第6話 祖母の手紙

 ひとりで家に帰ってきた俺がまず向かったのは祖母の仏壇がある和室だった。


 この家はもともと俺と両親と祖母との4人暮らしだったのだが、両親はどちらも出張でほとんど家におらず、実質祖母と俺の二人暮らしだった。

 その祖母が他界したのが5年前のことだ。


 この和室は生前祖母が自室として使用していた。

 祖母の死後はあまり長居はしたくなかったので仏壇のお参りくらいでしか入らなかったが、先ほど買い物中に祖母にまつわるあることを思い出して、確認したいことがあったから訪れることにした。


 確認したいこととは祖母が守護の印のことを知っていた可能性についてだ。

 祖母は神社の神主の家系で、神様とかそういうスピリチュアルな方面に詳しかった。

 霊感もかなり強かったらしく、祖母のことを妖術使いと呼ぶ人もいたとか。

 その祖母が生前俺によく言っていいた言葉がある。


 「こうちゃんのことは神様が守ってくれるから安心しなさい」


 これは祖母にだけ見えている幽霊を俺がひどく怖がった時にかけてくれた言葉だ。

 今までただの励ましだと思っていたが、この神様とは守護の印なのではないだろうか。

 そう仮定すると祖母は守護の印のことを知っていたことになる。

 つまり祖母が今のところ守護の印に関する唯一の手掛かりで、上手く守護の印の情報を手に入れることができればサキを怖がる必要がなくなるかもしれない。

 そう考えて春乃にサキを押し付けて一人で帰ってきたのだ。


 さっそく和室を探し回った。

 額縁の裏、戸棚、押し入れ……主だったところにはめぼしいものはなかった。


 30分くらい探してようやく仏壇から手がかりらしきものが見つかった。

 それは「守護の印について」と書かれた封筒だった。

 裏には昭子へと書いてある。

 昭子というのは海外で働いている俺の母の名だ。

 これは祖母が実の娘である母に充てて書いたものらしい

 

 ドンピシャでほしいものが見つかったので面食らいつつも、急いで中に入っている紙を取り出して読んだ。



 昭子へ

 今まであなたは私の話に全く聞く耳を持たなかったけれど、遺言として遺せば少しは事の重大さを理解してくれるでしょうか。

 紘希は私の霊力を引き継いでいるようです。

 そのせいでずっと悪いものに狙われています。

 今までは私が守ってやれたけどもう私も長くない。

 だから私の死後も安全でいられるように私が紘希に守護の印という守りの術を施しました。

 この術があれば大体の悪いものは手出しすることができません。

 ですがもっと高位の存在、例えば死神のような存在であれば簡単にはいかないだろうけどこの術は破ることができるでしょう。

 だからもし紘希に危険が迫っていることがわかったらここに書いてある神社の神主のもとへ向かわせてもっと強い守護の印を施してもらってください。

 私の名前を出せば取り合ってくれるはずです。

 おそらく紘希に辛い選択を強いることになると思うので、できることなら避けたいのですが。

 では、よろしく頼みましたよ。               はつ



 手紙にはいろいろと重要なことが書いてあった。

 一つずつ整理していこう。

 まず、やはり祖母は守護の印のことを知っていた。

 というか術を施した張本人だった。

 祖母のおかげで俺は今生きているというわけだ。

 おばあちゃん、ありがとう。


 次に死神であれば守護の印は破れるということだが、これ絶対サキに知られちゃいけないやつだろ。

 どうやってこの防御を突破するのかわからないが、不可能ではないというわけだ。

 この先同居生活中にどうやって殺しにかかってくるのかはわからないが、注意しておくべきだろう。


 そして守護の印の強化のことについてだ。

 この手紙に書いてある住所によると、目的の神社は隣の県にあるようだ。

 気になるのは俺にとってつらい選択ってやつだ。

 どの程度俺に不利益が出るのか判断できないうちは手を出さないでおくべきか。


 考えていてもらちが明かないので、暫定的に手紙の内容を踏まえた今後の方針を決める。

 まずはこの手紙の内容をサキに絶対に知られないようにすること。

 そしてサキに守護の印を破れる可能性があることを悟らせないこと。

 この二つを念頭に置いて生活していこう。


 俺は祖母からの手紙をもと会った場所に返してさらに見つかりにくいようにカモフラージュをした。


 その後、家事をしているとサキが帰ってきた。

 いろいろと買い物をして大荷物になると思っていたのだが、手にしている荷物が少ない。


 「あんまり買わなかったんだな」


 「大体のものはこうやって異空間にしまってあるのよ。ストックが乏しかったりむこうでは必要なかったりしたものを買い揃えただけよ」


 サキは何もないところから鎌を取り出して見せた。

 ちゃんと普通の鎌も持ってたんかい。


 「へー、何買ったんだ?」


 「日焼け止めとか歯ブラシとかそんなような小物よ」


 これなら近所のコンビニでよかったのではないか。

 でもわざわざモールに行ったことで春乃にサキを押し付けて一人で手紙を読むことができたのは収穫だった。

 春乃に出会えたことは幸運だった。


 夕飯を作り、朝と同じ席について食べる。

 ここで俺はサキが春乃に自分が俺の従妹だと嘘をついた理由について聞いてみた。

 

 「なあ、なんで従妹なんて嘘ついたんだ?」

 「普通私が死神なんて言って信じるわけないでしょ?それにアンタを殺すことを周りの人間が知ったらこっちが面倒なのよ。場合によっては刈り取る魂が増えるわ」


 続けてサキは言う。


 「それに、やっぱり言わなくて正解だったわ。春乃とアンタ幼馴染なんでしょ?彼女のアンタに対する愛情は相当深いわ。そんな人にアンタを殺すことを伝えたらどうしたって障害になるし。私もできれば関係ない人間の魂を刈りたくはないし」


 ちょいちょい物騒なことを言っているのは誰にもばらすなと釘を刺しているのだろう。

 それに春乃を名前で呼び捨てにするようになったあたり、今日だけでかなり親しくなったらしい。

 そんな彼女を殺すことは死神といえどもためらわれるようだ。


 夕食を終えた俺たちは順番に風呂に入り、寝る準備を済ませた。


 サキの部屋は唯一空いている俺の隣の部屋にした。

 和室も空いているのだが、万が一祖母のことに気づかれたら困る。

 リビングも提案したがサキは無言でこちらを睨み返してきた。

 住まわせてやってるのに図々しい奴だ。

 じゃあ俺がリビングで寝ると言ったらそれは申し訳ないとか言ってきた。

 こいつのことを理解するのは難しそうだ。

 

 就寝のあいさつは交わさず、それぞれ部屋に入った。

 俺は疲れていたので早々に眠ることにした。

 


 

 

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