第7話 そういえば学校とかあったね
朝目が覚めるとベットの傍らにサキが立っていた。
「うおっ!」
俺は驚いて飛び起きた。
「な、何してんだよお前!てかどうやって入った?」
昨晩は一応部屋の鍵をかけてから寝たのだ。
なのになぜ、こいつは目の前にいるんだ。
「霊力を使えば壁くらいすり抜けられるわ」
つまり俺はサキの部屋に入れないけどサキは俺の部屋に自由に出入りできるってことか。
なんかズルくね?
「じゃあ何しに来たんだよ。もしかして俺を襲いに来たのか?」
昨日の朝、サキが俺にかけてきたのと同じ疑いをかけてやった。
サキの顔がみるみる歪んでいく。
「確かに襲いに来たけどアンタの顔見てると違う意味に聞こえてくるのよね。私がここに来たのはアンタを殺すためよ。寝たら守護の印が弱まらないかなとか一晩中攻撃し続けたら突破できないかなとか試してたわけ。無駄だったみたいだけど」
え、てことはこいつは一晩中俺に向って鎌を振り下ろしてたってこと?
体力どうなってんだよ。
俺はサキが改めて死神であることを実感した。
時刻は7時30分、学校に登校するまであと30分だ。
命を狙われてるのに学校なんか行っている場合かとも考えたが、他の人間に死神であることをバレたくないサキは少なくとも学校で殺したりしないだろうと思い、普段通り通うことにした。
その間サキを一人で家においておくことになるが、問題はないだろう。
手紙は持ち歩けばいいし、あれだけ探したんだからそう簡単に和室から守護の印突破の手がかりは見つからないだろう。
俺は身支度を整えて教科書類をカバンに詰め込む。
朝飯は食わない主義なので食べない。
しかしサキは違ったようだ。
「ねえ、朝ごはん」
「俺食わねえから作ってねえけど」
サキが不満そうな顔をする。
自分の命を脅かす存在に親切にする必要などないのだ。
昨日はうっかり食事を提供してしまったが、これからは気を付けよう。
「じゃあ自分でやるからいい」
止めても無駄なような気もするので「そうしてくれ」と言い、俺は学校へと向かった。
教室に入って自分の席に着くと、春乃が話しかけてきた。
「ねえ、サキちゃんの様子どう?困ってることとかない?」
春乃はサキのことを心配しているようだ。
昨日の数時間でよほど仲良くなったらしい。
「べつに何もねーよ。強いて言えば洗う皿の枚数が増えたくらいだな」
適当に話を合わせておく。
サキにくぎを刺された以上、うかつに命を狙われていることを話せない。
「ふーん。何か困ったことがあったら言ってね」
「おう、ありがとな」
おそらく相談することはないだろうが。
まだホームルームまで時間がある。
俺は自分の席に戻ろうとする春乃を呼び止めて、ある質問をした。
「なあ、春乃。この住所ってお前のばあさんの家の近くだよな?」
昨日発見した手紙を見せながら問う。
実は登校する途中に書かれている住所が昔遊びに行ったことのある春乃の祖父母の家の近くだったということに気が付いたのだ。
「えーと……そうだね、おばあちゃんちの近くだね、何か用なの?」
「実は野暮用があってこの場所に行かないといけないんけど、ここって駅から歩いていけるか?」
「最寄駅から歩いて20分くらいかな」
バスを使わずに行けるのはありがたい。
田舎のバスは本数が少なくて時間を合わせづらいし、何より俺はバスに慣れてないから乗ることに不安があるのだ。
「わかった、ありがとう」
礼を言うと同時に予令がなったので、春乃は席に戻った。
午後の授業はどうしても気が散ってしまうものだ。
こういう時に窓側の席は外を眺められるからいい。
俺は古典の授業に集中ができず、ぼんやり窓の外を眺めた。
そこには最近よく見る顔があった。
サキが外に浮いていたのだ。
「――っ!!」
授業中ということもあり、何とか理性が叫び声を抑えつけた。
何をしてるんだこいつは。他の人に見られたら大騒ぎになるだろ。
俺はノートをちぎって「騒ぎになる前に帰れ」と書いて窓越しにサキへと突きつけた。
サキは口パクで「他の人には見えないから大丈夫」と言ってきた。
この死神何でもありかよ。
その後、家に帰るまでサキによる上空からの監視は続いた。
帰りのホームルームが終わるまで窓に張り付いていたし、下校中もずっとついてきていて友達の話に集中できなかった。
帰宅してすぐサキを問いただす。
「おい、俺を付け回すのはやめろ」
「はあ?ターゲットを監視して隙を伺うのは当然でしょ?それにしてもアンタ友達少ないのね。クラスには春乃以外仲良さそうな人いないようだし、他は一緒に下校した他のクラスの子くらいかしら。罪悪感を感じずに済みそうでこちらとしてはありがたいけど」
「友達少ないのはほっとけ。てか死神が殺しに罪悪感とか感じるのかよ」
「今までは死にたい人が召喚してすぐ魂刈ってたから罪悪感なんてなかったわよ。でも今回はターゲットは死にたくないっていうしターゲットを殺すことで悲しみそうな人とも接触しちゃったしでちょっと複雑なの」
うつむきながら難しい顔をしてサキは答える。
こいつ実はいいやつなのかもしれない。
「でもよく考えたらアンタがいたずらで呼んだのが悪いのよね。うん、アンタに罪悪感は感じないわ」
前言撤回、こいつ最悪。
こいつに殺されるのだけは絶対にごめんだ。
「そっか、じゃあ食事は自分で用意してくれ。考えてみれば俺がお前に食事を出してやるメリットなんてないわけだしな」
これで少しは考えを改めてくれることを期待したが、サキはい俊バツの悪そうな顔をした後にどや顔で言い放った。
「キッチンを見てみなさい」
サキの表情の変遷に違和感を感じながらも言われた通りキッチンを覗く。
そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。
床には調理の途中の食材が散乱しシンクは水浸し、ガスコンロにはよくわからない液体がこびりついていた。
「なんっじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
衝撃のあまり叫び声を上げる俺の後ろには勝ち誇った顔のサキがいた。
「どう?私に自炊させたらこうなるのよ。わかったらこうなるのよ。わかったら毎日三食私に献上することね」
「わかったから早く片付けろ!!!」
元の状態に戻すまで3時間かかった。
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