第5話 あなたと、一人旅

お盆シーズンの道頓堀・戎橋はすごい観光客だった。

みんな誰かと一緒なのに、私は一人。


金曜、私が担当していた商品広告が新聞に載ったが、その上の読者の声欄で、業界についての批判意見が掲載されていた。

部長から、危機管理がなっていない、事前に確認すべきだったと叱責されたけれど、でもどうやって一会社員が掲載前に記事内容まで確認できるっていうの?

内容のチェックすらなおざりだった課長も、部長と一緒に私を責めるばかりだった。


もともと私は今日から夏休みの予定だった。休むのか!? と課長に言われたけれど、広告自体に誤りがあるわけでもないし、広告代理店から再演防止策を受け取るくらいしかやることはない。

予定は特になかったけれど、気分転換したくて、安くなっていたフリープランで初めての大阪にやってきた。

普段、映画もラーメンも一人で平気だから、それなりに楽しめると思った。

だけど。

何を見ても目新しいのに、感想を言う相手がいないって寂しいことなんだな。


とりあえず自分もグリコ看板を撮影しようとスマホを取り出すと、チームの後輩の七海からショートメールが届いていた。

また何かトラブルかと開くと、

<ちさと先輩、大丈夫ですか?>

と書かれていた。


心配してくれているんだ……。


<いま大阪だよ! 会社は問題ない?>

<問題ないです! 大阪いいですね! お邪魔しちゃいましたね>

<ううん、寂しい一人旅……笑 だから連絡くれて嬉しい>

と書き、看板の画像も送った。

<大阪といえば、のですね! 私も前行きました!>

<こっちこそ七海の仕事邪魔しちゃうね>

<いえ、今日は暇なんで相手してください(^▽^)>


それから私たちのやり取りは途切れることがなかった。

私は大阪の情報がほとんどないので、七海のおすすめに従って食べたり飲んだり。一人でもスマホには七海がいて、私の感想に喜んではまた新しい情報をくれる。

夜、ホテルでも、学生時代の話や、恋愛や趣味について話が続いた。もともと気が利いて一緒に仕事しやすい子だとは思っていたけれど、3歳年下の七海とこんなに話が続くとは思わなかった。

知るほどにもっと知りたくなってしまう不思議。


帰る日、梅田で、七海に白珊瑚のビーズをつなげた小さな環のピアスを選んだ。

清楚な七海にきっと似合うだろう。

……もうずっと七海の事ばかり考えている。

一人旅だけど、七海と一緒。


スマホがまた、七海からのメッセージの着信を告げた。

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