認知バイアス


 認知バイアス。それは自分の思い込みや周囲の環境といった要因により非合理的な判断をしてしまう心理現象のこと。本でこの言葉を知った私は、考える。もしかすると、私は知らず知らずのうちに自分の思い込みで非合理的な判断をしてしまっているのかもしれない。


「世の中知らないことってたくさんあるよね」


 私はこの気付きを親友であるミクに話していた。


「そうね。知らないことの方が案外知ってることよりも多いのかもしれないわね」

「確かに……」

「ねえ、リサ。知ってる知識を増やしたいと思わない?」

「思う!」

「今私の尊敬してる先輩がセミナーを開くんだ。良かったら一緒に行かない?」

「行く行く!」


 知識を増やせば認知バイアスが弱まるかもしれない。ミクが尊敬してる先輩が講師だっていうし、信頼できそう!私はミクと一緒にセミナーに行くことにした。






 私たちは自分の価値観や経験から物事を判断している。強い意志がなければこれらを疑問視して選択を変えることは難しい。

 怖いよね。自分の判断が間違っているかもしれないって思ったら。根底から覆されるような、足元がガラガラと崩れ去ってしまうような、そんな恐怖に駆られるよね。私たちは、そこに寄り添ってつけ込む。

 リサが友人のメイから借りたという本。それは私たちの撒き餌だ。これで獲物の心を揺さぶる。認知バイアスを知ったところで、不安定な精神状態では正常な判断は困難だ。グラグラになった心で、親友から救いの道が示されたら、藁にもすがる気持ちで掴んでしまう。そういった流れだ。勿論メイは私側の人間だ。セミナーに上手く誘い込んで、手数料を頂く。

 結局のところ、認知バイアスを弱めることなんてできないんじゃないかな。自分以外の誰かに頼っているうちはさ。ね、リサ。能天気に笑うリサに私は笑った。


Fin.

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