第6話 仲間


アルが家に帰ってくると玄関には、レアとソル一緒に並んでのにこにこしながら出迎えてくれる。

その子供たちの姿に、ほのぼのする。どうやらレアとソル仲良くなったらしい。レアとソルの顔は同じようにすすけていた。

なぜか子供たちの隣にいるジルはげっそりしていたが。

どうやらレア兄妹とソル兄妹は仲良くなったらしい。

家の奥ではなんか木の棒でシルカとシルカが人形ごっこらしきものをしている。

「さぁ、お昼にしましょうか」

そうアルが言うと、子供たちの歓声が上がった。


次の日の朝、レア少年が家の前に立っていた。偶然アルがレアの姿を見かけて、「おはよう。おやつあるよ」とレアのもとに立つと、レアは一枚の紙を手渡してくる。

「これお母さんから」

手渡された一枚の紙には、「子供を頼みます」とだけ書かれていた。

アルは血の気が引く。

ど、どうしよう?

レアはアルに紙を手渡すと、そのまま走って家に戻っていく。


そのことをソニアに報告すると、当たり前のように朝のテーブルに座っているエルフのジルがそらみたことかと、鼻をならす。

「ほら、みたことですか。中途半端に手を貸そうとするからこんなことになるんですよ。レア達の母親はあなたがやってきたことに安心して、あなたがたに託していってしまったんでしょうね」

「す、すいません」

アルは項垂れる。

「いや好都合だ。これが母親からの手紙だというのならば、子供たちを教会に預ける口実になるだろう」

どこまでもソニアは優しい。アルは泣きそうになる。

「内にレア君とクレアちゃんをおいてあげることはできませんかね」

「あなたは!」アルをにらみつけ、たち上がって声を上げようとするジルを、ソニアは手で制する。

「やめろ。内は無理だな。レアやクレアの父親から、内では守ってやれない。国は親だというだけで無条件で子に対しての権利をすべてもっているからな。もしレアたちの父親がうちにきたらどうしようもない。レアの父親を殺すこともできんしな。

母親の手紙は一応効力はあるかもしれんが、内ではなく教会のほうが父親よりも力が強い。俺の知っている教会はいい教会だ。そこのところはうまくやるだろう。まぁ、教会がレアたちの父親に直訴される可能性はあるが。あいつの父親は追い出されたとはいえ、貴族らしいしな」

「なんですって?あの酔っ払いのろくでなし男のヴェイスは貴族なんですか!?」

ジルは驚いて身じろぎする。

「そうだ。貴族の家から追い出されたと、ミリは言っていた」

「また厄介な」

疲れた様子のジルに、ソニアは頷いて見せる。

「だからうちではだめだ。あいつらは内にいることがもう知られている。守ってやれん」

二人ボッチになってしまうあの子たち。アルは俯く。

「貴族だとやばいんですか?」

「そりゃそうですよ。貴族というだけでこの国では大抵の犯罪は認められますからね」

吐き捨てるように言うジル。

「落ち込むな、アル。これは好都合だ。教会に話をつける間、この家にあの二人をかくまってやれる。これであいつらは飲んだくれの父親にも慣れない人間から解放されるんだ」

「はい。教会にあの子たちに会いに行ってもいいですか?」

「もちろんだ」とソニアは頷いてくれる。ほんとうに優しい狼だ。なんとなくアルはソニアに抱き着きたくなったが、我慢する。

そのときジルのお腹の音が鳴り響く。

「そろそろ朝ご飯にしましょうか?ソル君とシルカちゃん起こしに行ってきますね」

顔を赤くしているジルの方を見ないようにして、アルは子供たちを起こしに向かう。

 用事があったのでソニアさんの冒険仲間とは、今日会うことになったとソニアさんは告げる。

「仕事に行く前に、少しだけアル、お前を俺の仲間に紹介する。すぐに終わる。あさすこし時間あるか?」

ソニアの言葉にアルは頷く。

朝ご飯を食べてぐずるシルカを抱っこし、拗ねるソルのほっぺをつつく。

朝ご飯をすますと、家の前に三人がやってくる。ジルをふくめると四人になるのか。


一人は茶色いふさふさの犬耳と尻尾を持つ若い男。愛嬌があるハンサムな顔立ちである。

もう一人は小柄な耳の先がとんがったエルフと同じ黒髪の絶世の美しい顔立ちの少女である。

いや、この世界で絶世の美少女ということは、絶世の不細工となるのか?正直アルは少女の美しさに、惚れ惚れしてしまう。

あと少女の隣にはいわずと知れたプラチナブランドの長い髪の美しい青年のエルフのジルが、ふてくされたような不機嫌な顔で立っている。

もう一人は人間のように服を着て二本足で立っている猫である。ご丁寧に靴まで履いている。猫はにやにや笑いながら腕組をして、アルの顔を見上げている。

 ね、猫!?

内心アルは相当驚いた。

「随分と美人さんねぇ、ソニアちゃんったらむっつりすけべ」と、黒猫は話し出す。

は、話すの!?

アルは驚愕で目玉が飛び出しそうになる。

「こいつは妖精族のラフィーだ」

ソニアの黒猫紹介に、アルは顔が引きつりながら「は、初めまして、アルです」というと、まるっきり黒猫にしかみえない人はセクシーな女性の声で、「よろしくね、アルちゃん」といってアルに手を差し出した。肉球がぷにぷにする。

「こいつ、男なんですか?全然男に見えないっすけど?」

茶色い犬耳青年は、背後からアルのない胸を探ってくる。

「わぁあ!」

驚いてあるは飛び上がる。

ないから、胸ないからと、アルは触れてくる手に慌てる。

「やめろ、馬鹿!!」

ソニアはアルの背後にいる青年の頭を叩いて、アルから引きはがしてくれた。

「この馬鹿は犬族のレニンだ」

「馬鹿ってひどいっすよ!犬族っていっても俺っちも狼の亜種っからねぇ。よろしく☆」

手を広げてレニン君はポーズをとってくれる。

うむソニアとは全然違ったタイプの獣人さんのようだな。

「初めまして美しい人、私はカタル。妖精族のドワーフです」

黒髪の美少女に、思わずアルは顔を赤くする。

「は、初めまして」

「何故顔を赤くする?」

カタルは首をかしげる。

「アルには俺がハンサムに見えるらしい。だからカタルも美人に見えるのかもしれんな」

「おや、珍しい御仁だな」

しみじみカタルはうなずくと、じっとアルのことを見てくる。

やめてほしい。緊張してしまう。

しかしドワーフって毛もくらじゃらの小型の小人のようなイメージがあるのだが、カタルにはそれがまったくない。

「で、あとは知っている妖精族エルフのジルだ。エルフは妖精と人間の混血だといわれているが、定かではない。ドワーフはもっと古い民族で謎が多く人の古い種族と交わった妖精だといわれている」

「そ、そうなんですか」

ジルはアルを見ても無表情である。き、気まずい。

「よ、よろしく、ジルさん」

にこやかにアルは挨拶するが、ジルはそっぽを向いて「嫌です」と言い放った。

ショックである。

「そうだ!あんたがこないだソニアさんの弁当作った人っしょ!少しソニアさんからもらったら、あれめちゃくちゃ美味しかったんすよね!俺っちの友達ないでも評判になっててさ、今度食事作ってほしいっす」

「お前が勝手に俺の弁当からとったんだろうが」と、ソニアにレニンは睨まれている。

「ああ、そうです。今度お金を渡すので、私の友人にもご飯を作っていただきたいのですが」

ジルがそういう。

「へぇ、あなたご飯おいしいんですね。気になります。私も食べたいです」

カタルも興味深そうにアルを見てくる。アルは赤面する。こんな美少女に会ったことがないので、なんだかなれない。

「あらま、私も食事には飽き飽きしてたのよねぇー。今度アルちゃんのいただきたいわ♡」

うふっと、黒猫さんのラフィーには、ウィンクをいただく。

「よかったな、アル。金を貰えばいくらでも食事を作ってやる。いつでもうちに来い」

そうソニアが言うと、「ソニアさんのけちー」とレニンから声が上がる。

「あ、あとソニア、エルフの始まりは正確には神と妖精の交わりだと言われていますから。少し違います」

ジルがそういうと、ソニアは面倒そうな顔で、「そうだな」と適当にいった。

レニンはアルの両手を握って、なにやら目を輝かせて「かわいこちゃん、俺と一発どう?」といってソニアに襟首をつかまれていた。


「そろそろ行きましょう?」

カタルが言うと、ソニア達は手を振って笑顔で去っていく。レニンにいたっては、「またね☆可愛い子ちぃゃぁあああん!!」と手を振っていた。

笑顔でアルは手を振り返していたが、正直アルはレニンが苦手であった。

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