偽の胸像 作:糸乃蜘蛛

 静かにこちらを睨み付けてくる無数の顔。

 銅像のみが捨てられている異様な光景。

 昼の間は不気味な青錆びの山に過ぎない、忘れ去られた著名人たちが、夜になると動き出すという、小学生でも思いつくような怪談が伝播したのはいつからだっただろう。

「地面に頭をぶつけていた髭のおじさんの胸像が、次の日には山の頂上に鎮座していた」だの、「銅像たちの下敷きになり青い右手のみが衆目に晒されていたはずなのに、ふと見ると日の光にあたっているのは左手だった」だとかが尾鰭をつけつつ泳ぎ回り、銅像たちが月の31日深夜に大宴会をしているというところに落ち着いた。

 肝試しには絶好の材料である。7月31日、高校生の男女4人が銅像の山を一周し、手の生えた銅像と握手して帰ってくる会を企画した。

 1組目のカップルは問題なく帰還した。2組目のカップルは月が変わっても帰還しなかった。

 銅像の山の中から救出された2人の焼死体は、ブロンズの腕と手をつないでいた。男の右手に繋がれていた右手はこう言った。

「私の体は、腕が一本しかないのだよ。ぜひとも君の腕を持ちかえらせてもらいたい」

女の左手に繋がれていた左手はこう言った。

「私の体は、憎き右腕が乗っ取っているのだよ。同志よ、右に傾いた体が憎くはないかね?」

実は、数多の銅像の上に鎮座していたのは、両腕がもがれている年配の髭男であったのだ。

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