「七日後に祝祭がある。その日は天使たちも浮かれているし、コレッジョ宮殿の警備も手薄になって、番人がひとりかふたり、いるだけだ。」


 ルチアーノの家のかしの大机には、コレッジョ宮殿の見取り図が広げられていました。四方を水晶で押さえた古い古い紙を、三人はのぞき込みました。


「魂の間は、入って十六番目の間にある。ここだ。」

 みんなの目の前で、正面玄関とおぼしき場所にあらわれた光の球が、するすると動いて、ダイヤ形をした部屋の上で止まりました。


「部屋の窓は、小さな中庭に面している。この庭を抜けると、森へつながる裏通りがある。そこから湖で待ち合わせ、界下へ降りればいい。」

「なるほど。」


「だいたいこんなルートでいいと思うが、ミッチェル、すべての根源である悪魔、だが……、その老人が言うには、奴は罰を受けたと言っていたんだな?」

「うん、何だかそんなことを言っていたけど。」

 ミッチェルは、青りんごをかじりながら言いました。


 ルチアーノは、ちょっと眉根を寄せて考えると、下界には武器を携帯しよう、と言いました。


「えっ? 何で?」

「魂を戻す時には、正装するのが正しい。普段は持たないものでも身につけ、敬意を表すのが筋だろう。」


「……ってことは、ルチアーノさんの翼も見られるかも。」

マチルダはミッチに耳打ちすると、サンダにもウィンクで合図しました。サンダは顔をそむけると、こっそり吐くまねをしました。


「おっけ。じゃあ、湖に隠しておこう。」

「小さくして持っておくほうがいいよ。」

「ピアスにするのは? 可愛いわ。」

マチルダが満面の笑みを浮かべて言いました。


「ああ、それがよさそうだな。」

「じゃあ、中にはどうやって入る?」

「そうだなあ、どうにか門番の気をそらして、入った奴が、中から開けるってのは?」

「うーん、門番かあ。」

「わかった! 神様からの手紙を作って、堂々と入るのは?」

「祝祭に、悪魔が出たって言うのはどうかな?」


「ちょっとちょっと、ふたりとも。嘘はできるだけつかないほうがいいわ。瞳が曇ってしまうわよ。」

「じゃあ、どうするんだ? 神様に忠実な門番に、全部説明してわかってもらうのか? そんなの、悪魔と踊るようなもんだぜ。」

ミッチェルの言葉に、みんなは頭を抱え込んでしまいました。


「あんたに何かいい考えはないのか? こういう時のための相談役だろ?」

 サンダがルチアーノを見ると、彼は、組んだ腕の間からのぞいた指を動かしながら、本棚のほうをみていました。

 本棚には、青い革製の連作や、美しいマーブルペーパーで装丁された本が、何冊も整然と並んでいました。

 マチルダも、まるで羽かうろこのように複雑なマーブル模様を見ていましたが、ふと、言葉を探るように話し始めました。


「ねえ、すごく昔に……、そう……人魚マーメイドだったかしら……?  人間の船乗りたちが、彼女たちの美しい声に魅せられて、ふらふらと引き寄せられて行ってしまったって……。どこかで聞いたことがあるわ。」


「それいい! それなら、嘘もつかずに、うまいこと入れるぞ!」

サンダがいきまいて言いました。


「でも、そのためにはマーメイドを探さなきゃいけないぜ? そんなに簡単に見つかるかな?」

とミッチ。

「それに、人間にしか効かないかもしれないのよね……。」


「そんなことないさ。門番なんて、下級天使だろ? 人間と同じようなものだよ。」

「おれらより位高いのに?」

「えっ、そうだっけ?」

「うん。」

サンダは肩を落として座り込みました。

 と、ルチアーノが椅子から体を起こして言いました。


「いや、いい考えだ。マーメイドではないが、心当たりがある。」

「ほんと!?」

三人の顔が、ぱっと輝きました。


「思わず眠ってしまうような、心地よい調べを奏でる竪琴弾きがいる。相手は天使だから、効果があるのは火が炎になるまでの間くらいかもしれないが、それでも十分だろう。マチルダ、よく思いついたな。」


 褒められたマチルダは、ちょっと顔を赤らめて、頬にかかる髪の毛を二、三度さわりました。


「じゃあ、それで決まりだ!」


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