第8話そこでの生活

 私が思っているよりも、ずっと、この家の人達は、頭がおかしかった。弟の面倒だけではなく、自分達の食事の用意や掃除洗濯もしろと言ってきた。母親が入院していないのだから、私がその代わりに、自分達の世話をするのが当たり前だと言ってきた。

 弟の面倒を見ろ。としか言われていないと言っても、いつも通りに暮らせるようにしろ。弟の世話だけするのは効率が悪い。弟の世話をするついでにすれば良い。お前は女だろう。と訳の分からない理屈を言い立てる。

 最初から、面倒事を私に押し付ける気だったんだ。母親の代わりをしろと言うけど、私にとって、母親は何もしない人だ。

 

 母は家にいない事が、当たり前だった。ご飯も、出来合いの物ばかりだった。私が成長するにつれて、家事を私に任せるようになっていった。引っ越してからは、姑の手前、自分でしていたけど。誕生日だって碌に祝ってもらった事がない。授業参観や体育祭にも来てくれなかった。入学式や卒業式は、人目を気にして来ていただけだ。父親だと思っていた人だって、仕事ばかりで、家にいなかった。あの人との思い出なんて、ほとんどない。だから、母の代わりをしろ。だなんて言えるんだ。

 学校行事で、家の人と一緒にいる子の姿を見た時。友達の家に遊びに行った時。クラスの子の家族の話を聞いた時。その度に、他の家の子達と自分を比べて、いつも悲しくなった。でも、自分の家の人達は、そういう人達だと思っていた。そういう事に、興味がないのだと。だから、仕方がないのだと思っていた。でも違った。そういう事に興味を持てない人達ではなかった。慎吾の時は、違った。私の時とは全然、違った。

 誕生日のお祝なんてしなかったのに。学校行事も参加してくれなかったのに。皆でお出かけしたかったのに。ただ、一緒にご飯を食べてほしかっただけなのに。ただ、一緒にいてほしかっただけだったのに。二人とも、ほとんど家にいてくれなかった。家にいても、全然、一緒にいてくれなかった。話を聞いてくれなかった。見てくれなかった。忙しい。疲れている。五月蠅いって・・・。

 それなのに、弟の時は、お祝いをするようになった。誕生日、入学式、テストで良い点を取った時。私の時は何もなかった。言う事を良く聞いたのに。沢山、お手伝いもしたのに。良い子でいたのに。なのに、私の時は、お祝いしてくれなかった。褒めてくれなかった。「ありがとう」さえ、言ってくれなかった。

 この人達に何を言っても、時間の無駄だ。私を見下しているから、こちらの意見など聞き入れない。だから、取り合えず、最低限やっておけば良い。どうせ、何をやっても、文句しか言わないのだから。


 この家に来て一週間が経った。案の定、何か気に入らないことがあると、私に文句を言って来る。五月蠅い。気持ち悪い。お前らなんて、どうでもいい。

 皆に会いに行けるのは、嬉しい。皆とお話しできるのは、すごく楽しい。


 近くにスーパーが無いので、買い物が本当に大変だ。この暑い中、自転車に重い荷物を積んで、移動するのが、きつかった。でも、麻子ちゃんのお母さんが心配して、買い物に行くついでに車に乗せてくれる事になった。おかげで、買い物が楽になった。


 シンゴが、また、大勢、人を連れて来た。お茶が冷えてない。アイスが足りない。と喚いていた。急に人を連れて来ておいて、準備されてる訳がないのに。


 服の汚れが落ちていない。と言ってきた。クリーニングに出せば良い。女の子がいるの二ーとか何とか言っている。


 あの人が、お茶が無い。ちゃんと準備しておけ。気が利かないと言ってきた。自分で淹れれば良いだけだと言ったら、俺は働いてる。誰が食わせてやっていると思ってるんだ。誰のおかげで、とか何とか五月蠅かった。三人とも飲むだけで、無くなっても淹れないから。何、いちいち、お茶があるかどうか、確認しないといけないの。お前らと同じ空間にいるのも嫌なのに、そんな事の為に、お前らの顔を見なくちゃいけないのは、嫌。


 皆に、会いに行った。山の中は、涼しくて過ごしやすい。でも、虫が多いから、虫よけスプレーが必須だな。皆に会いに行く度に、麻子ちゃんのお母さんや佐藤君、鈴木君の家族から色々、持たされる。荷物にならないように軽い、お菓子を用意してくれる。一度にまとめて持って行くのは、大変だからと順番を決めてお菓子を用意しているようだ。暑いから無理をしないように、何時も心配して声を掛けてくれる。

 シンゴが勝手に部屋に入ってきた。気持ち悪い。朝、どこに行っていたのか聞いてきた。アンタには関係ない。どこだって良いでしょ。


 麻子ちゃんのお母さんと一緒に、お買い物に出かけた。お母さんは、麻子ちゃんのお母さんと仲良くなったらしい。色々話をするそうだ。私の事を気にしていると言われた。信じられない。どうせ、世間の目を気にしているだけだ。


 お八つが無いと騒いでいる。無いんじゃなくて、アンタが勝手に食べたから、今日の分が無くなったの。アイツらが、買ってくれば良いと言っている。そんなに、自分の子どもにお菓子を食べさせたいなら、自分達で買ってくれば良い。車に乗れるんだから。


 皆へのお土産用に貰ったお菓子が、無くなっていた。ダンボールに入れて、押し入れに仕舞っていたのに。何を言っても、私が悪いってなるから、注意するだけ、時間と労力の無駄にしかならない。偉そうにしている割には、何かあったら直ぐに、人に泣きつく。人の部屋に勝手に入って、荷物を漁って盗むとか。本当、ただのクソガキだ。


 入院している母を、見舞わなければならなくなった。自分達が、他人から悪く見られたくないからなのに、私に親孝行の機会を与えてやったんだ。感謝しろ。と思っているのが、透けて見えていた。本当に不愉快な頭をしている。


 雨の日が続いた。「服がナイ。乾いていナイ。」知るか。乾燥機買って何とかしろ。


 お母さんのお見舞いなんか、行きたくない。お母さんは、私に会いに来てくれなかったのに。どうして私は、会いに行かないといけないの。病院は遠いから、時間が掛かる。だったら、その時間を皆と過ごしたい。麻子ちゃんのお母さんが、病院まで送ってくれると言ってくれたけど。お母さんなんて、私の事どうでもいいって思ってる。

 麻子ちゃんのお母さんから、そんな事ないと言われた。私が皆に会いに行ってるように、お母さんも喜んでくれるって。本当に?


 また、シンゴが、勝手に部屋に入ってきた。入らず山に入った事があるのか。と聞いてきた。「入らず山には、行くな」って言われてるでしょ。話しかけて来ないで。

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