第12話
「あ、ちょっと! ちょっと待って下さい!」
ビビアンがライオスの手を引いて止める。
「どうした? まだ何かあるのか?」
「侍女のエマにまだお別れを言えて無いんです!」
ちょうどその時、当の本人がハタキを片手に現れた。どうやら掃除をしていたらしい。
「えっ!? ビビアンお嬢様!?」
「エマ! 良かった! あのね...」
ビビアンの話を聞いている内に、エマの顔が喜びに満ちて行く。
「...という訳で、急だけど今から王宮に行くことになったの。あなたには感謝してもしきれないわ。今まで本当にありがとう」
「ビビアンお嬢様、本当にようございました! お嬢様の苦労が報われて、このエマも喜ばしい限りでございます!」
そこでエマはいったん言葉を切って、
「ライオス殿下、ビビアンお嬢様を何卒よろしくお願い致します」
今度はライオスに向かって深々と頭を下げた。
「エマと言ったな? 今までビビアンに優しくしてくれてありがとう。どうだ? 良かったらお前も一緒に来ないか? こんなクソッタレの屋敷にまだ居たいというなら話は別だが」
そんなライオスの提案に、エマは二つ返事で、
「よろしいのですか!? 是非ともお願い致します! こんなクソみたいな連中とはさっさとオサラバしたいので!」
「あぁ、ビビアンもいきなり誰も知らない王宮へ一人で行くよりは、勝手知ったる侍女が一人居た方が心強いだろう。なぁ? ビビアン?」
問われたビビアンも喜色を満面に浮かべる。
「はい! エマが一緒に来てくれたら百人力です! ライオス殿下、ありがとうございます! エマもありがとうね!」
「えぇえぇ! そうと決まれば40秒で支度しますね!」
「いや、そんなに慌てなくても...」
ライオスとビビアンは顔を見合わせて苦笑した。
そんな和やかな二人を、グラントとイライザは魂が抜けたような呆けた顔で見ていたが、ブレンダは一人だけ鬼のような目をしてビビアンを睨み付けていたのだった。
◇◇◇
王宮に到着したビビアンとエマは、離宮の方に案内された。
「この部屋を使ってくれ。本当は王宮の方に部屋を用意したいんだが、まだなにかとうるさく言うヤツが居るんでな。しばらくはここで我慢してくれ」
「い、いえいえ、とんでもない! この部屋でも十分過ぎるくらいですから!」
案内された部屋は広さ20畳ほどもあり、今まで暮らしていた屋根裏部屋に比べたら月とスッポンである。ビビアンは恐縮してしまった。
「そう言って貰えると助かる。まずはゆっくりと休んでくれ。夕食は一緒に食べよう」
「分かりました」
ライオスが出て行った後、急な展開にまだ実感が湧かないビビアンは、呆けたようにソファーに座り込んだ。
「お嬢様! とっても良いお部屋ですね!」
対するエマは張り切って、部屋に持って来た荷物を置き始めていた。
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