隠れた彼女


 私は毎朝、彼女を見つめる。彼女は濃紺のドレスを身に纏い、常に凛としている。ドレスも綺麗だが、一番は彼女の肌だ。白く、美しい。ドレスがそれをより一層引き立てている。私は力強さすら感じる彼女の姿をうっとりと見つめるのが毎日の日課であった。

 しかし、ある日から彼女の姿は隠れてしまった。原因はあれだ。私の窓のすぐ近く、高々と聳え立つタワーマンション。私の絶景は遮られてしまったのだった。私は沸々と湧き上がる怒りに身を任せた。






 新設されたばかりのタワーマンションで爆発が起こった。幸い入居前のことだったので死傷者はいないという。犯人はすぐに捕まった。マンションの近くに住む老人だった。彼の犯行は実に明白であった。マンションが建設され、自宅の窓から見えていた富士山が見えなくなったからだそうだ。

 現在、爆発の起こったタワーマンションは建て直しが行われ、次々と引っ越し作業が行われていた。


「まあ、綺麗な富士山」


 引っ越してきたばかりの若い夫婦が窓から見える絶景に目を輝かせる。今日も富士山は変わらずそこに凛と立っている。


Fin.

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