第8話 客がやってくる。
怖い怖いめちゃくちゃ怖い!!
内心アルはビビりまくりである。懐にいれたあのジルのファンタジー紙の位置に触れて確認し、まっすぐアルは地面に落ちた仮面をもう一度つけて、ヴェイスを睨み返す。
「余計な真似ってなんですか?」
そう言ったら、あ、ヴェイスにもう一度仮面とられた。
仮面!!
「こんな仮面をつけてしか話せんのか?お前らがうちの子らに下手なちょっかいだしてんのわかってんだよ?お前らのせいで俺の妻まで出ていったんだろうが!!」
目の前で怒鳴られて、アルはすくみあがるが、平常心を保つ。負けたくない。というか守りたいのだ。
「あなたの奥さんのことは知りません。それにあなた、なんか顔色悪いです!大丈夫ですか?」
まっすぐ見てくる美しい容貌に、ヴェイスにたじろぐ。
「うるさい!」
ヴェイスに襟首掴まれて、間近に男の顔を見上げるアル。
いや、怖いなとは思いつつアルは冷静になろうと、男の顔を観察してみる。男は顔色が真っ白だ。
この男と子供のことを話し合うのは無意味だろうなと、思う。だからそれ以外のことを言う。
「体調悪いんではないでしょうか?具合が悪いのなら医者にいってください。貝類の汁がアルコール飲んだ後に飲むといいと聞いたことがあります」
「黙れ!これ以上俺を侮辱するな!!」
「いや、侮辱しているのではなく心配しているんですけど」
間近でにらみ合っていると、ヴェイスは歪んだ笑みを浮かべた。そして何を思ったのか、襟首を引き寄せて口づけして、突き飛ばしてきた。
「あの子たちは俺の子供だ。余計な真似をするな。もうあの子たちの行き場所は決まっている。これ以上何かする気なら、警備兵に訴えてやるからな」
ヴェイスはアルをにらみつけると去っていった。
い、いや、なんで?気持ち悪いし、下手な暴力よりもショックだと、アルは自分の口を必死で拭く。
しかしヴェイスは子供たちの行く場所は決まっていると言っていた。もう残された時間はあまり残っていないように思う。
レア君とクレアちゃんはあの家にもういてはいけない。そう思う口を拭きながらアルは料理を作りに台所に向かう。
泣きそう。
台所の水で口を洗った。
今日の夜ご飯はなんか粒粒の穀物にたくさんの肉を入れて蒸したものである。あと野菜をいためて蒸したものの上に置く。一応味見をしたが、普通の味だった。
ソニアが帰ってきてからアルを見るといった。
「お前、アル中の匂いがする」
アルは物悲しく泣きそうになりながら、今日ここにヴェイスがやってきたことを告げ、あった出来事を詳しく話す。
するとソニアはアルの頭をなでてくれる。
「災難だったな」
アルはソニアにくっついた。やはりもふもふは落ち着く。荒れた気持ちが少しだけ回復する気がする。
「しかし教会に話をつけるなんて悠長なことは言ってられんな。一応今日仕事帰りに教会にいって話はつけたが、すぐにレアとクレアを連れ出す必要があるな。だが父親は警戒しているはずだ。どうあいつらを連れ出すか」
「そうですね」
ソニアとアルは思い悩む。シルカちゃんはかまってと、アルの服を引っ張るので、シルカちゃんのことを抱っこしておろしてを繰り返すと、シルカちゃんはきゃっきゃっと、笑う。
「さぁ、ご飯にしましょうか。まずかったらすいません」
味見してあんまりおいしくなかった免罪符として、アルは謝っておく。
………そしてなぜかアルの料理は、ソニア達には好評なのだった。ソルはのどに詰まらせるほどの食いつきだ。慌ててアルはソルの背中を叩いた。
そんなアルたち心配をよそに、その夜クレアとレアはソニアの家にやってきた。
寝る時間にソルとシルカの体を拭いていると、適当に石で積み上げた外壁に、岩が何度かぶつかる音がする。
「はい」
この家にはドアはなく暖簾だけがかかっているだけなのだが、ジルの呪符のファンタジー紙が貼ってあるから、出ていけと念じるとその客は吹き飛ばされるらしい。すごいよね、ファンタジー。あのヴェイスにも念じればよかったと、しくしくアルはなく。というのはともかく、アルは玄関に向かう。
そこにはレアとクレア兄妹が立っていた。
レアとクレアはいつもの通りおどおどした様子で、アルの顔を見ると、「会いたくなって」とそういった。クレアは泣きそうな顔でレアの服をつかんでうつむいていた。
アルはまた子供たちの顔が見れた顔にほっとする。後ろからソニアがやってきた。
「お前たち今から教会に行くぞ。もうあの家には戻らない。あの男はお前らの父親であること放棄している。お前らの保護者にはなりえない。いやか?」
ソニアは屈んでレアとクレアの目線に合わせる。
「この家がいい」
ぽつりとおどおどしないでレアはつぶやく。隣でクレアは頷く。
「すまない。この家はだめだ。あの父親がやってくるだろう。教会にはアルも俺も会いに行く。大人は勝手ですまない」
そう言ってソニアはレアとクレアの頭をなでた。
するとクレアとレアは頷いた。
夜にソニアに呼び出されたジルは不機嫌に眉を寄せている。
「すまないこんな夜中に、この子たちを教会に送っていきたい。手伝ってくれ」
「ソニアラニア、今度何かおごってください。それでチャラです」と、ジルは微笑む。優しい微笑みだ。この笑みをアルにも向けてほしいと、残念に思っていると、ジルはアルの方に視線をむけた。
「あなたの厄介ごとにソニアを巻き込まないでいただきたいです」
にっこり微笑む美しいジルに、「す、すいません」とアルは俯いた。
「俺は厄介ごとだとは思わない。俺が俺自身の意思で決めたことだ。アルは関係ない」
そうソニアはつげる。ジルはため息をつく。
「随分とお人よしの狼ですね。いつか揚げ足とられて利用されないように気を付けることですね」
とジルは皮肉気に言ったものの、ジルはいつだって人に対して忠告して心配してくれているような気がする。
アルにたいしてもそうだ。
だからアルはジルのことが嫌いではないのだった。
ジルは家に残るソルとシルカが安全なように、入念に守護の呪符を家中に貼りまくり、ソルとシルカに部屋から出ないように言い、後からやってきた黒猫のラフィーにソルとシルカの子守を頼んだ。
ラフィーは尻尾をシルカに掴まれ、悲鳴を上げた。
「この仕事は高くつくわよぉおおお」
と叫んでいたので、ソニアはシルカをたしなめつつ、「分かった。今度ごちそうする。お前の家族もつれてこい」と言っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます