第6話 新たなる仲間

「え?なんだよ、今度は?」


その足音はどんどんと徳永に近づいてきた。近づくにつれて、その足音の数が異様に多いことに気づく。


その数の多さからして、間違いなく集団で近づいているのは確かだ。


徳永は振り返ると、確かに遠くから人らしい集団が近づいてくるのが見えてきた。


が、よく見ると人ではない。


全員平均的な成人男性よりやや高い程度の背丈だが、明らかに肌の色も違うし、頭から角が生えているし、さらに上半身はさっきのオークと同様裸だ。


「ま、マジかよ!?」


彼らの正体は“荒くれオーク”、さっき徳永が倒したハウリングオークの下位種に該当する。


下位種にあたるためか、頭の角の数も一本で、服装は腰巻とブーツだけで大きなベルトもしていない。


6体ほどいるだろうか、恐らくさっきの遠吠えでここの場所を突き止めたのだろう。


「しまった!遠吠えか!?」


厳密に言えば遠吠えで場所を突き止めたのではなく、ハウリングオークが子分のオークを呼んだのだ。


伊達に中ボスという立ち位置にいるわけではない。


実はハウリングオークが発した遠吠えは単に戦闘開始という合図ではなく、正確には子分の“荒くれオーク”の集団を呼ぶ役割もあった。


事実稀に遠吠えを発せず戦闘を始める行動をすることもあるが、その時には子分の荒くれオークは登場しない。


徳永はその事実を思い出した、ハウリングオークを倒した喜びに浸り、完全に油断していた。


「だ、だが今の俺なら何体来ようと!」


徳永と約10mほどの距離に近づくと、オーク達は立ち止った。


次の戦闘が始まったと、徳永も意を決して、再び剣を構えた。


「今度は逃げも隠れもしない。さぁどこからでも来い!」


徳永は意気込むが、今度はさすがに数が多すぎる。


さっきのハウリングオークは、仮にも1対1だった。


だから無我夢中で突進した一撃でも、何とか倒せた。


しかしさっきと同じ手が通用するだろうか。


もちろんハウリングオークと違って、下位種に該当するため、一体一体の強さはそれほどではないが、同時に集団で攻撃されたら全てかわし切れる自信はない。


数の暴力とはまさにこのことだ。


「待てよ、こういう場合『烈風剣』を使えば!」


ここで徳永はある策を考えた。


といっても、ゲーム内で剣士だけが使える特殊技のことだ。


その特殊技こそ烈風剣だ。


烈風剣とは、強力な風を剣で引き起こし、その風を鋭利な刃物のような形状にして、敵に向けて飛ばす攻撃だ。


いってしまえば剣士の飛び道具的な技で、これなら空を飛んでいる敵にも攻撃ができる。


しかもこの烈風剣の特徴はそれだけではなく、範囲が横長なので、集団のモンスター退治にも最適なのだ。


このゲームをある程度やりこんだ徳永も、烈風剣のお世話になった回数は数知れない。


今こそ、その技を使うのに最適な状況だ。


幸いこの技はスキルレベル1で使用できる、それはつまりゲーム開始直後からでも使用できるということだ。


しかしそうは言ったものの、肝心の特殊技の発動の仕方がわからない。


「どうやって出せばいいんだ?」


通常のプレイでは、もちろん「スキル」と記載されたアイコンを押せば発動できる。


「さっきは自分でも意図しない力が発動してオークを倒したんだ。こういう場合は考えても仕方がない。」


悩んだ挙句、徳永はゲーム内で実際に剣士が烈風剣を発動した時と、同じような構えと動きをしてみるしかないと判断した。


「くらえ!烈風剣!」


烈風剣発動時は剣士は両手で剣を持った上で、足を大きく広げ、渾身の力で真一文字に大きく切り払う動作をする。


大きな声で叫びつつ、それと全く同じような動作をすれば発動できるはずだと、誰もが思いつきそうな考えだった。


しかし、荒くれオーク達は立ったまま微動だにしない。


それどころか傷一つ負っていない。


徳永の行動が何をしているのか全く掴めないようで、お互い変な顔している。


「な?発動できてない?」


徳永はそんなはずはないだろと、信じられない様子で剣を再度見つめた。


するとさっき倒したハウリングオークの血もまだ若干残っていた。


もし烈風剣が発動していたら、風の影響で血は完全に吹き飛ぶはずだ。


「こんなはずはない。よし、もう一度!」


徳永は再度両手で剣を持った上で、足を大きく広げ、渾身の力で真一文字に切り払った。


やはりさっきと同じように、「烈風剣!」と大きな声で叫んだ。


しかし結果は同じだ。


相変わらず荒くれオーク達はピンピンしている。


今度は若干あきれた顔で徳永を見つめている。


「お前は何がしたいんだ?」と言いたいような表情だった。


「そ、そんな馬鹿な!?」


徳永の行動を悟ったのかどうかはわからないが、荒くれオーク達は、徳永が攻撃できないと判断したのか、一斉に攻撃態勢に入り、襲い掛かってきた。


「う、うわぁああ!ちょっと待てよ!?」


動揺する自分が恥ずかしかった。


特殊技が発動できず完全に無防備になってしまっていた。


これも予想外の出来事だ。


剣士なら出せるはずの烈風剣が出せない。


そもそも自分の特殊技の発動の仕方が間違っているのか?


しかしそんなこと考えている余裕はなかった。


荒くれオーク達が迫ってくる、しかも一斉に。


「こうなったら、とことんまでやるしかないな。」


烈風剣を使わずに倒すしかないと覚悟して、徳永は再度剣を両手で構えなおし、迫ってくるオーク達と対峙した。


だが次の瞬間!


「え?」


先端の鋭い棒が何本も上空から降り注ぎ、目の前にいた荒くれオーク達に突き刺さった。


よく見るとそれは“矢”だ


「ぐぎゃぁああああ!!」


荒くれオーク達が悲痛な叫び声を上げ、次々と倒れていった。


何本もの矢がオーク達に刺さっている。


「こ、これはもしかして?」


無数の矢が上空から降り注ぎ、オーク達を一掃した。


徳永もその光景は何度もゲーム内で目にしたことがある。


これは間違いなく弓使いの特殊技だ。


無数の矢を上空に放ち、それを敵の集団に降り注いで一網打尽にできる。


徳永自身もこの技は弓使いを使用している時は何度となく使ったから、瞬時に技の名前が頭に浮かんだ。


が、今はそんなこと気にするより、もっと大事なことがある。


当然この技を放った張本人がどこかにいるはずだ。


徳永は地面で倒れていたオーク達から目を離し、視線をはるか前方に移すと、遠くに気高い崖が立っていた。


するとその崖の上に一人の人間が立っている。


ここからだと小さくてよく見えない。


目を細めてよく見ると、今度ははっきりと人間と同じ肌色をしていた。


スリムでやや小柄といった感じだが、長い髪が風でなびいていた。


紛れもなく人間だ、それも髪の長さから判断するに恐らく女性。


左手は弓、右手には矢を持っているのも確認できた。


「ゆ、弓使い!?」


徳永は確信した。


やっと、この世界に召喚されて初めて仲間キャラに出会った。


思わず声を上げようとしたが、その前に弓使いが言葉を発した。


「大丈夫ですかー?」


大きな甲高い声が響いてきた、やはり女性だ。


弓使いの性別は女性だったということを改めて思い出したが、声を聴いたことで今度こそ紛れもない人間だと再確認できた。


「だ、大丈夫でーす!」


自分も大声で返事した。


両手を高く上げ、自分が無事でピンピンしていることを強調した。


一刻も早くあの弓使いのもとに行きたい思いが強くなった。


「今そっちに向かいまーす!待っててくださーい!」


徳永自ら弓使いの方に行くことを伝えると、弓使いも「はーい!」と返事をして待機した。

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