【ミイラ盗り】⑧
「はあー? なんでそうなるんだよ! 言っただろー、ボクはもうパーティーになんて入らないって!」
「いいから、ちょっと付き合いなさい。言うこと聞いたら今回のことは見逃してあげるわよ」
「ええー……」
と、そういうわけで。
俺たちはテトをパーティーに加え、セーフポイントを出て三十二層を歩いていた。
俺たちの様子を見て、テトが不思議そうに訊ねてくる。
「……下の階層に行かないの?」
「いや。とりあえずこの階層で、少しモンスターを倒してみたい。たしか、デバフを撃ってくるやつもいたはずだ」
「【ミイラ盗り】の効果を見てみたいってこと? まあ、それくらいいいけど」
そうではあるが、テトが想像しているものとは少し違う。
「っ、アルヴィンさん!」
その時、後ろからココルの鋭い声が聞こえた。
俺も、前方に現れたそのモンスターに見入る。
「フロストキマイラ、か……?」
ライオンとヤギの二つの頭。背中には羽が生え、尻尾はヘビの頭になっている。そして体は、水と氷の二属性を示すように水色に染まっていた。
フロストキマイラ。
深層でごくまれに現れる、強力なモンスターだ。
俺も久しぶりに見た。まさかこのダンジョンで出るとは……。
とりあえず、最低限の情報を周りに伝える。
「こいつは氷凍ブレスを吐く! 後衛まで届くから気をつけ……」
と言ってる間に、ライオンの頭が早速ブレスのモーションに入った。
俺は剣を構えながら舌打ちする。行動が遅かった。
レベル的には食らっても問題ないだろうから、その後に……、
と。
そこまで考えた時、俺の隣で刃が閃いた。
放たれた投剣は真っ直ぐ飛翔し、ライオン頭の背後で揺れていた、尻尾のヘビへと命中する。
その瞬間、フロストキマイラに大きな
ライオン頭が呻いて震え、ブレスのモーションが解除される。大きな隙ができる。
「お姉さん、雷魔法っ」
テトの声が響く。
メリナの反応は早かった。
フロストキマイラが再び行動を開始する寸前。メリナの詠唱が間に合い、杖から放たれた稲妻が、ヤギ頭とライオン頭の間に突き立つ。
またしても激しい
大ダメージのためか、三つの顔はどれも苦しそうに歪んでいる。
「げっ、まだ死なないのっ?」
言いながら、テトが駆けた。
相当に
「でもさすがにこれでっ」
逆手に持った大ぶりなナイフが、目にも止まらぬ速さで振るわれる。
何か特殊な素材が使われているのか、それはオレンジ色の軌道を描いていた。
そこで――――フロストキマイラのHPがゼロになり、青い体がエフェクトと共に四散した。
散らばったドロップアイテムの中で、テトが息をつく。
「ふうー。悪いねー、キルもらっちゃって」
「あんた、やるな」
俺は素直に言う。
「フロストキマイラは、尻尾のヘビが弱点部位だったのか。俺も知らなかった」
「そうだったみたいだねー」
「ん……? 知っていたわけじゃないのか?」
「うん。フロストキマイラどころか、キマイラ自体初めて見たし。でも――――なんとなくわかるものじゃない?」
聞いた俺たちは顔を見合わせ……それから口々に言う。
「いや、わからないが」
「何を言ってるんですか?」
「見ただけで弱点部位がわかるなら誰も苦労しないわよ」
「えー?」
テトが困ったように頭を掻く。
「そうかなぁ。ボクこれ、今じゃほとんど外さないんだけど」
「どこを見て判断してるんだ? モンスターの弱点部位は、普通の生き物と違うことも多いだろう」
「んー……作った人の気持ちになって考えれば、なんとなく、って感じかな」
「作った人……?」
「うん」
テトは言う。
「お兄さんたちは聞いたことない? ――――この世界は、箱庭なんだって。だったら、作った人がいるってことでしょ?」
「……」
「ダンジョンにはさ、無敵のモンスターもいなければ、強すぎる武器もない。バランスが取れてるんだよ。だったらモンスターの弱点部位も、なんというか、納得できる場所にあると思うんだ」
「納得できる……」
「もしも、左足にあるホクロが弱点部位だなんて言われたら、そんなもんわかるか、って思わない? そういう理不尽さは、ダンジョンにはきっとないんだよ。だから、なんとなく予想がつくってこと。何度も一人で戦闘をこなして、ようやく身につけた特技だけど、でもお兄さんたちならわからないかな」
一生懸命説明してくれたテトへ、俺はうなずいて答える。
「いや、わからないな」
「えー?」
「箱庭仮説は聞いたことがあるけど……たとえそれが正しくても、ダンジョンやモンスターの一つ一つが誰かの意思で作られてるとは思えないわね」
「そうかなぁ……」
「わたしは、何も言わないでおきます……主に信仰の関係で」
渋い顔をして口をつぐむココルへ、俺は言う。
「それはそうとココル……どうだ?」
「あっ」
ココルがはっとしてステータス画面を開いた。
それから、目を見開いて言う。
「な……ないです! やっぱり」
「おおっ」
「私たちの予想が当たったみたいね……」
俺は微かに震えた。
まさか、こんなことが……。
「んー? どうしたの、お兄さんたち? 【ミイラ盗り】の効果を見たいなら、違うモンスターを探しに行こーよ」
俺たちは顔を見合わせ、うなずく。
「ああ、そうだな」
「一応、普通のデバフを受けた時の挙動も確認しておきたいものね」
「わ、わたしも気になりますっ」
そんな俺たちを、テトは思いっきり不審そうに見る。
「変な人たちだなぁー……」
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