お母さんの事情と気持ち その二

ソニアは立ち止まって、アルの方を振り返ってみた。

「あいつらの手前言わなかったが、あいつらの母親の仕事先は娼館だ」

「え?娼館って」

「女が体を売る場所だ」

「お母さん、体大丈夫なんでしょうか?」

娼館という単語と同時に、梅毒という言葉が思い浮かぶ。

「あいつらの母親のミリは、あの飲んだくれに見切りをつけずになぜかそばにいると、近所では七不思議のように語られている」

「七不思議」

この世界にも七不思議という言葉があるんだなと、アルは不思議に思う。

この世界にも?ん?

「そうだ。近所の奴らはやっかいごとが嫌でこれまで放っておいたわけだ。俺は忙しくて全然のあいつの子供のことは知らなかったが、ここまできたらどうにかしないといけないだろう」

「そうですね」

「行こう」

「はい」


「帰ってください」

ミリの母親が務める風俗の店員らしく眼鏡をかけた背の高い黒髪は、店にやってきたアルとソニアを見るなり言い放つ。

「この店にミリという女がいるだろう?会わせてくれ」

「客でもない他人に合わせる女はいねぇな」

にやにや店員が笑っている。

「客ならいいんだろう?」

そういうとソニアは一枚のお札らしきものを、差し出す。

「毎度」

にやりと店員の男が笑うと、「少々お待ちください」と店の中に入っていった。そしてしばらくすると、一人の金髪の美少女が出てくる。

こんな美少女が何故あの飲んだくれと、アルは首をかしげる。

いや、この世界では美少女ではないのか?

「あなたたち二人でするの?私そういうプレイはしてないの。一人ずつならいいわ」

「あの初めまして、私はアルと申します」

「仮面なんかしてまさか犯罪者じゃないでしょうね?」

「いえ、犯罪者というか、あなたの近所に住んでいるものです。レア君とクレアちゃんのお母さんのミリさんですよね?」

「あ、あなたたち何なの?」

「お父さんがお子さんたちに暴力を振るったりひどいことのをとめたいんです。どうにか手助けしてもらえないでしょうか?」

「帰って!帰って!」

ミリはアルたちから距離をとり、走り出してしまう。そのミリの腕を素早くソニアは掴んだ。

「何かあったら俺たちがお前を助けてやる」

怯えた目でミリはソニアを見る。ソニアは牙を見せる。

「あの酔っ払いのろくでなしの旦那がお前たちを殴るというのなら、俺たちがお前たちを助けてやる」

ミリはもう走り出そうとせず、立ち止まる。そして俯く。

「ここでは話せない。店の中にきて」

ミリとともにソニア達は店内に向かったのだった。


殺風景な部屋にピンク色のカーテンがたなびいている。ミリはそのベッドに座ると自嘲気味というかほんの少しの悪意ある顔で微笑む。

「急に何なの?これまでほったらかしだったというのに」

「お仕事中すみません」

「あなた真面目ね。そこのオオカミの彼は本当に格好がいい。人は本当に顔じゃないのね。行動がよければ惹かれる。信じてもらえないけれど昔のヴェイスは本当に優しかったのよ」

「そうなんですか」

「ええ。それはもう。それにヴェイスは嫡子ではないけど、貴族なのよ。優しくて貴族で私は舞い上がったの。私は美人でもないし、ヴェイスが私を選んでくれた時は嬉しかった。まぁ、貴族に選ばれたっていう打算がなかったら嘘になるけど。私たちは本当に家族になれるって思っていたんだけど、顔のせいでヴェイス実家から追い出されたの。親から捨てられたってあれてね。もう私じゃ手が付けられないくらい」

「家を出ていこうと思わなかったんですか?」

「思ったわよ?でもさ、子供二人連れて私だけでこのスラムで生きれると思う?あんな飲んだくれだけど、一応時々は稼ぎがあるの。いつか昔みたいに優しい人に戻るかもしれないし」

「とにかく子供をどうにかしろ。あの様子じゃそのうちにお前のこどもは死ぬぞ」

「これ以上どうしろっていうの?私は万能じゃないのよ!!」

叫ぶミリの体をアルは抱きしめた。

「大丈夫。私たちがいますからね。お子さんのことは一緒に考えましょう。つらいのならいつでもうちに来ていいんですからね」

「……あなたなんか異様にイイにおいがするのね」

そういったあとミリはげらげら笑い、「ありがとう」とぽつりと呟いた。

そうしてミリと別れてアルたちは店の外に出た。


それがミリと会った最後だった。

ミリは子供にアルに手紙を渡すように言い残すと、一人家を出て行ってしまい、行方不明となってしまった。

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