第四話 アルヒェ


 アルヒェと名付けられた僕達のグループは本格的に活動を始めた。


 デビュー曲が決まり、僕達はデビュー曲のダンスと歌を覚えている。


 センターは僕で、右隣が蓮、左隣が鳴君、右端がリーダーの誠司君で、左端が由良というポジションになっている。


 歌が上手い誠司君と鳴と、センターの僕が歌う箇所が多い。


 ダンスの振り付けと歌を覚えながら、事務所の先輩アイドルのバックダンサーをこなしながら、観客に僕達の顔を覚えてもらっている。


 僕は元々子役として有名だったので、僕のファンも観客席で僕の団扇を振りながら見てくれていた。


 有り難い。


 それに応えるには、一生懸命踊るのみ。


 バックダンサーを沢山こなしながら、合間にデビュー曲の歌とダンスを予習する。


 そんな日々をこなす事三ヶ月。


 相変わらず鳴君と蓮は仲が悪く、誠司君が間に入ってなんとか丸く収まっている。


 由良はダンスや歌を覚えるのが遅い。

 だけど、その分人よりも練習時間を増やし、家でも練習している事を僕は知っている。


 鳴君も、アイドルは只の通過点と言いながら、真剣に歌や振り付けを覚えている。


 蓮は僕や由良、誠司君が振り付けで分からない所を丁寧に教えてくれる。


 そんな日々を送り、デビューの日を翌日に控えた僕らは、歌やダンスの振り付けの最終確認をしていく。


 「うんうん、オッケーよ。べリベリグーよ」


 「まぁまぁかな。明日はそれ以上を見せるように」


 振付師のサファイア松本さんと、歌の先生である皆月先生の合格を貰い、その日は解散する事になった。


 いつものように蓮と由良の三人で帰っていると、由良が不安げな様子で口を開く。


 「あぁ、明日大丈夫かなぁ。ミスをしないか怖いなぁ。やっぱりもう少しレッスン場に残って練習すれば良かったかなぁ?」


 自信なさ気な由良を見て溜息を吐く蓮。


 「いつまで言ってんだよ。松本先生も皆月先生も合格にしてくれただろ? それに由良は誰よりも練習してるんだ。もっと自信を持てよ」


 「う〜ん、でもなぁ。あぁ、どうしよう。不安過ぎて今夜は眠れないかも」


 「もうしょうがねぇなぁ。なぁ、ノア。今夜、俺と由良をお前の家に泊めてくれねぇかな。三人一緒なら由良も寝れると思うんだよ」


 蓮の提案に目を輝かせる由良。


 「うん、それなら確かに寝れるかも! ノア泊まりに行ってもいい?」


 「別にいいけど、親御さんの許可はちゃんと取ってきなよ」


 「おう」


 「うん」


蓮と由良は一度家に帰って泊まる準備をしてから来る事になった。


 せっかくなので鳴君と誠司君にも電話をして、泊まりに来ないか誘ってみた。


 鳴君には断られたけど、誠司君は来てくれるらしい。


 蓮と由良と誠司君が泊まりに来る事を母に話すと、夕食の準備を張り切って始めた。

 

 今晩の夕食は御馳走になりそうだ。


 二時間程して三人がやって来た。


 手にはお菓子や飲み物が入ったビニール袋をぶら下げている。


 「お邪魔します。突然来てしまってすみません。今日はお世話になります」


 誠司君の丁寧な挨拶に「あらあら礼儀正しい子ね」と嬉しそうにする母。


 「こちらこそいつもノアがお世話になってます。ノアの母です。よろしくね」


 「はい、よろしくお願いします」


 母は誠司君が気に入ったようで、ご機嫌な様子でキッチンへと戻って行く。


 皆を僕の部屋へと通し、先にお風呂に入る事になった。


 二人ずつ入ろうとしたけど、蓮が全員で入ろうと言い出し、誠司君が悪ノリして全員で入る事になったんだけど···。


 「やっぱり狭いよね」


 僕達は肌と肌が密着する程のすし詰め状態で風呂の中に入っている。


「誰だ? 全員で入ろうって言い出した奴は!!」


 「「「蓮だよ!!」」」


 「あ、俺か」


 蓮はいたずらがバレた子供の様に舌を出す。


 お風呂から上がった僕らを待っていたのは、トンカツ、ハンバーグにカレー、サラダ。


 とてもボリュームのある夕食達。


 でも蓮や由良は大喜び。


 僕と誠司君は、食べ過ぎないようにセーブしたけど、蓮と由良は食べ過ぎたのか苦しそうにしている。


 夕食後は、僕の部屋に上がり、布団を敷いて皆で横になる。


 しばらくゲームなどをして遊んだ後、電気を消して就寝。


 だけど蓮はまだ眠れてないのか僕に小声で話しかける。


 「···なぁ、ノア。実は俺さ、ノアに言いたい事があるんだ」

 

 「言いたい事?」


 真剣に話す蓮の声に耳を傾ける。

 

 「あぁ、カレンさんがアルシェのセンターはノアだって言ってたじゃん。あれがショックでさ。ノアの事は認めてるよ。お前は、幼い頃から芸能界に居るし、歌やダンスも頑張ってる。だけど、やっぱりアイドルは俺の夢だから。アイドルやるならセンターになりたいってずっと思ってた。だからお前がセンターって言われた時凄く悔しくてさ。でもまだ結成したばかりだから、センターも変わるかもしれないだろ? だから俺はセンター目指して頑張るよ。俺達は仲間だけどライバルだ」


 暗闇の中、連の熱い視線を感じる。


 「うん、僕達はライバルだ」


 「おう」


 僕達はお互いに納得して眠りにつこうとしたけど、誠司君と由良も寝てなかったらしい。


 「なら俺もライバルだな。センターは俺も狙っているし」


 「み、皆がセンターを狙うなら僕もなるよ」


 誠司君と由良の言葉に僕と蓮は笑う。


 「ふふっ、そうだね。皆がライバルだ」


 「あぁ、面白くなってきたな」


 僕達は笑い合った後、気持ち良く寝れた。



 そしてデビュー当日。


 僕らのデビュー会場は五十年の歴史を持つ老舗ライブハウス。


 キャパは二千人程入るみたい。


 デビューライブとしては、中々大きい会場だ。


 だけど、僕らは大手アイドル事務所ジャットのアイドル。


 このぐらいの会場は満席にしないといけない。

 僕らは会場の裏で不安になりながらその時を待つ。


 時計の針が刻々と進み、遂にライブ開始の時間になる。


 「よし、みんな行くぞ!」


 リーダーの誠司君の声でステージへと上がる。


 前を向くと、観客席はペンライトや団扇を持ったファンでいっぱいだった。


 僕達は、その光景に感動しながら口を開く。

 「「「僕達アルヒェです!!」」」


 その日のネットニュースで、ライブハウスの外までファンが並んでいたと話題になった。


 これが僕達アルヒェの始まり。

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