第7章

「あなた、歌を詠むのが下手なのね。でも直接的で面白いわ。」


そう言うとにっこり微笑みながらじっとこちらを見つめてくる。


まさか起きていたとは。自分でも駄作だとは思っていたが目の前で講評される恥ずかしさと美女に見つめられる恥ずかしさで顔が真っ赤になってしまった。


「い、いつから起きてたんですか?」


「最初から。」


彼女はそっけなく答えこう続けた。


「そもそも私寝てないのよ。風の音を聞いて何か歌を詠もうかと考えてたの。でもあなたがまじまじと見てくるものだから、笑いを堪えるのに必死で歌どころではなくなってしまったけれどね。」


そう言うと彼女は口元を隠し上品に笑った。


「そこも見られてたのかーーー」


俺は膝から崩れ落ちた。絶対俺キモがられてる。もう死にたい。


「でもこういう大胆な事する人、嫌いじゃないですよ。」


「えっ、」


予想していなかった展開で頭が追いつかない。ひとまずキモがられてはないようだ。


「でもあなたのこと初めて見たわ。この町の人じゃないでしょう。」


「そ、そうなんです。ひと月前くらいからこの町に住んでて、、、」


「なかなか良い町でしょ。」


その問いに俺は即答した。


「はい!町のみんなは親切だし明るいし、面白くて、この町に来てから毎日が楽しいです。」


「私敬語は疲れるから堅苦しくて好きじゃないの。あなた、敬語禁止ね。」


「はい、いや、う、うん。わかったよ。」


俺は少々困惑しながらもタメ語で話すことにした。


「私ね、この町の桜ヶ原も商店街もお城も森も全部大好きなの。だからきっと死ぬまでこの町に残り続けるわ。」


そう語る彼女の目は美しくありながらも、どこかさみしそうに遠くを見つめていた。


「私、そろそろ行かなきゃ。」


そういって彼女は木の根におろしていた腰を上げた。


身長は150なかばくらいだ。小柄で華奢なところも良い。


彼女の背中は徐々に小さくなっていった。10メートルほど行ったところで振り返った。


「あ、そうだ、告白についてはお断りするわ。でもあなたと話すの結構楽しかったらよかったら明日もこの木の下で会いましょう。」


そう言うとまたあるき出す。俺は振られたというのになんとも微妙な結果で拍子抜けしてしまった。


最後に一つだけどうしても聞かなければいけないことを思い出した。


「お、俺、直江俊平って言います。君の名前は?」


今度は振り返らずに静かに言った。


「......小町。.......小野小町よ。」

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