転日
変化は突然起こるもの。
これは個人的な見解に過ぎない。
例えば、急な雨模様はどうだろうか。
雨は天からの授かり物だというように古来は本来予想すらできなかったものである。
もたらすものは恵か、もしくは厄か。
感じ方はあるが変化をそこにもたらす。
未来を見る、なんて絵空事でしかないと思う。
そんなことならこの人生ってのはもっと楽に生きれる筈だ。
だからこそ、これから起こることはわかるはずもなかった。
☆
今日、四月中頃。
学生でいうところの入学式や始業式、新たな門出の時期にあたる。
満開の桜が存在感を示し、列をなす。
桃色に染まった景観に皆一度は立ち止まり、見ることであろう。
この国日本では象徴とも言える、美しい樹木。
そこで立ち止まり写真を撮る者、かたや脇を進むサラリーマンや学生。
その学生の中に俺こと、志儀
青いブレザーを見にまとい、グレーのズボンと白シャツ、おまけにネクタイを巻いている。
似合う似合わないで言ったら似合わない方だろう。
毎日、毎日鏡の前に立ち嫌というほどみた格好。
もはや、見慣れたが客観視すると、やはり似合わない、その一言である。
両側にある桜並木に見惚れ足がゆっくりと止まる。
「綺麗だ」
そうぽつり言葉が口から溢れるように出てきた。
自然に感動するというのはこういうことなのだろうか。
道を抜ける集団を横目で眺め辛気臭そうに眉根を寄せ、口は少し垂れ下がりどんよりとした雰囲気を出している。
少し長めの前髪を吹き抜けた風が乱雑に散らす。
面倒くさそうに前髪を直していた界凛に人がぶつかる。
その衝撃にお互いによろける。
界凛はあたりどころが良くなかったのか背中をさすっていた。
ぶつかってきた相手側は、こちらを軽く睨みそのまま横を通り過ぎていった。
変な筋に当たったから痛いと誤りすらしなかったことに少し思いつつ、今日は幸先良くないなと頭に浮かぶ。
また一陣の風が吹き桜吹雪が舞う中、界凛は学校へと進む道を見る。
ただに頭の中に出てくるのは、面倒くさいのただ一言だけ。
そして、背中をさすり嫌々ながら霧ヶ丘高校へと歩みを進めた。
☆
霧ヶ丘高等学校。
創立三十数年、平成初期の方に建設された学校だ。
現在、総生徒数は千五百名と大きい学校だ。
学科は普通科、準特進、特進、英特進とこの学校に魅力的なものとして英特進が挙げられる。
創立時期から英語に力を入れている。
その甲斐あってかこの高校にはハーフや外国籍の留学生、帰化した海外生まれの生徒が多くいる。
現在、界凛は三年生の代に入ろうかというところだ。
そこまで頭はいい方ではないため普通科に通っている。
自分では頑張ってないだけで頑張れば上に行けると思う典型的な奴だ。
校門が見えた。
そこそこ年季の入ったこの学校の割には綺麗なものである。
新学期が始まるとあってか生徒会や風紀委員、先生が挨拶をしている。
元気と勢いのいい挨拶に軽く会釈をして、脇を抜ける。
入学式を一昨日に終えて見ない顔ぶれがそこそこ見える。
少し化粧付いた女子に、割り切ってセットしたであろう男子。
皆一様に、新しい生活に心を躍らせているのだろう。
歳は然程変わらないのにもかかわらず界凛はフレッシュさ溢れる笑顔や元気に眩しさを感じ精神的に刺さった。
若いな、そう思わずにはいられなかった。
程なくして靴箱に着く。
慣れた手つきで靴を仕舞い、室内靴に履き替える。
この霧ヶ丘高等学校は校舎が四棟になってできている。
靴箱を抜けて右奥に進めば、一年生が基本的に使う一棟。
左奥に行けば、二年生が基本的に使う二棟。
そして、正面の突き当たりが主に三年生が使う、三棟。
最後に、靴箱の頭上にある本棟だ。
学年の数字がその棟の数字になっているので覚えやすいと評判は良い。
事前にクラスの番号はスマートフォンにメールで貰っているので、あとはそこに向かうだけだ。
階段を上り二階へと移動する。
左側に向かい二つ目の教室が界凛がこれから長らく通うであろう教室だ。
教室のドアを開ける。
「おはざーす」
と小さい声で挨拶をして指定されている席に座る。
現在の時刻は8:25ちょっとまだ生徒が完全に揃ってはいない。
凡そ八割ぐらいだろうか。
三年も通っているとは言っても五百人もの生徒が同じ学年にいるわけで、クラスが変わればある程度見知った顔から「あ、見たことあるな」程度に変わるわけだ。
親しい人がいるわけではないから話すこともないのでスマホでもいじることにした。
界凛は人懐っこい性格ではない為、元々友人は出来にくかった。
友人は少ないが、いるにはいる。
たが、霧ヶ丘高校の生徒ではなく別の高校のため会っても放課後でしかない。
十分ほど有名掲示板を眺めていた。
生徒はもうすでに揃い仲が良いものや顔見知り同士交流を深めていた。
そこへこのクラスを受け持つであろう先生がやってくる。
戸を閉じたようにピシャリと会話が止む。
はっきりとした目鼻立ちに黒縁の眼鏡。
健康そうな白い肌で、後ろに長い黒髪を束ねでいる。
おろしたての黒スーツに襟にしっかり糊を塗ってあるであろう白のワイシャツ着た女性。
この先生は確か、千慈
そう思っていると、、。
「おはようございます。今日からこのクラスを受け持つ、千慈 要です。これから一年間よろしくお願いします。では、さっそくですが始業式が始まるので移動をお願いします。」
一同返事をして移動を開始する。
場所は本棟の地下にある、室内競技でも使うだだっ広い空間。
千五百名も入れるだけあって、初めて見たものは息を呑むだろう。
全校生徒が揃い始業式が開始される。
教頭先生が開式をし生徒会長が今後の生徒としての行動を示唆する。
校長先生からのありがたいお言葉を三十分弱お聞きして、教頭先生が閉式する。
界凛はこの時間気づけば船を漕ぎ夢の中に居た。
閉式が終わりやっと目を覚ます。
ぞろぞろと生徒が教室に帰る中、それにまぎれて教室へと戻った。
今日は授業などはなく教室に帰ればそのままホームルームを行い、伝達事項を伝えて解散となる。
「それでは、今日のホームルームを終わります。」
「起立、礼。ありがとうございました。」
学級委員(仮)が号令をかけ、ホームルームが終わる。
さっと教室を出て、今日は池袋に向かい有名アニメショップへと向かいだす。
大体、この学園からは電車で三本。
バスで六本なのでそこまで遠くはない。
乖離の家は高校と池袋の中間ぐらいなので近くもなく遠くもなくぐらいである。
普段は電車で通うのだが、満員電車に少し嫌気がさした。
だから、一駅分歩いて通っていたわけだった。
☆
池袋に着くと、すぐさま目的地へと向かう。
ごった返す人混みの中人の横をするすると抜け某メイトに着く。
そこで一、二時間かけて欲しいものを見つけては吟味して欲しいもの選抜会をしていた。
これは譲れない、でもこっちも捨てがたいとうんうん唸る。
決意した後、結局買わないという決断。
お金貯めてまた後で来れば良いやと楽観的に考えて店を出る。
現在時刻15:30、ここまで昼ごはんを食べていなかった。
そのため、なかなかに大きな音で何かを食わせろと言わんばかりに腹の虫が周囲にも響く。
恥ずかしそうに界凛はファストフード店へと向かった。
☆
赤と黄色のエンブレムが施された看板。
見慣れた風貌の店。
人の出入りは頻繁に行われ、会計前には軽く列ができている。
店内に入れば、軽快な入店音が耳に入る。
スピーカーから流れるラジオに意識を向けながら列に並び、自分の番を待つ。
三分くらい待ち界凛の番が来た。
いつも通りといった感じで注文を行う。
「これのセットを一つ。飲み物はコーラで、サイドはポテトでお願いします。」
「お会計は五百円になります。番号をお呼びしますので少々お待ちください。」
会計を済まして再びラジオに耳を澄まして待つ。
程なくして、望みの商品を受け取る。
席に着く。
目の前のハンバーガーを手に取り一口。
美味い。
ただこの一言。
それが全てを表している。
ジャンクなこの味が食欲を満たしてくれる。
変わらないこの味に繰り返しを求めすぐさま手に持つハンバーガーは無くなってしまった。
次にプライドポテトに手を伸ばす。
片手でポテトをつまみつつ、某tterを眺めていた。
トレンドには、東京駅近くで狂暴な動物が現れ被害多数との見出し。
その中にある、呟きを見てみると動画つきのものがある。
少し大きめの狼よりの犬のような動物一匹が人に向かって襲いかかっていた。
すでに周りには三人ほどが倒れていた。
服の所々が破け、露出し生々しい傷跡。
人の周りには血溜まりができていた。
周りから悲鳴が上がる中、誰かが警察に通報していたのか、すぐさま警察官がやってきた。
「大丈夫ですか!!??」
この惨状を見て大丈夫かって聞くのは野暮じゃないなんて思いつつ、画面を見続ける。
警官と狼のような大型犬のような動物と相対する。
そこで血がついたこの生き物を見てこいつがやったのだと確信する。
「グルルルルルゥッ!!」
唸り声を上げ血みどろの体で襲いかかってくる。
警官は許可をもらっていたであろう銃をサイドのホルスターから取り出し、狙いを定めて打つ。
一発目、パァンッ。
響く銃声の音と裏腹に狼のような生き物は横に動き避けた。
すぐさま警官も狙いを定め、二発目を打った。
二発目、パァンッ、パスッ。
「キャインッ!?」
狼擬きに、致命傷であるだろう腹に一発入った。
吹っ飛ぶ体に飛び散る血。
赤々と飛沫をあげて、石でできた床に芸術のように散る。
そこで、すかさず三発目。
フッと警官の息を吐き出す音が聞こえた。
三発目、パァンツ。
「キャウッッ、、」
頭に狙いを定めた一発が狼擬きの命を奪った。
飛び散った脳漿がこれを現実だったのかどうかを問いかける。
だが、悲惨にも被害者は複数人出ていた。
その場に残る火薬の匂いと血生臭さがなによりも現実だと意識を引っ張り続けていたのだろう。
三十秒もしないうちにサイレンが聴こえて、救急車が到着した。
救急車が到着したタイミングでこの動画は終わっている。
動画は三分だった。
界凛はそこまでこの動画のことを信じておらず、映画かなんかを撮っているのではないかと予想を立てた。
半信半疑でもし本当ならこれは大変だなぁと思い、ポテトに手を伸ばす。
だが手には何も当たらない。
動画に夢中になってポテトを食べ終わっていたのだった。
「帰るか。」
そう思い席を立つ。
近くのゴミ箱へゴミを片付け店を出て駅へと向かう。
やはり人混みは多い、鬱陶しさを感じるぐらいには多い。
人がゴミのようだ、なんて台詞が出てくるぐらいに。
「キャァァァァッ!!??」
駅の改札が見えてきたぐらいで後ろから悲鳴が聞こえる。
悲鳴の方向を見ると車がガードレールに突っ込んで黒々と煙を上げていた。
車の上に動画で見たあの狼擬きがいた。
だが動画で見たよりも二回りは大きい。
灰色の毛の身体、首の周りに黄色いの毛が混じっている。
そして、そいつは大きく雄叫びを上げる。
「アオォォォーーーーーーンッッ!!!」
それが何かの始まりかのような合図を出したかのような雄叫びだ。
「うっ!?」
耳を塞ぎたくなる。
空気が震えて視界が歪むように見え、頭が締め付ける痛みに堪える。
雄叫びに身が震えて、動けなくなる。
筋肉が硬直してまるで足のように身動きが取れなくなっていた。
この雄叫びを皮切りに、所々で悲鳴が聞こえ始める。
パニックになる群衆。
やっと動けるようになったと同時に駅の中へと走り出す。
体感にして一、二秒ぐらいだった。
あの大狼に向かいスマホを向けて、歩み寄る1人の青年がいた。
その後ろ2メートル先には女性の姿。
カップルなのだろうかはたまた男は女に気があるのか、どうせ格好いいところを見せようとしているのだろう。
やめておいた方がいいとは思うものの、声をかける勇気などはない。
「どうせ、映画かなんかだって!大丈夫だっ....」
大狼が青年の頭へと噛みつき頭と首が分離する。
首から赤い血が湧き水のようにドクドクと溢れていく。
体はそのままばさりと倒れる。
血の花を地面に描いて、体はピクリとも動かない。
大浪は不味かったと言わんばかりに首を横に振り吐き捨てる。
男の首がコロコロと転がり、一瞬の静寂の後。
「キャァァァッ!!!???」
悲鳴が止まない。
オーケストラのように悲鳴の音が重なる。
幾重にも重なった悲鳴が喧騒の街に幾つ響くのだろう。
勢いを増す逃げる人、人、人。
ビルからも悲鳴が聞こえる。
中から人が溢れる。
その後ろから、動画で見た大きさの狼擬きが襲いながら入り口から出てきた。
体は血に濡れ口には誰かの腕を咥えている。
バキャァン!!!!
また別のビルからは爆発音がする。
濃密な黒の煙が割れた窓ガラスから上がっていく。
その場の入り口からは、五匹ほどの狼擬きがまたしても血塗れの姿で出てきた。
さらに、その背後からは先ほどの大狼と同じ大きさの個体も現れた。
だが、一つ違うのは首周りの毛が青みをがかっていることだ。
次から次へと起こる事態についていけなくなっていく。
混乱の最中でも少しでも他人より冷静なものは我先にと逃げていく。
黒々とした煙が池袋の街所々から昇る最中。
咳き込む声、泣き叫ぶ声、怒鳴りちらす声、諦めたように笑う声、その中で他人を気遣う声。
目の前に広がる全てが、五感を持ってこの地獄が如何なるものかを伝えてくる。
その喧騒の最中、界凛は思った。
何がどうなればこうなるんだ、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます