第7話そこに行く理由

 母方の祖父母に引き取られてから、何年もの月日が流れていった。そして、私は、母方の祖父母も、私の事が嫌いなのだと知った。母の元にいる弟との接し方が、全然違う。お正月やお盆で、ここに来る時などは、ずっと上機嫌だ。そして、私を置いて、皆で出かけて行く。母も、私に会いに来てくれた事はない。必ず、弟を連れて来る。祖父母が望むから、自分の両親に弟を会わせに来ている。

 母も私の事が好きじゃない。離れてから、入学式や卒業式、誕生日にも、電話一つくれなかった。祖父母も、母も、忙しいと、三者面談には来ない。何もなくても、弟を連れてきて、遊びには行くくせに。彼らにとって、私は、他人と同じなのだろう。面倒臭いから、できるだけ関わりたくない。なるべく早く縁を切りたいと思っている。だから、私には大学には行かず、働いて自立するように、何度も何度も言ってくる。お金がないからと、それらしい理由を重ねて。

 私自身、この人達と関わらないで生きていきたい。できれば、この人達から離れたところに、就職したい。でも、あんまり離れすぎたところだと、麻子ちゃん達に、会いに行けくなってしまう。


 


 母が怪我をして、入院することになった。入院期間が、弟の夏休みと重なっていた為、弟の面倒をどうしようかと、話し合いになっていた。私には関係ないと思っていたけど、急に、私に面倒を見るように言ってきた。しかも、弟がココに来るのではなく、私が向こうに行って面倒を見ろと。

「なんで、私がそんな事しないといけないの。嫌だから。人雇ったり、近くの人に助けてもらえばいいでしょ」

「女の子がいるのに、人を雇うなんて、周りが変に思うだろう。あそこの家には、家事も炊事もできない女の子が住んでいるって、思われるぞ」

「別に良いよ。そう思われても。人、雇って。慎吾の面倒なんて見ないから」

「人を雇わなくても、お前が行けばすむ話だ。いいから、せっかくの親孝行の機会だぞ。行ってこい」

「バイトがあるから、無理。行けないから。そもそも、慎吾がココに来たら、良い話でしょ。そうしたら、二人で面倒を見られるでしょ」

「バイトなんて、いつでも辞められるだろ。お前の弟なんだから、お前が面倒を見るのは当たり前だろ。何を言ってるんだ。お前は」

「何で、私がバイトを辞めてまで、行かないといけないの。だから、慎吾が、ココに来れば良い話でしょ。バイトでも、働く人が急にいなくなったら、迷惑に決まってるでしょ」

「母親が入院して不安がってるのに、違う環境で生活させるなんて。まだ、小さいあの子には負担が大きいだろ。それに、折角の夏休みなのに、友達と一緒に過ごせないなんて、あの子が可哀そうだと思わないのか。姉のくせに」

 また、これだ。祖父母は、何かあると、女の子だから、姉だからと言って、自分たちの意見を押し通す。本当に話が通じない。自分たちが正しくて、私が悪いと思っている。気持ち悪い。

「とにかく、無理なものは無理。私は行かないから。何度も言うけど、向こうがコッチに来れば、全部解決する話でしょ。そもそも、お母さんが怪我したのが、原因なんだから」

そう言って、サッサと部屋から出る。祖父は一緒にいた祖母と、何て子だの、薄情だの、性根が悪いだのと、言い合っている。碌に、情を掛けなかったんだから、性根の悪い薄情な子になるのは、当たり前のことなのに。自分達は、何も悪くないみたいに言っている。弟の我儘は、笑って聞くのに、私が同じことをしたら怒る。まだ、小さいから。弟だから。女の子だからと。

 親孝行だと思って行け?自分を捨てた親に孝行する子どもはいない。そもそも、母は、昔から何もしてくれなかった。今まで、何もしなかったくせに、手を貸せ、とか、どうかしている。弟がココに来るのだって嫌だ。私に何をしても怒られないと、分かっているから、気に入らない事があると、直ぐに、手を挙げてくる。勝手に部屋を荒らして、持ち物を取ったり、壊していく。私が怒ると、あの人達は、そんな所に置いているからだとか。ちゃんと締まっていないからだとか言い出す。仕舞には、姉だから我慢しろと。引き出しに締まっている物すら、それで押し通してくる。本当に気持ち悪い。

 麻子ちゃんとお揃いで買ったアクセサリー。鈴木君や田中君が、ゲームセンターで取ってくれたぬいぐるみ。もう撮ることができないプリクラ。大切なそれらを、アイツ等が触るのも、目に入れるのも嫌だ。



 私に行け。としか言ってこない祖父母が五月蠅くて、顔を合わせないようにしていた。何も言ってこなくなったので、諦めたのかと思っていた。

 バイトに行くと、店長から呼び出されて、バイトを辞めてほしいと言われた。祖父母が、私を辞めさせろと。何度も何度も、しつこく電話を掛け続けていたそうだ。諦めて、弟をココに呼ぶと思っていたけど。あの人達の頭では、私が行く以外の選択肢が、思い浮かばなかったらしい。

 バイトから戻ってくると、あの人達は、ニヤニヤしていた。唯々、非常識なだけなのに。あの人達は、きっと、自分達の頭が良いと思っている。本当に、気持ちが悪い。


 バイトがあるから行けないと断ったけど。そもそも、アイツの面倒なんて、見たくないって言っているのに。何をどうすれば、バイトが無ければ行くと変換できるのだろう。この人達は、本当に残念な頭している。私はそんな事の為に、時間も労力も使いたくない。自分達だって、私の面倒を見たくないと思っているくせに。何で、私が面倒を見たいと思うと、考えられるのかな。あの人達の事だから、面倒を見てやっているのだから、その恩を返せ位に思っているのだろう。私だって、一応、自分達の孫なのに。


 バイトを辞めさせられたのは、気持ち悪いけど、良い機会だったかもしれない。長く続けていた所為か、色々任されるようになっていた。あの人達の世話になるのが嫌で、少しでもそれを減らせるように、バイトを始めた。それに、お金があれば、皆に会いに行きやすいと思ってけど。逆に、バイトが忙しくなって、皆に会いに行けなくなっていた。弟の面倒を見るのは嫌だけど、ゆっくり皆と会えるなら、良いかなと思える。夏休みなのだから、遊びに行くだろうし。そこまで面倒ではないだろう。

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