【ミイラ盗り】①

「悪い! 一匹抜けた!」

「いいわ。任せて」


 アイスゴーレムの攻撃を止めながら叫ぶと、メリナが後方で答えた。

 詠唱と共に雷属性魔法の光が奔り、後ろへ抜けていたアクアサラマンドラの一匹が四散する。

 メリナの魔法には今、自分の【属性強化】スキルに加えて、ココルの《属性強化》バフまで乗っている。深層のモンスターでも弱点属性を突かれればこんなものらしい。


 俺たちのパーティーは、落日洞穴の三十二層にまで到達していた。

 ダンジョンの三十層より下は、深層と呼ばれる領域だ。

 出現するモンスターはますます強力になり、ここに安定して潜れれば上級者と言われるようになる。俺でも、ソロならばこの辺りが限界だ。


 しかし、今はバランスの取れた三人パーティーの一員という立場。

 人数はやや少ないが、平均レベルを考えるとまだまだ余裕という手応えだった。


「ふう」


 アイスゴーレムを倒し終えた俺は、剣を納めて一息つく。


「お疲れさま。……どうしたの?」

「……いや」


 散らばったドロップアイテムを前に険しい表情をしていたせいか、メリナが声をかけてきた。

 俺は考えていたことを答える。


「思っていたより、深いダンジョンだと思ってな」


 小規模ダンジョンは、中層にボス部屋があることも多い。

 ここ落日洞穴も、てっきりその程度のダンジョンかと思っていたのだが、予想が外れた。

 俺一人だったら、ここまでたどり着いた時点で引き返していただろう。深層のボスにソロで挑むのは、無謀を通り越して自殺に等しい。


「……そうね。中ボスもいないし、私ももっと浅い層にボス部屋があると思ってたわ」

「あの、アルヴィンさん」


 ドロップを回収していたココルが、俺に心配そうな顔を向ける。


「アルヴィンさんの負担が大きいようなら、一度上の層に戻りますか? ここだと、セーフポイントがいつ見つかるかわかりませんし」


 ココルの言う通り、俺はこの階層の地図を持っていなかった。

 そもそも出回っていないようで、入手できなかったのだ。だから今は、マッピングをしながらダンジョンを進んでいる。

 幸い一層あたりはそう広くなく、迷うような地形でもなければ妙なギミックもないので、問題なく進めてはいる。

 ただ確かに、セーフポイントがわからないのは不安ではあった。

 しかし、俺は首を横に振る。


「俺なら大丈夫だ。レベル的にもまだソロで潜れる階層だしな。先へ進もう」

「そうですか? 前衛一人だと、やっぱり大変かと思うんですが……」

「後衛がいるだけずっといいさ。回復とメインの火力があるから、一人よりもはるかに楽だ」

「ううん、それならいいですが……」

「アルヴィンもそうだけど、ココル。あなたも無理してない?」

「えっ、わたしですか? わたしはまだ、大したことしてませんよ。治癒ヒール状態異常回復キュアーもほとんど使ってませんし、《嫉妬神の呪い》も一回二回の戦闘じゃ気にならないですし」

「バフをかけてくれているでしょう。あなたのことだから、MPは大丈夫なのでしょうけど」


 ココルは深層についてから、これまで以上にバフを重ねがけしてくれていた。

 ただ【80】というレベルに加え、【MP増強・大】、【MP回復速度上昇】のようなスキルのおかげで、MP残量に関しては全然余裕らしい。


「でも、かなり神経使ってない? こんなに何種類も切らさないようにするのは大変じゃないかしら」

「へへ、そこは慣れですよ。神官なら当然です!」

「ココルのバフって、妙に長いよな。それも何かスキルの効果なのか?」


 俺がそう言うと、メリナが訝しげな目を向けてきた。


「何言ってるの? 別に、長さは普通だと思うけど」

「あ、え、えーっと、まあいいじゃないですか! わたしは平気です。早く次のセーフポイントを見つけましょう」


 そう言って、ココルが俺とメリナの背を押す。

 急造パーティーの三人組は、三十二層をさらに進んでいく。

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