10話 猪人族
「目の前の鉱山に魔石があるかもしれない。少し鉱山に寄ってもいいかな?」
猪人族に会いに行く途中だが急いでいるわけではない。
目の前にチャンスがあるならみすみす逃す手は無い。
「「かしこまりました」」
取り敢えず鉱山を少し登った所で横穴を開ける事にする。
そのままドランが簡単に横穴を開ける。
俺は会いた穴が崩れないように新たに硬化というスキルを作成した。
そうして横穴を3人で進んで行くとそこには金があった。
それも凄い量だ。これだけで前世なら3代ほどは遊んで暮らせそうだな。
金が出た事でこの先も期待出来ると感じ更に10メートル程進むと青白い鉱石が目の前に現れた。
天眼でも確認したが、正真正銘の魔石だった。
大した深部でも無いのに物凄い量の魔石だ。俺はここで仮説を立てる。
もしかすると魔森林は他の場所よりも魔力が濃いのではないのか?
そうするとこの場所でこれだけの魔石が出た事の説明がつく。
俺は空間収納でここにある魔石を全てしまい外に出る。
「これは凄い物を見つけてしまったな。なんで今までそのままだったのだろう?」
純粋な疑問だったのだが答えはすぐにわかった。
「アデル様。ここにはかなりの強さの魔物がおります。今でこそ脅威に感じませんが以前なら脅威です。そこまで危険を冒して魔石を掘ろうとは誰も思いません。しかも普通ならこんな簡単に横穴は空きません」
なるほどここは村よりかなり森の深部だ。魔物の強さも上がっている。
ここまで来る途中で出てくる魔物は確かに強いと思うがドランとシズネが片手間で倒していたため感覚がおかしくなっていた。
「確かにその通りかもな。必要になったらまた取りにこよう」
後々ここの採掘も行いたいが今は人手が足りないので今後の課題だ。
それに俺たちなら魔物も脅威ではないし必要なら自分達で取りに来ればいいのだ。
元日本人の感覚だと石油を自分の土地で掘り当てたようなものなのだ。
足取りも軽くなり上機嫌で先を行く事になる。
俺たちが猪人族に会いに森を進んでいる頃、魔森林からさらに西に位置する大国でとある会話がされていた。
魔森林から西に位置する国、四大大国の一つガリシア帝国。
その歴史はまだ西側にいくつも国家があった頃、小国だったガリシア公国が武力によって統一を果たし今のガリシア帝国となった。
帝国の理念は“世界統一”だ。
武力を用いて世界を支配しようとしている。
今世の皇帝はその欲が特段強い。西側を統一してから100年ほどは他国を落とせていない。
その理由の一つが魔森林にある。帝国が他国を侵略するには魔森林を抜けるか、北側の大山脈を抜けるしか方法がないのだ。
魔石を利用した飛行船を使い北側を抜くことも検討されたが魔石の産出が思うようにいかず断念している。
もう一方の魔森林から東に抜ける方法は過去何度か実行されている。結果は魔森林を抜けるまでに魔物の被害が大きく、大戦力を整える必要があるとわかった。
とある一室でこんな話がされている・・・
「魔物を操る首輪はどうだ?」
金が大量にあしらわれた装飾を身に纏った男が話だす。
薄暗い部屋だがその装飾品だけは輝いていた。
「はっ!高位の竜を使い確認しましたが成功と言えるかと思われます」
もう一人、黒い軍服を着た男が答える。
「そうか。これで帝国が世界の覇者になる日は近いのぉ」
ワインを片手に笑う顔には自信が溢れている。
この男こそ帝国の皇帝であった。
「一つ気になる点がございまして・・・竜の首輪が急に外れてしまい、そのまま逃げられてしまいました。何者かが首輪を破壊した可能性も御座います」
「問題なかろう。あの竜から首輪を破壊できる者が薄汚い亜人どもに居る道理がないからの」
軍服の男は未だ納得できてはいないが素直に頷いた。
装飾品を纏った男は満足したのか下がって良いといい軍服を下がらせる。
「ぐふふ、これで世界は余のものだ」
満足そうにワインを飲み干しそのグラスをテーブルに置いた。
軍服の男は疲れた表情をしながら帰路についていた。
首輪についての不安要素を話したのにも関わらず皇帝は己の欲で一杯で何も考えようとはしなかった。あの首輪が自然に外れるはずがない。
しかし竜を相手に首輪を外せる者が亜人に居るとも思えなかった。
ガリシア帝国は人族のみが人だと思っており、亜人は魔物と変わらないとすら思っている。
その亜人が自分達の作った物を壊せるなど認められる筈もなかった。
しかし何かひっかかりを感じながら男は帰路に就くのだった。
村を出発してから3日、かなり東に進んでいた。
それでも普通なら考えられないペースで進んでいる。普通の人族なら優に1週間はかかるだろう。
シズネの話ならここら辺に猪人族がいるとの事だ。
そのまま更に進むと広大に開かれた土地に村らしきものが小さく目に入る。
住居の様なものが沢山あるが前世でいえば小屋以下である。
距離があるので見えにくいが、木材でたた組み立てているだけみたいだ。この世界に来てから気づいたのだが亜人達の生活環境はお世辞にも良いとは言えない。
低脳というわけではなく、どちらかと言えば生きるために必要なことに力を入れていると感じる。野性的な感じかな?
「あれが猪人族の村かな?」
かなりの数が居るであろう村を見ながら問いかける。
「はい間違い無いかと思われます」
シズネにも確認したが間違いなかった。
そのまま村に近付こうと歩を進めた時前方から激しい声が聞こえてきた。
声の近くまで行くと猪人族と思わしき種族と巨大蛇と呼ばれる大型の蛇が戦っている。男3人で連携を取ってはいるが戦況を見るにかなり苦戦している様だ。
巨大蛇に攻撃をする手段がなく逃げまどっている。斧の様なものを持ってはいるが巨大蛇の前ではあまり意味をなしていない。
「とりあえず助けるか」
ちょうど探していた猪人族がいたので先ずは助けて話をしようと考えた。
「それでしたら
シズネが笑顔で俺にそう告げた。特に反対する理由もないのでシズネに任せる事にした。決して笑顔が怖かったからとかではない。
シズネに許可を出すと、シズネは自身の武器である“焔斬刀”を鞘から抜き歩き出す。
巨大蛇がシズネに気づいて攻撃を仕掛けてくるがシズネに当たる筈もない。
そのまま何事もなかった様に巨大蛇の頭と胴を切り離し倒してしまった。
巨大蛇程度では今の俺たちには脅威ではないのだ。
俺達がそんな事を思っていると猪人族から声が掛かる。
「あの、助けくれてありがとうございます!」
そう声を掛けてきたのは青年の男性だ。肌の色はサーファーもびっくりの小麦色だ。しかしそれより目を引くのは下の顎から伸びる2本の牙だろう。
まさに猪の様な牙である。
「気にしないでくれ。俺達は猪人族に会いに来たのだが君達は猪人族で合っているかな?」
間違い無いと思いつつも念の為確認する。もし違ったら失礼だからね。
「はい!俺達が猪人族です!何かお話があるみたいですし村まで案内させてください」
おお!そのまま村まで案内してくれるらしい。もう少し警戒されると思ったがスムーズに話が進みラッキーだ!
このまま若い猪人族に案内してもらい村に入る事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます