第13話 謎の文字列
思いもよらない宍戸の大声に、松下も驚いた。
「え?どうしたの?」
「所持金が13万ゴールドになってます!」
「あぁそれ、洞窟内でいくつか宝石拾ったんすよ。」
「何を拾ったんです?」
「えーと、サファイアが1個、ルビーが2個かな。」
「いやいや、それじゃ足りないですよ!」
「え?そうかな?」
松下の拾った宝石3個では、とても13万に届かないと宍戸はすぐに計算できた。
「サファイアもルビーも換金価値は1万ゴールドです。一番高いのがダイアモンドで30万、次に高いのが黄金で20万、3番目が白金で10万で…」
宍戸がそこまで説明すると、松下もようやく理解して、自分なりの答えを出した。
「あ、白金も拾ったってことか!でも、いつ?」
「ふふーん、それはね…」
今度は木暮が嬉しそうな表情を浮かべて、2人の前にあるアイテムをさらした。
「これ見てください!」
木暮がさらした右手に持っていたアイテムは、案の定白金だった。
「ちょ、それどこで拾ったの?」
松下が驚いて、木暮に尋ねた。
「さっきの狼…ですか?」
「ピンポーン!!正解です。」
「あぁ、そうか!ドロップアイテム。」
「さすが中ボスですね。ていうか松下さん気づかなかったんですか?」
「いやぁ、なんというか一人で倒せた事が嬉しすぎて…」
「今度からはちゃんとドロップも確認するようにしてください。」
宝石類とはモンスターを倒した後で、ランダムで手に入ることがあるドロップアイテムの一つ。
道端やフィールドの外れに落ちていることもあるが、モンスターのドロップでも低確率で入手することが多い。
そしてその中身は相手が強いほど豪華になる確率も高い。さっきの狼が中ボスだったこともあり、見事当たりを引いたのだ。
これの重要性と使い道は、一同よく理解していた。
「あとはこれをショップで売れば…」
「いや、売る必要なんかないでしょ。」
「へ?あぁそうか、勝手に換金されるんだった。」
「リメイク版になって、ショップで売る手間が省けたんですよ。」
「確かに、意味のない行為だもんね。」
宝石類は換金して大量に資金を稼ぐことが可能なアイテムであるが、アイテムであるにも関わらず、手に入れた瞬間自動で換金され、自動で所持金の数値が増える仕組みになっている。
それもそのはずで、宝石類は本当にそれ以外に使い道がないからだ。
『七つの魔神石』は既に20年以上も前に発売されたゲームだが、当時はわざわざショップで売らないと、お金に換えられなかった。
資金を稼ぐ手段はほぼこれしかないこのゲームでは、この売るという行為はほぼ無意味のため、リメイク版で修正され、手に入った瞬間に自動で所持金の額が増える仕様に換わったのだ。
13万ゴールドも手に入って、一同は喜びに浸り、会話も弾んでいた。
一方、3人がずっと会話している中、徳永はずっと沈黙だった。
「おや?どうかしたんですか、徳永さん?」
「さっきから、ずっとだんまりっすよ。」
「え?いやぁ、別に…」
徳永は適当にごまかした。
ずっと固まっていて、3人の会話の内容の半分も徳永の耳には届いていなかった。
かろうじて木暮が手にした白金はちゃんと目に入っていて、所持金の金額の意味も気づいていた。
しかしそんなことも気にならないくらい、徳永が気に掛けることがあった。
いや気に掛けるどころではなく、自分が何者かという理解しがたい不安まで押し寄せていた。
「何かあったの?」
「な、何でもないって、大丈夫。」
徳永も自分のステータスはしっかり確認した。
自分のレベルが松下と同じ8になっていることも確認した。
スキルレベルも3になっていたことも確認した。
それは自分が最初にハウリングオークを倒したことが原因だともわかっていた。
しかしそんなレベルの高さよりも、徳永が最も驚愕したのは、なんといっても特殊技だ。
徳永は荒くれオークとの戦いで、烈風剣が発動できなかった原因がわからず悩んでいたが、その原因がここで判明した。
いや判明したが、それは徳永が真に受けたくない事実だった。
メニュー画面の「スキル」という項目をタップすれば、自分の特殊技の一覧を見ることができる。
そして剣士の烈風剣は、最初から習得済みで、本来特殊技の欄の一番上に表示されている。
ただ徳永が目にした技名は違った。
そこには、見慣れない漢字3文字が並んでいたのだ。
「魔炎剣」
徳永もそんな技名は聞いたことない。
リメイク版で新しく登場したという話も知らない、当然20年以上に発売された原版でもそんな技はなかった。
それだけではない。
見たこともない特殊技で驚愕した徳永だったが、その次に目にした謎の文字列でさらに謎が膨らんだ。
(一体、どうなってんだよ?これ…)
徳永はその文字列を見て凍り付いた。
特殊技一覧が表示された右側の枠で、自分が装備していた武器と防具とアクセサリーの一覧が見れる。
アクセサリーの欄には、最初の岩場でゲットしたであろう「黄金のブレスレット」の表記があり、それは徳永も何度も目にした名前だったから安心した。
問題はアクセサリーではなく、武器と防具だった。
未だに新武器と新防具を入手していなかった徳永だったが、剣士の初期武器と初期防具の名前は「青銅の剣」と「アイアンアーマー」になっているはずだ。
しかしやはりその武器と防具の名前も違っていた。
いや違っているだけなら問題ないのだが、そもそも意味不明な文字列だったのだ。
武器:*zxcvb*01
防具:*qwert*01
(なんなんだよ、「*zxcvb*01」と「*qwert*01」って…)
徳永は何が何やら、もうわけがわからなくなった。
こんな変な文字列であるにもかかわらず、腰にはちゃんと剣は刺さっているのは間違いない。
そして敵に攻撃できるのも確認済みだ。
鎧だってちゃんと身に着けている
にもかかわらず、この謎の文字列、一体今持っている武器と防具は何だというんだろうか。
技名だけでなく、装備名もおかしいことになっている。
なんというか、凄く嫌な予感が押し寄せてきた。
あまりにも意味不明すぎて、ほかの3人に聞いても多分わからないだろうと思い、徳永もほかの3人に打ち明けるのを躊躇った。
幸いほかの3人に自分の装備品や特殊技の情報は見れないから、自分から言わなければほかの3人に気づかれることはない。
「まぁ、とりあえず、これでステータスの確認もできるようになったから、一安心ですね。」
「そうですね。やっとチュートリアルが終わったところでしょうか。」
「じゃあ、そろそろ出発する?」
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