第10話 それぞれの居場所と、母親の事情と気持ち

 ジルにアル手作りの焼き豚を手渡し、お礼を言い、アルとソニアは家に帰る。

子守をしていた黒猫さんのラフィーは、半泣きで、ソルとシルカの酷い所業を、ソニアたちに訴えてくる。

アルはついラフィーの頭をなでなでしたら、「猫扱いしないで頂戴!」と引っかかれた。ゴロゴロ喉慣らしていたのに。

心細そうにしていたソルとシルカの頭を、ソニアはなでていた。


その深夜アルはソルとシルカを寝かしつけているのが見える。アルが来てからというもの、ソルが子供がえりして困る。とソニアは思う。もう少し猛々しい狼に成長してほしいと、アルの膝に頭をすりつけているソルを見て思う。

遠くから追ってくる匂いに、ソニアはそっと家を抜け出した。


「ここに子供たちはいないぞ」

暗闇の庭先に、ソニアは声をかける。

そこには外套で顔を隠している女が、ソニアの庭先から家の中を見ていた。

「あの子たちどうしている?」

不安そうな女の声。

「父親から逃げ出して今教会にいる」

「そう」

「迎えにいってやれ」

「無理よ。生活の基盤ができていないもの」

「そうか。一緒に生活するのは無理かもしれんが、会いに行ってやれ。子供たちはお前に捨てられたと思うぞ」

「ごめんなさい。もう限界なの。もう少し時間を頂戴」

「子供たちにきちんと話したのか?」

「いつか迎えに来るって言っているわ。どうなるかわからないけど、いつかあの子たちに会いたい」

「そうか」

「私の気持ちが落ち着いたら会いに来るから、それまであの子たちをお願いします」

女は深々とソニアに頭を下げる。

ソニアはため息をつくと、「勝手にしろ」というと暖かな部屋の中へと向かう。背後から小さな声で「ありがとう」という声が聞こえてきた。

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