第5話 死神少女と買い物

 サキが人間界に滞在することはサキにとっても予定外のことだったので当然のことながらいろいろ入用になってくる。

 というわけで俺たちはサキの身の回りの品を揃えるために地元のショッピングモールへ買い物に来た。


 「へー、今の人間界ってずいぶん発展してるのね」


 サキがきょろきょろあたりを見回しながら感心している。


 「大きいけど田舎の店だし、驚くほどでもないぞ」


 俺が住んでいる地域は結構田舎だ。

 田舎と言っても近所でクマが出るとか道路に信号もないとかそのレベルではなく、多くの学生の休日の遊び場がショッピングモールに集約される程度の田舎だ。

 つまり建物はそれなりに建っているが住宅ばっかで娯楽施設がほとんどない地域ということだ。


 そんな田舎のありふれた商業施設でも死神にとっては新鮮のようだ。

 サキは幼い子供のように無邪気に楽しんでいるように見える。


 ところで死神に貨幣経済の文化は根付いているのだろうか?

 精算前の商品を持ち出されては困るのでここは確認しておく必要があるだろう。

 

 「なあ、店で商品を買うときは金が必要ってちゃんとわかってるか?」


 サキは俺の質問に得意げな表情で答えた。


 「そんなの当然知ってるわよ。物の買い方だけじゃなくて人間界の常識は大体心得ているわ。何年生きてると思ってるのよ」


 どうやら万引き犯になる心配はなさそうだ。

 ここで一つ疑問が浮かぶ。


 「お前って今何歳?」

 「84だけど」

 「絶妙にばばあ!」


 死神だから人間より長寿でも驚きはしないと覚悟はしていた。

 でもそこは400歳とか言ってほしかった。

 84って多分このモールにも探せばいるぞ。


 「言っとくけど人間の基準で考えたら高校生くらいだからね」


 そうはいっても人間基準で現実的な年齢だとどうしてもそっちに引っ張られるんだよなあ……

 

 「84年生きててチンコ見ただけで取り乱すとか、お前どんだけ男っ気無いんだよ」

 「なっ……あんたみたいな彼女なしの童貞に言われたくないわよ!」

 「なんで知って……」

 「ごめんねぇ~、まさか冗談のつもりで言ったことが本当だったなんて思わなくてぇ」

 「お前俺の5倍くらい生きてるくせして俺と同レベルとか実質俺より下

じゃね?」


 どちらがより異性経験が乏しいかというとても悲しい言い争いをしながら歩いていると、後ろから声をかけられた。


 「あれ、紘希じゃん、偶然だね」


 声の主は幼馴染の北上春乃きたかみはるのだった。

 春乃とは幼稚園からの付き合いで現在通う高校までずっと同じクラスの腐れ縁だ。

 成績優秀かつ所属するテニス部でも活躍する文武両道なすごいやつだ。


 「その子、誰?」


 その子とはもちろんサキのことである。

 しかしこいつの正体は俺を殺しに来た死神だ。

 正直に説明していいものなのだろうか。


 俺が頭を悩ませていると、サキがすっと一歩前へ出て喋りだした。


 「初めまして。私、紘希君の従妹のサキといいます。急にしばらくの間紘希君の家でお世話になることになりまして、今日は必要なものを買いに来ました」


 サキはとても愛想のいい笑顔かつ上品な仕草で自己紹介をした。

 お前そんな顔できるんか。

 今のサキは育ちのいいお嬢様のようだ。


 「紘希にこんなにかわいい従妹がいたんだ!これからよろしくね!」


 春乃はすっかりサキが従妹だということに納得したようで、屈託のない笑顔で挨拶を交わした。

 早くも会話を弾ませている。


 「紘希の家、今親いないから二人きりだけど大丈夫?変なことされてない?」

 「大丈夫です。今朝も襲われそうになったけどちゃんと撃退しました」

 「そう、それなら安心だね!何かあったらすぐに連絡してね」


 おい、聞こえてるぞ。

 

 「ところでサキちゃん、買い物はどれくらい進んだの?」

 「まだ何も。来たばっかりですので」

 「じゃあ私と一緒に回ろうよ!私、まだまだサキちゃんと話したいし」


 どうやら春乃はサキの買い物に付き合ってくれるようだ。

 これはありがたい申し出だ。

 正直女子の買い物とかわからないし何より今は一人になってサキに対抗する術を模索したい。

 仲良く買い物に来てしまったが、あいつは俺の命を狙っているということを忘れてはならない。


 「じゃあ春乃、お願いしていいか?俺は先に帰ってるから」


 俺は春乃にサキの付き添いを頼んでショッピングモールを後にした。


 

 

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