じゃないだろうか。

 神様がかってるって考えたら、モーゼレベルは出来そうだもんね。雨を降らせられるなら、そりゃ海なんて真っ二つでしょうよ。聖書の絵本でぐらいしか見たことがないけど、モーゼだって手を広げてただけよなぁ。

 なんて考えながら、手を広げてみる。

 おお……と、どよめきが上がる。

 なにやらゴニョゴニョと声が聴こえる。段の下にひしめき合ってる皆さんが自ら、めいめいに祈っているのだ。どうか、と聴こえる。雨を……と。


 できるものなら、やってあげたい。

 見渡した感じ、水の気配が見当たらない。この広場の向こうに畑らしきものが見えるけど、干上がってる。その向こうには森が迫っているけど、瑞々しさが感じられない。

 けど木々が枯れ果ててしまうまでには、至っていない。そこまでになっていたら、森の前に人がやられていることだろう。ひょっとしたら見えないところで、もうバタバタと人が死んでいるかも知れない、とは思うけど……。

 皆さん、痩せこけている。お年寄りばっかりみたいに見えるけど、実は案外若いんじゃなかろうか。子供の姿はない。家にいるのかも知れない。そうであって欲しい。


 みんなが固唾をのんで、私を見つめている。

 前任者……って言い方もおかしいんだけど、この身体にいた前の子は、ここに立って一瞬で雨を降らせたんだろうか? どれだけ見上げても、どこからも雨が降りそうな気配がないんだけど。

 それとも私の手から水が湧き出すような、そんなカラクリでもあるんだろうか?

 それだったら、科学的に超能力ジャンルでアリな気がする。H2Oじゃん。空気を温めるとか冷やすとか何かして、水蒸気を発生させて集めれば、水になるよね!

 なんか出来そうな気がしてきた!


 ……出来る訳ないし。


 もし出来たとしても、ここにいる皆さん全員の喉を潤すほどの量が作れる気がしない。

 いや本当に出来るなら、ほんの少しだけでも今すぐ作るべきだ。どこか寒いところで火を起こして、それから空気を冷やす。結露みたいな。ガラスとかないのかな。ないよな。

 ってか今、夏だし。

 寒いところって。洞窟とか?


 いや、それなら、その前に地面を掘る方が早いよね。地下水とかないのかな。穴を掘って……。

 ……誰が掘るの。痩せこけた皆さん?

 これだけ祈られてる前で。

 雨を降らすこともせずに。

 さぁ皆さん、穴を掘りましょう、って?

 そもそも地下水ぐらいのことは、この世界の人たちだってやってるんじゃないかな。その上で、それでも水がなくなって、こうなってるんじゃない?


 それとも、そんなにホイホイ簡単に神頼みする世界なの? ここは?


 こんなに必死に?


 毎回?

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