第5話
図書室に併設されている会議室に4人で入った。会議室には、タブレット端末からプロジェクター、円卓があり、4人ではもったいないくらい広い場所だった。
「じゃあ、適当に座ろうか。」
年上の女性に促されるまま、円卓を囲む。
「ここに集まっている子供は必ず、何か主張したいものがあるんだよ。さっき、君が言っていたみたいに。そのことに関して、話し合って、実践して、世界をいい方向に持っていこうっていうのがここの成り立ち。さっき、トップ説明してなかったでしょ?そういうところのある人だから。」
彼女の口からとんでもない言葉が出てきた。
「実践するんですか?」
「するよ。ここは国連で最も力がある場所だよ。だから、ここでの決定は国連全体の総意になる。ここでの決定で、世界が実際に動く。だから、意見交換が必要なんだよ。」
とんでもないところに来てしまったかもしれない。
「大丈夫なんですか?そんなことして。」
「大丈夫。問題にならないように、検査は厳格に行われるから。その決定はトップの仕事なんだけどね。実質、この世界で1番偉い人が、あの人だってこと。私とそんなに歳が変わらないのにすごいよね。」
「あの人は何者なんですか?」
「その質問はN Gだよ。個人情報には干渉しないっていうのがここのルール。それはトップも同じ。ここにいる誰も、トップのことは詳しくは知らないし、知ってはいけない。でも、トップの側近のあの女性なら知ってるかもしれないけど。」
トップという男の隣には綺麗な女性が立っていた。多分ボディーガードだと思う。
「はい、トップの話はここまで。君がここに呼ばれたってことは、君が中心になって、今後のことを決めていくと思う。そのために、私たちがやってきたこと説明した方がいいと思ったんだ。タブレット持ってくれるかな?これから、私が進めたものを説明するから。」
彼女に従い、僕はタブレット端末を開いた。
「私が進めたのは人種差別のこと。日本はそこまで酷くはないけど、私の出身国では酷くてね。昔の悪い風習が残っていたの。そこで私が出した答えは『忘れること』。過去の過ちは忘れてはいけないというけど、人種差別に関しては別物だと思うの。日本がいい例だと思う。この国は人種差別について、当事者になることが少なかった。黒人がこうだとか、白人がこうだとか。そういう偏見もあくまでイメージ止まり。差別的挑発に対しても、何が挑発なのかわからない人の方が多い。日本人がそうなのは、シンプルに知らないから。人種差別というものが身近になかったから。人種という考え自体がなければ、1人はただの1人。だから、忘れるために、私が進めたのは教育現場やメディアで人種差別のことに対して、規制を行なったの。子供に教えない、報道しないことで、少しでも人種というくだらない枠組みを忘れることを目指してるの。枠組みを作るから、みんな人それぞれ違うものを、個性という取り方ではなくて種類という分け方になるの。同じ人なのに。だから、枠組みを消すの。時間はかかるけど、今まで、何も解決してない人種差別の問題は、多分、してる側とされている側に潜在意識があるから。知ること、教えることで、潜在意識が生まれる。その潜在意識を植え付けない。違いは個性にして、人それぞれということを逆に植え付ける。そうしたら、少しでもまともな世界になると思うの。こんな感じかな?」
正直、日本人である僕が人種差別についてどうこういうのは御門違いだと思う。日本人もメジャーリーグとかで侮辱的なことをされたりして、ニュースになることがあるが、そこまで大きくなることも、ヒステリーになることもない。それは、人種差別を受けた歴史が浅いから。そういえば最近、人種差別の報道を聞かない。それはこういうことだったのか。
「ありがとうございます。参考になりました。」
「そう?なら良かった。」
やり切ったような顔で、彼女は僕に笑顔で答えた。
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