夕焼けとキムチ

@hotaru_24

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全てを終わりにしたくてその時住んでたマンションの屋上に上がったら、先客がいた。真っ赤な夕焼けを背景に、長い黒髪を風で揺らして佇んでいた。綺麗だった。

ただ屋上で黄昏てるのかと思ったら、そのまま手すりを乗り越えて、「この世の見納め」とでもいう表情でこちらを見た。ばっちし目が合ってしまった。

しょうがないから「おね~さん、夕焼け綺麗だね!」と声をかけた。

この状況で他に対応の仕方はいくらでもあったと思うがしょうがない。夕焼けが綺麗だったから。

そしたらお姉さんは笑って「こっちはもっと綺麗だよ~」って言ったんだ。

それでそのまま手すりに近づいて、えいやって乗り越えてお姉さんの隣に行った。

夕焼けを見るのにたしかに手すりは邪魔だったし、お姉さんともっと話してみたかった。

空は禍々しいほどに赤だった。こんな空に見守られて人生を終わりにするのは中々良いかもしれない。

そう思って、手すりから手を離して伸びをすると、隣のお姉さんに驚いた顔をされた。あんたも同じことしようとしてたろ。

お別れは言おうかな、と思ってお姉さんに向き直った。

そしたら「キムチ鍋食べない?」とか言われたから、もうどうでも良くなってしまった。この美しい空からキムチ鍋を連想するな。


なんとお姉さんと私は隣の部屋同士だった。時間が合わなくて会ったことがなかったらしい。そのまま一緒にスーパーで買い出ししてお姉さんの部屋でキムチ鍋を作って食べた。お姉さんは茜霧島と鏡月を呑んでた。


私は大学を退学して、フリーター生活を始めた。キャバ嬢のお姉さんと時間を合わせるため、24時間営業のコンビニで夜から朝に働いて昼は寝ている。

お姉さんは「水商売辞めた~い」が口癖になってきている。

私が養えるように頑張らなくては。

時々昼間にメイドカフェでお給仕もしたりしている。眠いけどお給料がいいので、お姉さんとの時間は少なくなるけど、コンビニを徐々に減らしたい。


あのとき全てを終わりにしようとしなかったらお姉さんに会えなかったし、そのまま終わりにしてしまったらこのお姉さんとの幸せな時間はなかったので、あの出会いは奇跡だったのかもしれない。

禍々しい赤の夕焼けと、手すりと、風に揺れる黒髪と、キムチ鍋。

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