死んだ兄弟
双子の弟、
「
母親の声が優しく鼓膜を撫でる。母親に抱きしめられて、俺はその温かさに目を閉じた。
翌日、学校に行くとクラスメイトが集まってきた。
「大変だったな」
「まさか奏くんが亡くなるなんてね……」
「辛いことがあったら何でも俺に言えよ!」
「抱え込むのはよくないからね、いつでも頼っていいのよ」
慰めの声を一身に浴びる。俺は眉を下げて曖昧に笑う。
「ありがとう、皆。でも俺は大丈夫だよ」
クラスメイトの同情や哀憐の眼差し。その中でも、一際心配そうに俺を見つめる女子生徒がいた。彼女は俺の恋人、音羽だった。
「湊くん、本当に大丈夫?」
放課後。音羽と二人で帰路を進む。控えめに、しかし真っ直ぐな眼差しで言葉を紡ぐのは俺に対する愛情からだろうか。心配そうな彼女に俺は震える唇で笑いかける。
「音羽、心配してくれてありがとう。奏がこの世にいないなんて今でも信じられなくて……。実のところ、まだ実感がわかないんだ。……辛かったら、音羽を頼ってもいいかな?」
「!……勿論!私でよければいつでも頼ってね」
少しばかり頬を染めた音羽は愛らしい笑みで俺に言った。俺は彼女を家に送り届け、自宅へ帰った。玄関のドアを開けると、スパイスの匂いが鼻を刺激した。
「ただいま」
「おかえりなさい。今日は湊の好きなカレーライスよ」
母親が笑顔で俺を迎えた。俺は口角を上げてそれに応えた。
「母さんのカレー、久しぶりだなあ」
手際よく用意された夕食を食べる。母親の口数がいつもよりも多い。俺を気遣ってのことだろう。こんなに母親と会話を交わしたのは久しぶりだった。
食事を終え、俺は自室へと戻る。
「……ふう」
大きく深呼吸をする。けれど口角がつり上がるのをもう隠せなかった。思い切り笑ってしまいたいのを堪えるのに必死だったが上手いこと振る舞えたのではないだろうか。今日一日、誰一人として気が付くことはなかった。クラスメイトや恋人、実の両親でさえも。僕が奏であるということに。生前の湊は言っていた。
『俺と出来損ないのお前では雲泥の差だ。お前がいなくなったところで誰も悲しまないさ』
と。だが現実はこうだ。湊、お前がいなくなったところで誰も気付かないし悲しまなかった。出来損ないの僕でも演じてしまえるような薄っぺらい人間だったんだよ、お前は。
「ざまあみろ」
渇いた笑いと共に吐き出した言葉は部屋に溶けて消えた。
Fin.
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