第16話 助けを求める声

徳永達は、まだクラーザ王国への道中だった。


モンスターとの遭遇が多かったが、それでも逃げはせず戦った。


それも無理はない、何しろ今のところ装備もレベルも弱く、少しでもモンスターを倒して経験値を稼いでおきたい思いがあったから。


仮にダメージを喰らったりSPを消費しても、城下町に行けば宿屋で休んで回復できるという安心感があった。


なら稼げるときに稼いだほうがよかった。


木暮の本業についてはまだ聞けていなかったが、途中でモンスターとの戦闘が入ったこともあり、みんな忘れていた。


そして最初の召喚地点を過ぎて20分ほど経過すると、ようやくクラーザの城下町が目に入ってきた。


「見て!あれがクラーザの城下町じゃない?」


「本当だ。よしあと少し。」


「急ぎましょう!」


あと少しで最初の目的地に着けることがわかったせいか、全員の表情が明るくなった。


ただしそれでもモンスターとの遭遇は避けられない。


後方からかすかに足音が聞こえてきたが、振り返ってみると荒くれオークが迫ってきていた。


「だー!しつこいなあいつら!」


「索敵範囲外にいけば逃れられます。もう無視でいいでしょう。」


「そうね。今は相手にしてられないわ。」


3人とも走って、荒くれオークからの逃走に成功した。


今優先すべきはとにかくクラーザの城下町に行くことだ。


道中で嫌というほどモンスターと遭遇した。


おかげで木暮も宍戸もレベルが2上がり、木暮は新しい特殊技「フレアアロー」を習得した。


「あーでも早くフレアアロー撃ってみたいな。どんな感じだろう?」


「木暮さん、それはまだ後にしてください。」


「はーい。わかってまーす。」


「そういや宍戸さんも、スキレベ上がったんじゃない?」


「えぇ、おかげさまで。これで特殊技は5つ目になりました。」


「そうか魔法使いだからもう5つか。いいなぁ。」


魔法使いはその名の通り魔法を主体とした戦い方だ。


通常攻撃が主体となる他のキャラクターとは違い、攻撃することも多いが、なんといっても回復と補助系魔法も大事な役割だ。


つまりその分習得する特殊技の数も多くなるのだ。


徳永と木暮も魔法使いの習得した2つの特殊技とその効果は把握していたが、松下は違っていた。


「あれ?スキレベ4で2つも得たんすか?」


「はい、デトックスとプロテクションですね。」


「松下さん、覚えてないんですか?」


「プロテクションは防御上げる奴っすよね、だけどデトックスは…なんだっけ?」


松下は、もう一つの特殊技の効果を覚えていない。


ただこれについては、松下がほかの3人よりも経験が浅いことを意味するにほかならなかった。


「デトックスは解毒、毒状態を治す効果ですよ。というか、松下さんこのゲームの経験どのくらいなんです?」


「いや、実はまだ1週間くらいっす。」


「あぁ、どうりで。因みにどこまでクリアしたんですか?」


「えぇと、第三大陸までかな?というか、自分の場合、変な作業ばっかやらされてたっす。」


「変な作業…ですか?」


「そうっす。「ゲームがたっぷり遊べますよ。」って言われたのに、いざ仕事が始まったら、やれオプションの項目のチェックだの、やれマップのチェックだのって、全然本編プレイできなかったんすよ。」


松下の言葉に思わず一同反応した。


この松下の言葉、実は何も間違ったことは言っておらず、テスターとは本来そういう仕事なのだ。


松下はテスターの意味を誤解していたっていうことが、これで改めて理解できた。


徳永も最初は松下とほぼ同じような気持だった、だからこそ同感できる。


「テスターって、なんだかんだでバグ見つける仕事だからねぇ。」


「いや、そうは言ってもさぁ。」


松下はすごく不満げだった。自分が想像していた仕事と違ってガッカリした感は隠せない。


「まともにプレイできたのって最初の3日くらいだったっす。あとは全部さっき言ったような単調作業の繰り返し…」



その時だった。


「誰かー!!」


遠くから、女性の叫び声が聞こえた。


松下の不満も途中で遮られ、全員その声がした方角を調べた。


「誰か来てくださーい!お願い、誰かー!!」


確かに遠くから聞こえている。


「この声って、誰?」


「女性、なのは間違いないですが…」


「じょ、女性ってことは…召喚士じゃないですか?」


徳永のその言葉に一同ハッとした。


全員とも魔物召喚士のキャラクターは女性だったという覚えはあった。


この地点で、こんな助けを求める声が起きるイベントとは誰も知らない。


「何かのイベント…じゃないよね?」


「えぇ、そのはずです。となれば、徳永さんの言う通り…」


「行ってみよう!」


徳永の提案に一同賛成し、さっそく声がした東の方角へ向かった。


気づけばクラーザの城下町は既に目と鼻の先にあった、歩けば10分以内に着きそうな距離だった。


しかし、その前に仲間と合流できればそれに越したことはない。


「襲われているのかな?」


「私達と同じく召喚されてかつ初心者なら、強いモンスターと対峙してピンチになるのは致し方ありません。」


走りながらも宍戸の冷静な分析に一同思わず納得した。


「となったら、何が何でも助けなきゃね!」


さらに速度を上げ4人とも走り続けた。


そして、遠くのほうで確かに人影がいるのを確認した。


「見てください!あそこ!」


「あ、あれは?」


遠くのほうに女性らしき人物と、その周囲を取り囲んでいたモンスターの群れを発見した。


よく見ると頭に1本の角、全身が緑色で、明らかに荒くれオークだとわかった。


さらに女性は怪我をしているのだろうか。跪いたまま動けないでいる。


「さっき後ろから追ってきた奴らか。」


「しまったな。僕達が無視したばかりに。」


「私のアローレインで!」


「ちょ、あの人に当たるっすよ?」


「大丈夫です。これはゲームですから!」


宍戸の言葉を聞いても松下は一瞬ポカンとしていたが、すぐにその意味はわかった。


女性が召喚士、つまり味方キャラなら弓使いの矢は当たらない。


もちろん仮に味方キャラでなくても、そもそもモンスターという扱いにならないはずなので、当たり判定はない。


なぜならキャラクターの攻撃の当たり判定は、モンスターにしかないからだ。


RPGならごくごく当たり前の現象だが、現実世界と同じような感じで戦闘していたので、いまいち実感が湧かなかった。


そしてその言葉が正しいとすぐに証明された。


「アローレイン!!」


木暮が叫ぶと、斜め上方向に無数の矢を放った。


弓使いならこの距離からでも、離れた場所にいる荒くれオーク達に当てられる。


遠距離攻撃は弓使いの特権だ。


上空に放たれた無数の矢は、やはり荒くれオーク達に突き刺さり、全て一撃KOだった。


さらに女性のすぐ上部には、見えないガラスのバリアのような膜が見えた。


アローレインで放たれた矢を防いだのだ。


案の定、当たり判定はモンスターにしかない。それを改めて証明した瞬間だ。

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