第52話 日焼け止めぬりぬり

「ん……脱ぐ……」


 先生は俺の目の前で服を脱ぎ始めた。


「ちょっ! 先生!」


 ――しかし、先生はすでにビキニの水着を着込んでいたようだ。

 俺の期待していた光景は訪れなかった。ちょっと残念。


 しかし、小柄な体に似合わない、大きなおっぱいだな……。

 これを見られただけでも、ここに来た価値はあった。


「……水着でも、あんまりジロジロ見られると恥ずかしい」

「す、すみません!」


 俺が水着に着替えている間、先生は鞄の中から日焼け止めを取り出し、全身に塗り始める。

 これはもしや……背中に塗ってくれ的なイベントが……。


「八神君も使う?」

「ああ、はい」



[1、「俺も塗りますんで、背中塗ってもらえませんか?」]

[2、「お〇んちんに塗ってください」]



 出やがったな2! それで、どうやって恋が実るのか説明してみろってんだ!

 しかし、日焼け止めぬりぬりか……童貞の俺に耐えられるだろうか……?


「俺も塗りますんで、背中塗ってもらえませんか?」

「ん……いいよ」


 先生は手にクリームをつけ、背中にぬりぬりしてくる。

 ……よし、なんとか平静を保てているぞ。


「初めて裸見たけど、筋肉すごい」

「ええ、まあ。格闘技やっているんで、それなりに」


「触ってみてもいい?」



[1、「今、感度3000倍になっているんですが……」(触られたら「あああああああああ!!!! 感じちゃうううぅぅぅぅ!!!!」と叫ぶこと)]

[2、「先生のも触らせてくれるならOKです」]

[3、「おちん〇んを触ってください」]



 最悪だ……! どれもアウトじゃねえか……! どうする……!?


「今、感度3000倍になっているんですが……」

「感度3000倍? あはっ、八神君って耐魔忍?」


 先生は、笑いながら俺の腹筋や広背筋を、つんつんと突っついてきた。


「あああああああああ!!!! 感じちゃうううぅぅぅぅ!!!!」


 俺はアヘ顔で、魂を込めて叫ぶ。


 ……あれ? アヘ顔って指定されてたっけ?


「あはっ、今日はノリいいね。――すごーい、筋肉カチカチだ」



[1、「はっはっはっ! 俺のアソコと一緒ですね!」]

[2、「僕のおち〇ちんもカチカチです」]



 は!? おふざけが過ぎるだろ! ふざけんなよ!


「はっはっはっ! 俺のアソコと一緒ですね!」

「ふぇ……!?」


 先生は驚き、俺の下半身を見る。――すげー恥ずかしい。


「……別に普通」

「いや、頭ですよ頭! ははは!」


「むー! 大人をからかわないで!」


 どうよ、この機転の利き具合! さすが、幾多もの修羅場をくぐり抜けてきた俺だぜ!


「すみません。じゃああとは自分で塗りますので」


 俺は先生から日焼け止めを借り、全身を塗った。

 日に焼けていると、いかにもスポーツマンという感じがするので嫌なのだ。

 色白最高!



「じゃあ、今度は私の背中塗って」


 先生はシートの上に、うつ伏せになった。


 さて、ついに来ましたか……。

 俺はガチガチに緊張しながら、先生の元へ馳せ参じる。


「では八神颯真、いかせていただきます」


 俺は先生の水着の紐をほどいた。


「きゃっ! なんでほどくの!?」

「え!? こうするもんじゃないんですか!?」


「普通に浮かせばいいでしょ!」

「す、すみません!」


 なるほど……確かに紐をちょっと引っ張れば塗れるな。一つ勉強になった。


「……もしかして……見たいの?」



[1、「はい、見たいです!」]

[2、「見るだけじゃ我慢できませんなぁ(ニチャァ)」]



 やべえ……選択肢が暴走している。

 完全に俺をエロガキにしようとしてんな。ちくしょう……!


「はい、見たいです!」

「もう……八神君は正直すぎ……」


 先生は辺りを見回す。


「ん……誰もいない」


 え……? まさか……?


「じゃあ……いいよ……」

「え……?」


 先生は胸を腕で隠しながら、ごろんと仰向けになった。


「私抵抗しないから」



[1、桜子の腕をどける]

[2、桜子と一線を越える]



 おいおい、冗談だろ……。これ、マジでやべえぞ……。


「……どうしたの? 見たいんでしょ?」

「あ、いえ……ええっと……」


「女に全部やらせちゃダメ。私だって恥ずかしいんだから……」


 先生が艶めかしく体をよじらせる。これは強烈だ。

 災厄を避けるために1を選んだとして、この誘惑を振り切れるだろうか?



 うむ……絶対無理!


 となれば、災厄を食らうしかない。ひまりを裏切る訳にはいかないのだ。


「ん……ひまりには秘密にしておくから……ね?」


 そんな俺の心を見透かすような一言。ちょっと怖い。

 と言うより、先生は俺の気持ちを分かっていたのか……。


「先生……分かってるなら、なぜ……?」

「私は、とっても嫉妬深くて欲深い女なの。――ショック? でも、これが私」


 先生は妖艶な笑みを浮かべた。


「そう……なんですね……」

「今日は、二人の思い出の日にしようね? あはっ」


 凄まじい色気だ。

 並の高校生では、とっくのとうにルパンダイブしているだろう。

 だが俺は、いくつもの修羅場をくぐり抜けてきたのだ。これしきのことでは……!


「我慢しなくていいんだよ? ほら、来て……」

「うぐぐ……!」


 俺は心の中で念仏を唱え続ける。


 これは試練だ……! このサキュバスの誘惑に負けたら、ひまりは戻って来ない! そう勝手に思い込む。



「すみません先生……!」


 俺はタオルを先生にかけてから、腕をどかした。


「……何がしたいの?」

「特に意味はないんで気にしないでください」


 先生は「はぁ……」とため息を吐いた。


「フラれちゃった」

「先生……」


 先生は水着を直して起き上がる。


「……ちょっとグイグイいきすぎちゃった。ごめんね」

「いえ、そんな……」


「私のこと軽蔑した?」

「そんなことないです。本当の先生が知れて良かったですよ」


 先生はクスリと笑う。


「ありがとう。――泳ごう、颯真」

「はい!」


 俺と先生は、邪神の浮き輪を持って海に駆けて行った。

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