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閉ざされた魂が安置されている場所は、一つしかありません。コレッジョ宮殿です。
そこは、アルネリスの街にある宮殿の中でも、ひときわ豪奢で、それでいて、許された者しか入ることのできないミステリアスな宮殿でした。
入り口の扉までは、灰色の長い水の絨緞がひかれ、毎秒違う模様を織りなし、さながら絵画のようです。
白に金の縁取りの表玄関には、水晶でできた百合の花や、アレキサンドライトの天使の彫像が飾られ、昼は赤く、夜は緑に輝くのでした。
その中の、暗く眠るような広間に、ピンク色の
アンナータの閉ざされた心があるのは、そこしか考えられません。
しかし、宮殿は上位の天使さえなかなか入れないところ、ましてミッチェルたち下級天使など、入れるわけがありません。
神様も助けてくださらない今、できることは、このまま忘れてしまうか、さもなければ、こっそり忍び込んで持ち出すかしかないのです。
最初の考えは、ミッチェルには到底できそうにありませんでした。美女の悲劇にすっかり魅入られていましたからね。
でも、宮殿はいつも天使が番をしていましたし、魂を取り戻すのはなかなか難しそうでした。そこで考えに詰まってノーノさんのところに行ってみたのでした。
でも、ルチアーノについては、ミッチェルはあまり気が乗りませんでした。
よいうわさがほとんどでしたが、コレッジョ宮殿同様、どこか謎めいたところがあったからです。
謎めいた宮殿に入る仲間までが謎めいていては、なんだか落ち着かないじゃありませんか。
「ルチアーノを仲間に!?」
三人は、こっそり作戦会議をするために、マチルダの家のテラスに集まっていました。
今日は夕方まで誰も帰って来ないので、誰かに邪魔されることもありません。話を聞いて、ぱっと顔を輝かせたのは、マチルダでした。
「すごいわ! ルチアーノと言ったら、とーってもかっこいい大天使じゃない!
知的な眼鏡をかけていて、燃えるように美しい翼をしているんでしょう?
めったに見せてもらえないって聞いたけど、頼んだら見せてくれるかもしれないわ!
わたし、あの人は忙しくって、復活祭かなんかの時じゃないと、街にはいないんだと思ってた。いま、図書館にいるなんて! さっそく行きましょうよ、行きましょうよ!」
「サンダはどう思う?」
ミッチェルは、ミルクを飲んでいたサンダに聞きました。
「何で翼を見せないんだろ。あやしいな…。」
「あやしくなんかないわよ。みんな、ルチアーノは立派な天使だって言ってるわ。
ファンだって、たくさんいるのよ。とっても素敵なんだから!」
マチルダが口をとがらせて言いました。
「へっ、会ったこともないくせに、素敵かどうかなんてわかるもんか。それに、そんな天使なら素敵な恋人がいて、マチルダなんか相手にしないと思うな。」
「何ですって!? どうしてそんなこと言うのよ!」
「そう思ったから言ったのさ。」
どん、と背中を押された拍子に、サンダのミルクがミッチェルの顔にかかりました。
「あ……ごめんミッチ……。お、お前のせいだぞマチルダ!」
「何よ! あんたがいけないんじゃない!」
「お前が押したりするからじゃないか! こないだだって、祝福の天使がかっこいいとか言って……」
「あれは、あんたがわたしとの約束やぶって、ほかのコと遊びに行っちゃったからじゃない。」
「それはあやまったじゃないか!」
ミッチは、髪の毛の先からミルクをぽたぽた垂らしながら、二人のやりとりを聞いていましたが、ついにどなりました。
「お前ら、いいかげんにしろ!」
あまりの大声に、二人はおろか、外にいた猫までもびくっとしてふり返りました。
「いいか、これは悲しんでるあの人に魂を返すための、大事な大事な話し合いなんだぞ! なのにふたりでああだこうだ言い合ってたら、全然進まないじゃないか!
おれはルチアーノと組むのは気が進まない。マチルダは仲間にしたいんだろ? サンダはどう思うか、聞いてるんだ!」
ミッチェルが髪を振り乱しながら言うので、ふたりは飛んでくるミルクのしぶきをよけなければいけませんでした。
「わ、わかったよ。落ち着けって。おれは……、ノーノさんの紹介なんだろ? だったら、一回会ってから決めればいいと思う。」
「……よし、じゃあ、行ってみることにしようぜ。」
そう言うとミッチは、水桶から水の精を呼び出しました。
水の精たちは笑いながらミッチェルを取り囲んで、ぐるぐると小さな竜巻になると、あっという間に彼を綺麗にしてくれました。
そうして三人の天使たちは、図書館へ向かってかけ出しました。
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