第4話 キスまたキス

夏の終わりの昼下がり、好きな子のアパートで二人きり。

何度かはぐらかされて、ようやく入れてもらえたというのに、奈緒は授業のレポートがあるからとノートパソコンにかじりつきだ。

「今じゃなきゃだめなの?」と聞くと、

「今日授業で急に言われたから、今やっとかないと明後日までに間に合わない」と画面から目を離さずに奈緒は言った。


カタカタと奈緒がキーボードを叩く音しかしない部屋で冷静さを取り戻した私は、さりげなく部屋中を見て回り、男とのツーショット写真が飾っていないことを確認してほっとした。

あの暑い日、急な坂を登り、奈緒が生まれ育ったアパートを二人で見た時、やっぱり彼女のことを、友達としてじゃなく恋として好きだとわかった。

気持ちが溢れて止められなくて、無言で奈緒にキスをした。

奈緒は心底驚いたことだろう。

あれから何を話して帰ったのか覚えていない。


はっと気づくと奈緒がじっと私を見ていた。なんだか不機嫌そうだ。

「どうしたの?」と恐る恐る聞いても、奈緒は無言でただ見つめてくる。

――今言わなきゃ。

じりじりと私は奈緒に近づいた。奈緒の手に自分の手を重ねる。

キスしたい。

ああ、でも。言わなきゃ。


「……ちゃんと、私と付き合ってほしいの」

絞り出した声は掠れていた。─かっこ悪い。

奈緒が至近距離からじっと私を見つめ返す。

「ちゃんとってどういうこと?」

奈緒の声も掠れている。あなたも緊張しているの?

「奈緒のこと恋愛として好きだから、一緒にいたいの」

私の生まれて初めての告白。

女の子相手にするなんて予想もしなかったけれど、こんなに好きになったのは奈緒だった。

これでフラれたら、私もう大学に行けない。

無言が怖い。消えてなくなりたい。


その時、両頬を包まれ、顔を上げさせられた私の唇に、奈緒の唇が重なった。

――ああ、これ。この柔らかさ。

唇どうしが触れるだけで意識が飛びそうになる。


唇が離れたほんの少しの隙間から、奈緒が囁いた。

「坂の上のキスで、私も和沙が好きになったみたい」

奈緒の甘い吐息ごとすべてを吸い込むように、私は彼女にキスをした。

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