第7話 ジュエリー
私たちは一年ぶりに初秋の東京に居た。
離れて住む私たちにとって、東京はちょうど中間だった。
昨年、付き合い始めて数カ月目に東京で会った時、私たちはお揃いの指輪を買いに、小さなジュエリーショップに入った。
お互いの好みを話し合って決めたショップは、実際に行ってみるととても小さく、可愛く美しいもので溢れていた。
当時、私たちはまだ、二人で出歩くことに慣れていなかった。
街は男女のカップルで溢れていた。――私たちも出会うまでは、何の疑問も持たずに「あちら側」にいたのだ。
30代の女どうしでお揃いの指輪を買うことを、店員にどう思われるかも不安だった。
でも、遠距離の寂しさや、世間体からお互いを守るために、そして何よりお互いを想う気持ちの証に、お揃いの指輪が欲しかった。
たまたま声をかけた若い女性店員は、思い切って私が「お揃いの指輪が欲しいんです」と告げた時、微笑んだまま、ビロードを貼ったケースに二人のサイズの指輪をいくつも並べて見せてくれた。
緊張の中、次々に試して、ようやく二人にしっくりするものを決め、取り扱いの注意やラッピング、会計など経て、最後に彼女は二つの小さな紙袋を私たちに渡そうとしてはっとし、「どちらにどちらのサイズを入れたか忘れてしまいました」と重々しく告げたので私たちは笑ってしまった。彼女も緊張していたのかもしれない。
問題ないですよと笑って私たちは受け取った。ホテルで包みを開け、お互いの指にはめるのだから。
そしてそれ以来、ずっとお互いの薬指にゴールドの指輪が光っている。
「あの子いるかな?」と言いながら覗き込んだショップは、週末ということもあって混雑していた。ざっと見てもあの店員はいない。
私たちは二つ目のジュエリーとしてバングルを選ぶつもりだった。ショウケースの中を見て目星をつけ、ちょうど接客が終わった店員に声をかけると、振り向いたのはあの彼女だった。
彼女も私たちに気づいたようで、「あの、一年ほど前にリングをお揃いでお買い上げいただきましたよね?」と目を見張りながら話してくれた。
「はい。今日はバングルを見せていただこうと思って」
彼女は朗らかにほほ笑んだ。
「またお会いできて嬉しいです! では、どれをお見せしましょうか?」
私たちはカウンターの下でそっと手を繋ぎ、笑顔を交わした。
彼女もまた、お揃いのジュエリーと共に私たちを強くしてくれる存在なのだと思った。
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