第15話 3人の戦士
ちょうどその頃、クラーザ王国の謁見の間では、国王と謁見していた3人の戦士がいた。
巨大な斧を背中に携え重厚な緑の鎧を纏った大柄で筋肉隆々の男の戦士、
長い槍を手に持ち城の近衛兵と形状が似ている灰色の鎧を纏った長身の男の戦士、
そして水色の球体のオーブを両手に持ち、オレンジ色のローブを纏い、頭部に銀色の髪飾りを被り、裸足でサンダルを履いた女性の3人だ。
3人とも国王の前で自己紹介をした。
「槍使いの大石です。」
「斧使いの益田です。」
「魔物召喚士の有馬です。」
3人の名前はそれぞれ大石、益田、有馬、いずれもファンタジー世界の名前として違和感がある。
しかしいずれも3人の本名なのだ。
3人ともこの謁見の間にどうして来ることになったのか、そしてどうして王と会って話をすることになったのか、さらにその会話の内容まですんなり頭に入っていた。
さらにこれから王が何を話すのか、王と会話後何をしたらいいのか、自分達の旅の予定と今後の目的も把握していた。
別に3人とも預言者というわけではない。
3人とも日本人で、『七つの魔神石』というゲームをプレイした経験があるという共通点があったのだ。
そんな3人の共通点と素性などは知る術もない国王は、玉座から立ち上がり、戦士に対し深々と礼をし挨拶をした。
「皆様方は天上界イージスより召喚されし勇敢なる戦士、よくぞわが城に来て頂きました。心より感謝します。」
3人の戦士に対し、国王はいかにも一国の主らしい態度と振る舞いで接した。
「天上界イージスではなくて、正しくは日本です。」と3人は突っ込みたくなったが、黙っていた。
国王は高貴な赤いマントと王冠を被っていて、長く白い口髭と白髪で誰がどう見ても一国の王だとわかる風貌だ。
3人とも王の礼に対して、深々と礼をしたが、自分の意志ではなく勝手に体が動いた感じだった。
「今世界は暗黒に満ち溢れています。世界の七大陸にある七つの魔神石が復活した魔神エウリードによって、その力を増大し各大陸で魔物の数が増えました。」
王は淡々とこの世界の情勢について語った。
「七つの魔神石を破壊し、魔神エウリードをこの世から葬らない限り、世界は再び暗黒に支配されてしまうでしょう。」
いかにもファンタジー世界ならではのお決まり文句だと、3人は思った。
「この世界の危機を救うめに、我々の国の神官と召喚士らが、総力を挙げた結果、召喚の神殿にて戦士を召喚することに成功しました。それがあなた方です。」
要するに自分達は、七つの魔神石と魔神エウリードを倒すために召喚された戦士だということになる。
「もちろん世界を救っていただいた暁には、望みの品をなんなりと寄与しましょう。」
今の望みは、「自分達を早く元の世界に戻してほしい。」ということは3人とも共通していたが、その望みはこの王に言っても無駄だろうと思った。
なぜなら目の前にいる王は、事前に設定されたセリフをただペラペラ喋っているだけだからだ。
3人の戦士も黙って聞くしかない。
「ぜひ余の申し出を承諾して、頂きたく存じ上げます。」
3人とも、黙って頷き、これまた心にもないセリフが勝手に口から出てきた。
「自分の槍裁きが世界の平和に役立てたなら光栄です。」
「俺の斧と怪力なら百人力です、お任せください!」
「謹んでお受けいたします。我々の持てる力の全てを出し切り、この世界に蔓延る闇の元凶を取り除きましょう。」
大石、益田、そして有馬が順番に答えた。
(槍裁きで世界が救われたら、苦労はしないって…)
(こんなセンスないセリフ考えたやつ誰よ…)
(なに臭いセリフ吐いてんのよ、わたし…)
本心ではない臭いセリフを吐いたことに、3人とも苦笑いが止まらない。
このセリフを聞き、王も笑顔で答えた。
「有難うございます。我々もできるだけの援助をいたします。然るに城下町で装備品を充実させる必要があるでしょうから、資金をいくらか準備いたします。」
正直なぜ自分達がこんなことをしなければいけないんだろうと3人は思っていた。
ほんの1時間前くらいにこの世界に召喚されて、右も左もわからないままだった。
なんならステータスの画面の開き方もわからず、ただ困惑していた。
うまい具合に3人と合流できたが、まだ他の仲間が来ていない。
他の仲間と合流する前に、取り合えず最初の目的地であるクラーザの城下町に着いたら、状況は一変した。
なぜだかわからないが、自分達を「勇者様御一行だ!」と称賛する声が周囲から響き、大歓迎された。
それ自体は嬉しかったが、何の因果か今度は近衛兵が数人やって着て、城に勝手に案内された。
最初に案内されたのは城の会食の間だった。
だだっ広いテーブルで、それは30人くらいが座れるほどのスペースがあった。
そのだだっ広いテーブルで3人は、超豪華な食事を用意された。
これまでこんな豪華な食べ物なんか食べたこともない3人で、目を輝かせたが、実際のところ味は何もしなかった。
そして食事が済み、謁見の間に案内され、今に至るわけだ。
それまでの経緯は全て自動進行だった。
まるで体が勝手に動いていったのだ。
そう、3人とも同じだった。
もちろん、この状況は3人とも理解はしていたが、予想外だったのは、いきなり城に呼び出されたことだ。
本来なら城下町でほかの4人が来るのを待つか、1人がここで待機し、ほかの2人で城下町の外に出て再び探索しようと考えていた。
まだ本来の人数が揃っていないから、城に呼び出されるなんて考えてもいなかった。
しかも人数が足りていないことに、城の関係者及び国王も何も言及しない。
まるで召喚されたのは最初から、自分達3人だけという扱いだ。
そして自分以外にも4人の仲間がいるはず、ということもこちらから言えない。
言いだそうにも言えない、別に思考が停止しているわけではない。
(これがゲームのイベントだからか。)
3人ともこれがゲームの世界だとは認識していた。
そして今行われている王との会話も、ゲーム内のイベントの一つだとわかっていた。
そのイベントは強制的に行われ、基本的に王と会話するだけだ。
さっき自分達が発した言葉も、3人とも知っていた。
これはちゃんと用意されていたセリフだった。
逆に言えばこれ以外のセリフを言うことができず、途中で勝手に口が閉じてしまう、まるで何かに制御されているかのように。
(このイベントが終わるまでの辛抱だな。一つ目の魔神石行く前に、まずはほかの仲間見つけないと…)
槍使いはこの謁見の間での一連のイベントが終わったら、自由行動でき、そこで残りの仲間探しができると踏んだ。
このゲームはもともと7人でパーティーを組んで行動することは、3人とも熟知していた。
現状のままだと元の世界に戻る方法もわからないので、取り合えずは7人が合流して状況を確認しあうこと、それが先決だった。
そんな3人の悩みをよそに、国王のほぼ一方的な会話は終わった。
近衛兵に案内され謁見の間を出て、再び城下町に戻り、これでやっと自由行動が可能になった。
「あぁー、やっと自由に動ける―!…って言葉もちゃんと話せますね。」
3人は伸びをした。そして会話もやっと自由にできるようになっていた。
「あ、本当だ。それにしても、長すぎだぜ、あのオッサンの話。」
益田は、会話イベントの長さにうんざりだった。
「オッサンじゃなくて、“王”ね。」
有馬が突っ込みを入れた。
「人の気持ちも考えねぇで、「魔神倒してください。」って、何気軽に頼んでやがんだ!あぁゲームの世界だからって、なんか腹立ってきた!」
益田の愚痴が止まらない、正直3人とも同じ考えだった。
「と、とりあえず、これで最初のイベントは終わったから、あとやるべきは…」
「ほかのお仲間さんね。」
「ていうか、やっぱり城にもいなかったな。」
大石はこの城下町に来た当初の目的をみんなに告げた。
本来仲間を探すために、いったん城下町を訪れたのだが、どういうわけか勝手にイベントが進行したことに困惑していた。
もちろん城の謁見の間に、ほかの仲間がいればよかったのだが、それも叶わなかったのでガッカリした。
「城にいないということはホテルか、それとも…」
「まだここにすら来ていないかも…」
「だけど『七つの魔神石』の最初のイベントって、謁見の間で王と話すことだろ?全員いないのに、なんでイベントが進むんだ?」
3人ともほかの仲間の行方が気になって仕方なかった。
城に入ってその広さや構造、豪華絢爛な装飾、派手なドレスを着た貴婦人など、現実の世界では見たこともない光景で感動していた。
ただそれでも仲間がいなかったことで、その感動は忘れ不安が消えなかった。
「まぁ、いろいろ考えても仕方ないな。取り合えずホテルに行って、いろいろ準備してから、また探そう。」
3人ともこれ以上考えることはせず、城のすぐ東側、大広場の目の前にある一番大きなホテルに泊まることにした。
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