第9話どうにもならないことは逃げるべし


夜中の道中は人は誰もいない。アルは夜風にあたりながらレアとクレアと手をつなぎながら歩いている。

そんな様子をジルは呆れながらみている。そんなジルの視線に気づいてアルは首をかしげる。

「どうかしまたした?」

「あなたが人間で羨ましいです。この雑音の中で暢気に歩けるなんて」

アルはあたりを見渡すと、夜の街は確かに活気だっているが、昼間よりはしんとしているような気がする。紙の箱に包まれている街燈がゆらゆら揺れている

「エルフの私は耳異様にいいですから、人がすごくうるさいし、警戒しなければいけませんし」

「わ、私だって警戒してないわけじゃないです!暢気に歩いていません」

「子供と両手つないでですか?いざ外敵が現れたら両手ふさがっていて、どうするつもりですか?」

ジルのいうことはもっともである。

アルはクレアとレアから手をはなす。

クレアとレアはアルの手を逆につかんでいて離れなかったのだが。

「お前ら話すのもほどほどにしろ。夜は獣の時間だ。俺たちのような獣人は活発になるからな」

「ふん!」

「はい」

とアルたち話しているうちに教会らしき建物が見えてきたのだった。

「あれがこの地域の教会だ。正直今日この教会に子供を連れていくことをカタリには話していないから、まずは俺が教会に行ってくる。お前たちはここで待っていろ」

「カタリさんって?」

「ここの教会の神父の名前だ」

そういい終えると、ソニアは教会の門をよじ登って、教会内に入っていく。

「不法侵入なんじゃ?」とアルたちと子供たちは不安になるのであった。

それからしばらくして、不機嫌な様子の眼鏡をかけた金髪の男と、白髪のソニアが、アルたちの目の前にやってくる。

「皆さまおはようございます。きちんと教会の受付を通していただきたいのですが、まぁ、今回は大目に見ましょう。で、その子たちがソニアさんの言っていた子ですか?」

じぃっと、眼鏡男がクレアとレアを見つめる。

怯えたクレアとレアはアルの背中に隠れた。

「失礼。怯えさせてしまいましたね。私はこの教会の神父のカタリといいます」

神父は丁寧に腰を折り胸に手を当てて、子供たちにお辞儀して見せた。

後からやってきたシスター二人がクレアとレアを教会内へと連れていく。レアとクレアは何度もアルの方を見る。

「またすぐに会えるからね!!」

アルが叫ぶと、何度もクレアとレアは泣きそうな顔で頷いていた。アルも何度も泣きそうになりながらクレアとレアを見送った。


「いや寝ていたら枕元にソニアさんが立っていたので、びっくりしましたよ。次からちゃんと玄関から入ってこないと、警備兵に突き出しますからね。それで、仮面のあなたはどなたです?初めて見るお顔の人ですねぇー」

カタリの視線がアルに向けられる。

「初めまして!自分アルと言います。ソニアさんの家にお世話になってます」

「ほうほう?それはそれは」

にやにやカタリはソニアの方を見る。

「神父のくせに下世話な視線はよせ」

不機嫌な様子のソニアに、ますますカタリは笑みを深くする。

「しかし教会も神の身元にあるとはいえ、限界がありますよ。寄付をよろしく頼みますよ、ソニアさん。では。おやすみなさい」

カタリはソニアの肩に一度触れ、あくびをしながら去っていった。

「すみません。ソニアさんの負担を重くして。なんとかお金を早く稼げるように頑張ります」

「出世払いだな」

にやりとソニアは悪い狼の顔で笑う。

かっこかわいいだなと、アルは内心思う。

「ソニアさん、神父さんと知り合いなんですね」

「ああ、俺が餓死しそうなときに、あいつが食べ物をわけてくれてだな」

「そうなんですか」

「そうだ。ジルなんかあいつが苦手すぎて、無口で話さなくなるんだ」

ソニアがジルに目を向けると、ジルは顔をそむけた。

「へぇー。どうして苦手なんですかね?」

「さぁな」

「あの神父どう見てみ胡散臭く見えるからですよ」

とジルは吐き捨てるように言う。

「とにかくあいつはいい奴かどうかはわからんが、食い物をくれるからまぁ、いいやつなんだ」

やはり動物は食べ物をくれる人間には懐くらしいと、アルはわかって頷く。

「そうだ今度薬草を集める仕事があるんだが、アルもやってみるか?」

「ぜひ!」

そこでジルははっと、固まる。

「そういや仕事するのに冒険者組合って、身分証明書が必要ですよね?アルの身分証明書を調べれば、アルが何者だか、どこから来たのかわかるんじゃないでしょうか?」

「そうだな!どうしてそこに気づかなかったのか。けれどスラムの連中は皆身分証明書なんぞ持っていないから、わからない可能性が大きいが」

「スラムでこんな顔の人間みたことがないですし。どこからやってきたのでしょうね、あなたは?」

ジルがアルの顔を見つめてくるので、なんだか恥ずかしくなってアルは顔を俯いた。

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