【ミイラ盗り】⑦
「【ミイラ盗り】……? 知らないわね」
「わたしもです。初めて聞きました……」
メリナとココルがそれぞれ言う。
この二人のマイナススキルもたいがい珍しいが、テトのも相当だ。高レベルの冒険者が三人いて、誰も知らない。
スキル名からも、効果の想像がまったくつかない。
ただ、俺は妙な予感がしていた。
テトへ訊ねる。
「それはどんなスキルなんだ?」
「簡単だよ」
テトが軽い調子で答える。
「同じパーティーメンバーが受けるデバフを、すべてボクが引き受ける。基本はそれだけ」
「え……待って待って。それ本当に? デバフだけ?」
「そうだよ」
「す、すごいです。まさかスキルでそんな効果のものがあるなんて……」
魔法職二人が興奮したように言った。
俺はよくわからず訊ねる。
「何か珍しいのか?」
「はい。実はバフとデバフって、本質的には区別を付けられないんですよ。ステータス上では付与効果って名前で、同じ扱いをされてます」
「え、そうなのか」
「そうよ。だから、デバフだけ消したり防いだりする魔法やアイテムってないの。ココルの
「バフとデバフを区別してるスキルって時点で激レアなんですよ! 他にあるかどうかもわからないくらいです」
「あはは、そうらしいね。スキルの説明文でもデバフじゃなくて、マイナスの付与効果って言い方してるよ」
テトが笑いながら言う。
「でも、ボクからしたら最悪なんだけどね」
「よくわからないんですが、そもそもそれってマイナススキルなんですか?」
ココルが訊ねる。
「たとえば、パーティーメンバー全員が《耐久減少・小》のデバフを受けたとして、それがテトさんだけで済むことになるんですよね。むしろメリットじゃないですか」
「そう都合のいいスキルじゃないんだよ」
テトが説明する。
「普通だったら同じデバフを何度受けても効果は変わらないけど、【ミイラ盗り】の場合、重複した分効果のランクが上がっていくんだ。《小》ランクのデバフでも、四回受けると《特》にまで上昇する」
「そ、それは……」
「何種類ものデバフを打たれると最悪だよ。一度なんて、全パラメーターが半分以下になったこともあった。その時は一緒にいたパーティーメンバーの全員がボクを見捨てて逃げたから……危うく死にかけたんだ」
「……」
「それからはずーっとソロ。ボク決めたんだ、もう二度とパーティーになんて入らないってね」
「それは……災難だったな」
さすがに俺も、そこまでひどい目にあったことはない。
キルやドロップの横取りを考えてしまうのも、無理はない気がした。
それにしても。
パーティーメンバーが受けるデバフを、代わりに引き受ける、か。
それなら、ひょっとすると……。
「待って。それ本当?」
メリナがまた、訝しげに問いかけた。
テトがうんざりしたように言う。
「お姉さんは本当にボクのこと信じないねー」
「おかしいじゃない。単一のパラメーター減少デバフは、最大でも四割減のはずよ。どうして半分以下になんてなるの」
「考えが浅いね。たとえボクのマイナススキルがなくても、そういう状況はあり得るよ。たとえば《耐久減少・特》と《全ステータス減少・特》を同時に受けている場合。これだと効果が重複して、
「そんな極端な状況だったって言いたいの?」
「いや? いくらボクのマイナススキルでも、そこまでデバフを重複して受けることは滅多にないね。あの時は、【ミイラ盗り】の追加効果が発生してたんだ」
「追加効果?」
「このマイナススキルは、効果が増減するんだよ。パーティー全体の報酬獲得率が高いほど、受けるデバフの効果が上昇することになる」
「報酬獲得率……?」
よくわからない単語が出てきた。
「何よ、それ。初めて聞いたわね」
「わたしもです……どういう意味なんですか?」
「ボクが調べた限りでは、どうやらモンスタードロップの多さとか、レアアイテムの出やすさのことみたい」
「わかるようでわからないな。それはパーティーによって変わるものなのか?」
「変わるよ。たとえば【金運】スキルを持っていると、コインが多く落ちるようになるでしょ? 【幸運】スキルだとドロップするアイテムのレア度が高くなりやすいし、【ドロップ率上昇】系スキルだと、数が多くなりやすい。こういうスキルを持っている人がパーティーにいると、報酬獲得率が高くなってる……って扱いになるみたい」
テトが続ける。
「あの時は【ドロップ率上昇・中】と【幸運】持ちがいたからね。デバフの効果がその分上がっちゃってたんだよ。入ったばかりのパーティーだったから、ボクも油断してたな」
「ふうん、なるほどね……あれ、でも……」
「テトさん」
何かに気づいた様子のメリナを横目に、俺はテトへ訊ねる。
「あんたさっき、効果が
「え……う、うん。たぶん」
テトが自信なさげに答える。
「スキルの説明文には、そう書いてあるね。【貧乏神の加護】とか【不運】とか、【ドロップ率減少】系のスキルを持っている人がパーティーにいれば、その分効果は下がるんじゃないかな……? そんな人とパーティーを組んだことがないから、たぶんだけど」
「それは……どのくらい下がるんだ?」
「うーん……ボクもこのスキルの効果、ちゃんとわかってないんだよ。でも、上昇率から考えると……【ドロップ率減少・中】と【不運】持ちがいれば、《小》ランクのデバフが無効になるくらいじゃないかな」
「……」
「ま、そんな貧乏くさいパーティー、頼まれても入りたくないけどね。……どうしたの?」
黙り込む俺たちに、テトが眉をひそめる。
「……まあ、まずは試してみましょうか」
メリナがそう言って立ち上がり、テトを見下ろして告げる。
「とりあえず、テト。あなた、私たちのパーティーに入りなさい」
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【ミイラ盗り】
パーティーメンバーが受けるマイナスの付与効果をすべて引き受ける。
パーティー全体の報酬獲得率に応じて、引き受けた付与効果が増減する。
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