お【大空】

 真っ赤な太陽に見下されながら、私はただひとり、燃えるようなアスファルトに寝転がっている。自然が作り出したこの鉄板の上で、昔よく歌われていたたい焼きの気持ちになるのだ。

 しかし暑い。暑くてたまらない。

 首の向きを変え、右を見てみようが、左を見てみようが、景色は変わらない。蜃気楼に惑わされるばかり。そこにそれがいるように思っても、手を伸ばしたって届かない。だって本当はそこには何もないのだから。

 ため息をひとつ、そいつに投げつける。ぶつかりはしないと知りながら。

 どうしてこんなことになったのだったか。もはや思い出せる範囲内に原因を見つけられない。忘れてしまったのではない、悩みすぎて結局どれが何なのかわからなくなっただけだ。どっちにしろ、他人に言わせればこんなもの、小さい悩みにすぎないのだろう。私にこんなことまでさせたその悩みは。

 大の字になったまま見上げた青は、どこまでも広く、どこまでも続いていた。ふわり、と雲がこの顔を覗いては流れて消えていく。私のことなどどうでもいいと言わんばかりに。

 しばらく経ってから覗き込んで来たのは雲ではなく、人間の顔だった。

「どうしたの、こんなとこに寝ちゃって」

 こいつは高校生になって初めて出来た友人で、きっとこの後もいつまでも友人だ。どうせ私のことなんて、偶然同じクラスで偶然隣の席になっただけの女子としか思ってないのだろう。

「こんなときにはこんなところに寝たくもなるでしょ」

「どんなときなんだよ」

 ふにゃっと笑ったその顔は、あの日初めて話しかけてくれたときとほとんど変わらない。変わったのは私の方。私の気持ちだけ。どうせあなたも蜃気楼。

「悩み悩んでおかしくなりそうなとき、かな」

 彼の瞳から少しだけ視線をずらして、太陽で目を焼く。どうにかして私という存在が消えてしまえば、悩むこともしなくてよくなるのに。

 いつの間にか彼は転がっている私の隣に腰をおろして、私と同じくこの青を見上げていた。

「何、悩んでるの? 俺に相談してみれば?」

 その声は本気で私のことを心配し、ひとりの友人として助けてやりたいという彼の心が見えるようだった。でも私が求めている救いはそんなものではない。あなたとの時間ひとつで元に戻れるようなことではないのだ。

「んー、考えとく」

 君が悩みの主な原因なんだけどな、とは言わない。言えない。もしも言えたなら、楽になれたのかな。

 あなたがこの私の腫れた心を作った。私は最初はこんな人間だった訳ではなかった。このため息と一緒に全部吐き出してしまいたい。くだらない悩みも、ネガティブな心も、あなたへの気持ちも、何もかも全部。

「そっか」

 その言葉に込めたのは、どんな感情なの?

 聞けるようには、たぶん一生ならない。


お【大空】見上げたところで、自分が小さく見えるだけ

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