第5章
「うん、採用!俊平さん、これから宜しくね。」
あまりにあっさりしすぎていて状況が飲めない。先程までの神妙な雰囲気は何だったのか。
「あ、あの、住むところも、食べ物もなくて住み込みで働きたいのですが大丈夫でしょうか」
「全然いいのよ、むしろそのほうがこちらも助かりますから。」
そんなこんなで俺は悲田院である杏樹堂で働くことになりはや一ヶ月が経った。
子どもたちとは年が近いこともあってかすぐに懐いてくれて鬼ごっこをしたり、ままごとをしたりとでなかなか楽しい。
もっとも鬼ごっこがこの時代にも存在したことには驚いたが。
また千代さんの手伝いでは衣類の洗濯や料理の手伝いなんかをする。
平安時代の食事は現代の食事より遥かに質素で薄味なのだが、千代さんの作る料理は格別でこの時代に来て初めて食事をしたときは思わず涙を流してしまい千代さんや子どもたちを困惑させてしまった。
そんなある日のこと、少年の1人からこう言われた。
「俊平兄さん、はらっぱいこう!」
行きたい行きたいと周りの子達も盛り上がる。
「千代さん、子どもたちがはらっぱに行きたいって言うのですが。」
「あら、行ってきていいですよ、俊平さんこの街のこと知らないんだものね。桜ヶ原は景色が美しくて気分転換にもなりますよ。」
「みんな、俊平さんの言うことちゃんと聞くんですよ。あとはらっぱのことたくさん教えてあげてね。」
「はーい!」
千代さんの呼びかけに子どもたちが応える。
こうして十数名の子どもたちに連れられて俺たちは桜ヶ原と呼ばれる野原にやってきた。
いまは初夏なのでもう桜の葉は緑に色づいているが、きっと春に見たらとても美しい景色なのだろうと思った。
子どもたちに好きに遊ばせて野原をフラフラと歩いていた時、一際大きな桜の木陰でうたた寝をしている女性を見つけた。
興味本位で近づき顔を覗いたとき俺はあまりの美しさに言葉を失った。
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