第13話
エマが部屋の中を快適にしようとチョコマカ動き回っている間、ビビアンは一人、所在なげにソファーでエマが入れてくれたお茶を飲んでいた。
何か手伝おうとしても「お嬢様はゆっくりお休み下さい!」とエマに言われてしまい、何もさせて貰えない。
何も働いていない状態というのが、母親が儚くなって以来1日もなかったので、逆にビビアンは落ち着かなかった。
働くのが当たり前だと体に染み付いてしまっているのだ。伯爵令嬢としてとても有り得ないことだが、それだけ今までビビアンの置かれていた状況が異常だったということだろう。
「ね、ねぇ、エマ?」
堪らずビビアンはエマに声を掛ける。
「はい? なんですか、お嬢様? あ、お茶のお代わりですか?」
「い、いえ、そうじゃなくて...私も何か仕事を...」
「ダメです!」
エマはにべもない。
「ライオス殿下に言われたじゃないですか!『夕食の時間までゆっくり休め』って!」
「い、いや確かに言われたけども...」
「なんですか!? お嬢様は王族の方のご命令に背くおつもりですか!?」
「わ、分かったわよ...」
そう言われては仕方ない。諦めてビビアンはソファーに身を沈めた。
◇◇◇
「...様...」
「お嬢様!」
「ハッ!? い、いけない! 寝ちゃってたわ! い、今何時!?」
「そろそろ夕食の時間ですので起こしました。ぐっすりとお休みになってらっしゃいましたね?」
「えぇ、あんなにぐっすり寝れたの久し振りかも知れない...」
「それはようございました。ささ、こちらにお召し替え下さいな」
そう言ってエマは、ライオスの瞳の色である青を基調にしたドレスを差し出す。ビビアンのアッシュな髪色に良く映えるだろう。
「え~と...それは何?」
「ドレスでございますね」
エマはシレッと答える。
「うん、それは見れば分かる。私、目は悪くないから...そうじゃなくて、なんでそんなもんがここにあるのかって聞いてるんだけど...」
「んなもん、ライオス殿下からの贈り物に決まってるじゃないですか!」
何バカなこと聞いてんだ? みたいな口調でエマが言う。
「え、えぇ~!? こ、これをライオス様が!?」
一体いつの間に!? ビビアンは困惑するしかない。ビビアンが王宮に急遽来ることが決まったのは今日の朝だ。それからどんなに急いだってこんなに早く用意できる訳がない。前もって準備していたとしか思えない。
「ネックレスやイヤリング、ブレスレットもありますよ~! あらあら! これまた全てライオス殿下の髪色に合わせた金色だなんて! お嬢様、物凄く愛されていますね~!」
そんなエマの言葉に、ビビアンは完熟したトマトのように真っ赤になった。
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