【ミイラ盗り】②

「それにしても、このダンジョンも変わっているわよね」


 ドロップアイテムである『マーマンの涙』をストレージに収納している時、後ろでメリナがふと呟いた。

 二足歩行の魚人型モンスターであるマーマンは、ごくまれにこの白い宝石を落とす。


「変わってるって?」

「階層によって、出現するモンスターが全然違うでしょう? 少し上だと植物型モンスターばかりだったのに、今は水や氷属性のモンスターしか出ないじゃない。こういうダンジョン、あまり聞かないわ」

「……そうだな」


 一応、無いこともない。

 下へ行くにつれて闇属性が増えたり、属性の種類が幅広くなるダンジョンなどは、むしろそれほど珍しくもなかった。

 ただ、こんなに何度も変化し、しかも法則性がわからないダンジョンは俺も他に知らない。


「かと言って何かギミックがあるわけでもないし。不気味だわ」

「ギミックは、あるダンジョンの方が珍しいからな。だけど俺も気になっている」

「うーん……」


 メリナが首をひねって唸る。


 どうでもいいが、ココルと並んでもさらに小柄なメリナが難しいことを言っているのは、なんだか子供が背伸びしているみたいでかわいらしかった。

 口にしたら絶対怒るだろうが。


 俺がそんなことを考えていた時。


「あ、あの……アルヴィンさん、メリナさん。何か聞こえませんか……?」

「ん……?」


 辺りを見回していたココルに言われ、耳を澄ます。

 確かに、聞こえる。

 しかも近づいてきている。


「後ろからだ。何か来る」


 俺は二人の前に出る。

 隠れる場所はない。後衛の壁になるのは前衛の役目だ。


 やがて、それが見えた。


 モンスター……マーマンの群れだ。

 鱗の生えた魚頭の人型モンスターが、何匹もの集団でこちらに迫ってきている。

 マーマンはゴブリンのように群れで現れることもあるモンスターだが……規模がかなり大きい。


 群れは、人間を追っているようだった。


 冒険者。装いを見るに盗賊職だろうか。

 小柄な人間が一人、群れの方を注視しつつこちらに逃げてくる。


 当たり前だが、ソロで対処できる数ではない。

 そしてメリナの時のように、ハメのために引っ張ってきているという様子でもなかった。


 逃げる冒険者が、ふとこちらに気づいて目を見開く。


「うげっ、わーっ! 逃げて逃げて!」

「今さら逃げられるかっ」


 盗賊や斥候職でもない限り、ここからモンスターのターゲットを振り切るのは無理だ。

 剣を抜くと、メリナが前に出て言う。


「まず私にやらせて。ココル、バフをお願い。雷属性で」

「は、はいっ」

「おーい、そこの盗賊! 合図したら脇に避けろ!」


 逃げてくる冒険者がこくこくとうなずくのが見えた。


 あえて杖を下げ、詠唱を始めるメリナ。

 それが振り上げられた時、俺は叫ぶ。


「今っ!」


 盗賊が横に飛び、ダンジョンの壁に張り付く。

 次の瞬間、メリナの杖から雷魔法の閃光がいくつも飛び、群れの中へと突き立った。

 何体ものマーマンが一撃で四散し、エフェクトと共にアイテムやコインを散らす。


 俺は思わず呟く。


「すごいな。かなり減ったんじゃないか」

「レベル【35】の時に使えるようになった呪文だし、ココルのバフもあったからね。じゃああとは、これまで通りでいいかしら」

「ああ」


 俺は剣を構える。


「これまで通り行こう」


 そのまま、マーマンの群れに接敵する。

 大した相手じゃない。特に問題なく倒しきれるだろう。


 剣が振られ、魔法が飛び、マーマンはドロップを残して次々に散っていく。


「……」


 ふと視線を向けると。

 例の盗賊が壁に手をつけたまま、俺たちのことをじっと見ていた。

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