第7話 雷鳴
徳永は走った。
崖の手前まで来ると、ちょうど階段状になっている箇所を発見した。
そこから登って崖の上まで行き、やや10mほど走ると弓使いの手前まで来た。
今度は間近で弓使いの姿を目で捉えた。
背丈は自分よりも低くスリムな体型で、大きなポニーテールをした茶色の髪形をしている。
上半身は黄褐色のノースリーブの布製の服、下半身はこれまた黄褐色のミニスカート、両脚は黒のタイツの上に茶色いブーツを履いている。
そして右手には左手から持ち替えた弓と矢を数本抱えていて、背中にはこれまた大量の矢を入れた矢筒を背負っている。
まさに本物の弓使いといった感じだ。
徳永は昔遊んだRPGに登場した、ある神話に出てくる弓を持った女神の姿と重ねた。
弓使いも徳永の到着を待ち望んでいたのか、あるいは怪我一つないことが嬉しかったのか、眩しいほどの笑顔で迎えてくれた。
徳永はそんな弓使いの表情を見ると、正直ドキドキした。
現実の世界で、女性と面と向かって話すと緊張して仕方ない性格なのだ。
一体この女性の自分への第一印象はどんな感じなんだ?
が、今はそんな弓使いの心情を探る前に、自分が今最もいうべきセリフを言わなければと思った。
「さっきは助けてくれて本当にありがとう!いやぁー、危なかった。」
「どういたしまして。こちらこそ。」
徳永は深々と頭を下げた。
弓使いも同じく頭を下げた。
お互いにお辞儀をして、徳永は改めて自己紹介しようと思った。しかしまたも弓使いの方から話してきた。
「あなた、もしかして一人なの?」
徳永はそう聞かれると、自分自身もハッと気づいて弓使いに尋ね返した。
「そ、そうだけど。もしかして…君も?」
「うん、私も。」
やっと仲間キャラに出会たのはいいものの、結局お互い単独行動だった。
徳永はもしかしたら、この近くに他の仲間キャラがいないものかと期待していたが、そうではないと考えると少しガッカリした。
「まぁでもやっと仲間に出会えたんだから、状況は一歩前進したでしょ。」
彼女のいうように、一人よりも二人のほうがマシなのは間違いない。
「それにほら私は弓が使えるのよ。さっきみたいに敵が集団で襲ってきても、あの技で一網打尽よ。」
徳永はその彼女の言葉を聞いた途端、またも何かを思い出したかのように、大きな声で口走った。
「あ!アローレインか!?」
突然大声を発したのか、弓使いも驚いた。
「び、びっくりしたー。突然何?」
「アローレインだろ?さっきの技!」
「そ、そうだけど。それが何か?」
「教えてほしいんだ。どうやってあの技出したんだ?」
「え?どういうこと?」
「あぁ。何というか、まぁ説明すると長くなるんだけど…」
徳永はこれまでの自分の経緯を彼女に教えるとともに、どうして自分が特殊技が出なかったのか、そして彼女がどうやったら特殊技を出せたのか、それが気になってしょうがなかった。
さっきは危うく、荒くれオーク達の集団にやられるところだった。
その最大の原因は、自分が特殊技を出せなかったことだ。
剣士なら本来出せるはずの烈風剣が出せなかったのだ。
しかしその荒くれオーク達は、弓使いの特殊技であるアローレインで倒された。
自分にはなぜ出せなかったのか、その原因を知りたかったし、解明もしたかった。
女性に対しての免疫の弱さなど、その疑問の前にかき消された。
今徳永はその弓使いを、自分の師匠のような立場で見ている。素直に教えを乞いたい弟子のような眼差しだ。
「と、まぁこんな感じでいろいろあったわけで。」
「ちょ、ちょっと待って!」
弓使いは徳永から事情を聞くと、今度は予想だにしなかった質問をぶつけた。
「もしかしてあなたもなの?」
「え?何が?」
「何がじゃないでしょ!」
徳永はそう質問された瞬間、ぴんと来なかったが、もう一つの大事な事実が頭によぎった。
「あなたもって?…え、もしかして?」
「その通りよ。」
「もしかして、君もなのか?」
「本名は木暮綾子よ。よろしくね。」
徳永はその言葉で完全に納得した。
ゲーム内のキャラクターが、日本人と同じ姓名を名乗るはずがない。
そう何を隠そう、弓使いも徳永と同じく、この『七つの魔神石』に召喚された人間の一人だった。
(何ということだ。)
しかし徳永は、本来ならあり得ないことじゃないと再認識した。
このゲームは剣士を含め7人のキャラクターがいる。
ということは、ほかの6人だって自分と同じ召喚されてきた者だという可能性もあったんだ。
考えてみれば、割と当然のように聞こえる。
徳永は木暮が自分の名前を名乗ると、自分と同じ転移者であると驚くと同時に、まだ自己紹介していないことも思い出した。
「ごめん。そういえば僕の名前がまだだったね。徳永祐樹って言うんだ。よろしく。」
「こちらこそ。改めてよろしく。」
「ていうか。君も召喚されてきたんだね。」
「そうよ。もう最初本当に意味わからなかったんだから。」
お互いに自己紹介を済ませると、木暮は今度は自分のこれまでの経緯を語ろうとした。
木暮も徳永と同じ理由で、『七つの魔神石』を既に2か月以上も遊んでいた。
徳永は自分と同じ立場ということで安心感を覚えた、そして何より自分と同じゲームが好きな女性と巡り合えたことに感激した。
「私が最初召喚されたのはねぇ…」
木暮が言いかけると、徳永は最初に自分がぶつけた質問を思い出して、話を遮った。
「ごめん。その話はあとでいいかな。」
「え?あぁそうか、特殊技の話だったね。」
「う、うん。」
そう言いかけた時だった。
ドォオオオオオオン!!
突然遠くのほうで、何かが激しく爆発したような音がした。
「な、何今の?」
「雷じゃ…ない?」
「雷?」
遠くを見ると森があり、確かに木々が揺れているのが見て取れた。
天気は晴れている、嵐が来る気配はない。
いやそもそもゲームの中の世界だから、天気が変わることはありえない。
徳永も木暮もこのゲームはある程度プレイしていた。雷が鳴るようなイベントは記憶がない、ましてや雨が降るイベントも。
ということは、答えは一つ。
「雷ってことは、もしかして?」
木暮が言うと、それにつれて徳永が大きな声である特殊技名を叫んだ。
「サンダーボルト!?」
2人が見つめ合った、どうやらお互い合点のいく答えのようだ。
「あそこに行こう、そうすれば!」
「3人目がいるってことね。」
『サンダーボルト』とは文字通り雷をモンスターの頭上に向けて、落とす特殊技、魔法使いがスキルレベル1で習得済みである。
ということは、音の鳴った場所付近に魔法使いである3人目のキャラクターがいることを意味する。
2人はそう判断して、猛ダッシュで音の鳴った森林へ向かった。
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