第19話 見せろ漢気!

 翌日の早朝、俺はあくびをしながら右手にトング、左手にゴミ袋を持って学校周辺のゴミ拾いをしていた。


「八神の奴、マジで来てるし……」

「なんなんあいつ? どういう魂胆よ……?」


 北原と小松がコソコソ話している。

 俺だって本当は、清掃活動なんかしたくねえっての。


 俺はビッチどもから離れ、誰もいなさそうな場所まで行く。

 すると、悪い意味で目立つ金髪ツインテールが、しゃがんでいるのが見えた。


「――ひまりか?」

「あ……八神……」


 ひまりは、昨日からちょっと元気がない。

 勉強もいまいちはかどらなかった。


「どうした? 北原たちと別々なんて珍しいな」

「あ、うん……」


 表情が暗い。これは何かあったな。

 勉強に悪影響が出るのは良くない。すぐに対策を講じる必要がある。


「あいつ等と、何かあったのか?」

「うん、まあ……」


 ひまりは言いづらそうにしている。

 無理に聞かない方がいいか? でもなあ……。


「……話なら聞くぞ?」

「えっと……あのね……あの子達、八神のこと、すごく悪く言うの……」


 いつものことだ。別にたいしたこととは思えないのだが?


「アタシにも、八神と距離置いた方がいいって……ちょっとムカついたから、それで……」


 ん? ひまりは俺の側に立ってくれているということか? それはありがたいな。


「そうか。まあ俺は悪く言われるのには慣れっこだから、気にするな」


 ひまりの表情は暗いままだ。まだ何かあるな。


「ねえ八神……八神も、紗耶香にアタシと距離置けって言われたんだよね?」

「ああ。昨日の朝、駐輪場で言われたな」


「それで……『分かった』って答えたんでしょ?」

「そのとおりだ」


「……う、う、うえーん!」


 ひまりはポロポロと泣き出してしまった。


「お、おい、ひまり……どうした?」

「なんでもない……急に泣き出しちゃってゴメンね……」


 ひまりは鼻をすすり、袖で目をぬぐいながら、別の場所へと去って行ってしまった。


「どうしたんだよ、ひまり……」

「今しゅぐ追いかけて、抱きしめてあげなしゃい! そして『おまえのことを大事に思っている!』と言うのでしゅ!」


 後ろから大声を浴びせられ、俺はビクッと後ろを振り向いた。


「あ、あなたはあの時の……!?」

「しょう、郵便局の場所を聞いたけど、体調不良を理由に断られたババアでしゅじゃ!」


 すみません婆さん! あの時はマジで、幻覚症状が出ていると思ったんです!


「さあ、早く行きなしゃれ!」



[1、ババアに従い、ひまりを追いかけ抱きしめる]

[2、ひまりなんて無視。むしろババアを抱きしめる]



 どちらかを抱きしめなければいけないのか……。

 どちらも通報されるリスクがあるが、婆さんの方が、その可能性は低いだろう。

 ここは安牌を選ぶことにする。


「お婆さん! あなたを大事に思っています!」


 俺は婆さんを抱きしめた。


「はううっ! 何をやっているのでしゅ! 私じゃなくて、金髪の子を抱きしめるのでしゅ! もう……体が火照ってきてしまったでしゅよ……」


 これで選択肢はクリアだ――ってまた出てきやがった。



[1、ひまりを追いかけ抱きしめる]

[2、ひまりなんて無視。ババアとキスする]



 婆さんへの行為がエスカレートしている!?

 2を選び続けた場合、最終的に婆さんとおせっせさせられそうだ!


 となれば、もうやるしかない!

 すぐに謝れば、通報はしないでくれるはず!



 俺は急いでひまりの元へと向かう。――いた!


「ひまり!」

「八神……?」


 俺はひまりを抱きしめた。


「きゃっ……」

「ひまり、お前のことを大事に思っている……!」


「え? え? あわ……あわわわ……」


 ひまりは顔を真っ赤にし、目に涙を溜めている。

 やばい。この感じ、「この人痴漢です!」と叫ばれそうな気配だ。


「すまん、今すぐ放す」


 俺はひまりから手を放した。


「あ……」


 ひまりはガッカリしたような表情を見せた。

 この程度では、起訴できないと思ったのだろうか?


「ひまり、マジでごめんな。このことは秘密にしておいてくれるか? (警察への通報や、弁護士への相談的な意味で)」

「あ、う、うん……」


 あぶねえ、なんとかセーフ。

 あの婆さんのせいで、とんでもない危険な橋を渡らせられたぜ。


 俺はボーッと上の空になっているひまりをよそに、タバコの吸い殻をトングで摘まんだ。





「品川、今日風邪で欠席だって」

「あの野郎、逃げやがったし!」


 北原からの報告に、小松がブチギレる。

 健康優良児の品川が、今まで欠席したことは一度もない。確実に仮病だろう。



 こうして身だしなみチェックは、風紀委員の小松を筆頭に、俺、ひまり、北原の4名でおこなうこととなった。

 俺達は校門前に並び、登校してきた生徒のチェックを開始する。



「おはようござい……そこの1年! シュシュは校則違反!」

「す、すみません!」


 北原が1年女子のシュシュをもぎ取って、没収した。


「ういーっす! ――そこの1年、下着の色は?」

「く、黒です」


「ダメだ! エロすぎる! ここで脱げ!」

「ええー!?」


 小松が1年女子の、パンツを脱がせようとする。


 ダメだこいつら……イキイキと後輩をいびってやがる。

 ちなみにひまりは、ずっと無言でボーっとしており、いる意味がない。



 その時、3年のキツそうな女子がやって来た。

 ピアス、ミニスカ、サンダル……ぱっと見ただけでも、2桁近くの校則違反が見受けられる。


「おう2年ども、おいーす」

「おはようございまーす……」


 北原も小松も下を向いて、小さな声で挨拶している。


「お前ら、1年と3年で全然態度ちげえじゃねえか……」

「は? 八神の分際でうっせーし!」

「じゃあお前がやってみろや!」



[1、「おう、やってやらあ!」厳正な身だしなみチェックをおこなう]

[2、「そもそもお前らが違反してんだよ!」北原と小松の衣服を引き千切る]



 ちっ、俺としたことが墓穴を掘ってしまった。

 2は……駄目だな……少年院行きだ。


「おう、やってやらあ!」

「けっ、どうせすぐビビんだろ?」

「ぜってー逃げんなよ! 逃げたらシメっからな?」



 しかし、次に来た生徒はとんでもない奴だった。

 身長は190を超え、髪はモヒカン、制服の両袖は裂けており、そこからたくましい腕を覗かせている。

 なんで進学校のウチに、こんな北〇の拳に出てくるような奴がいんだよ!


「あ、あれは極悪院先輩……! マジ、こえー」

「目が合ったらレ〇プされるって噂だべ……下向いとけ……」


「んな訳あるか!」とツッコミたくなるが、実際極悪院先輩を見ると、「ああ、だろうな」と納得してしまう。


「おう! 2年ども、極悪院様のお通りじゃあ! 道を開けよ!」


 極悪院先輩はのっしのっしと歩いて来る。

 しゃあねえ、いくか!


「あ、極悪院先輩。モヒカンは校則違反なんで」

「なんじゃとお……?」


 極悪院先輩がギロリと俺を睨む。



「ひ、ひいいいい……! なにやってんだよ、クソ八神……!」

「おい八神、やめとけって……! 殺されっぞ……!」


 北原と小松がガタガタと震える中、俺は胸ポケットから生徒手帳を取り出した。


「ほら、このページを見てください。ここに『モヒカンは禁止』と記載されています」

「おお……本当じゃ……そんなこと、今まで知らんかったのう……じゃあ、こうすればいいんじゃな? ――ふんっ!」


 極悪院先輩は手刀でモヒカンを斬り落とし、坊主となった。すげえ……。


「はい、それなら大丈夫です。あとノースリーブも駄目なので、後日修復してください」

「おう、そうか! じゃあ素手で殺した、熊の毛皮を縫い付けておくとしようかのう! ガハハハハ!」


 極悪院先輩はカランコロンと下駄を鳴らしながら、校舎へと向かって行った。

 ちなみに当校は、下駄OKである。


「案外物分かりの良い人で助かったぜ」

「マジかよ八神……お前すげーな……」

「ちょっと、ひまりの気持ちが分かったべ……」



 その後も俺は3年生相手に、徹底的な指導をおこない、風紀を守り抜いた。





 放課後、図書室に行き、星優月と共に1階エントランスへと向かう。


「おいおい嘘だろ……?」


 そこには数十箱のダンボールが積み上げられていた。

 これ全部に本がギッチリ詰まっているのだ。


 ウチの高校には台車はあるが、エレベーターはない。

 これを、3階の図書室まで担いでいかなくてはならないのだ。それも何往復もして。


「絶望的な量でござりまするな。八神氏に期待しまする。ソイヤッ!」


 期待するって言われてもな……ていうか、なんで俺と星しかいないの?


「なあ星、他の図書委員は?」

「この量を見た途端、『急に用事を思い出した!』とほざいて逃げ出したで候」


 ふざけんなよ! ウチの学校の委員会、責任感なさすぎだろ!



「八神ー! 手伝いに来たよー!」


 笑顔のひまりが、北原と小松を連れてやって来た。


「おうお前ら、手伝ってくれるのか?」

「まあねー」

「朝、手伝ってもらったし」


 一応多少なりの義理はもっているようだ。


「よし、じゃあやるか!」

「おー!」


 俺は1人で、女子は2人で1箱担いで階段を上る。

 その間ひまりは、北原、小松と仲良さげに話していた。


 図書室に箱を降ろした俺は、ひまりにそっと話しかける。


「仲直りできたようだな」

「うん! 紗耶香も玲奈も、八神のこと凄い奴って認めてくれたの!」


 ひまりは満面の笑みを見せる。


 おお、マジでか? まさか、あの2人にそう言われるとは思いもしなかった。

 正直クラスの連中にどう思われようが構わないと思っていたが、いざそう言われると嬉しいもんだな。

 そういう意味では、今日のボランティアも無意味ではなかったか。


 俺は少しテンションが上がり、急いで階段を駆け下りる。


「おう! 朝の2年か!」

「――極悪院先輩! もう完成したんですね!」


 袖にクマの毛皮を縫い付けた先輩が、ダンボールの前に立っていた。


「どうじゃ! なかなか豪気な仕上がりじゃろう! ――ところでヌシは何をやっておるんじゃ?」

「このダンボールを図書室に運んでいます」


「ほう! 力仕事は男の見せどころよ! ワシも手伝うけえの!」

「ありがとうございます!」


 極悪院先輩は、いっぺんに4個のダンボールを担ぎ上げてしまった。これは助かる。


 こうして先輩の力を借りることができた俺達は、無事にすべてのダンボールを運ぶことに成功したのであった。


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八神兄妹と瑠璃川三姉妹の秘密④ 趣味編


颯真:ゲーム、読書、野鳥観察、エアガン


紬 :ゲーム、料理、ミジンコの飼育、椎茸の栽培


桜子 :飲酒、レスバ


ひまり:ネイルアート ファッション研究 お菓子を食べること


紫乃 :お菓子作り 窓を高圧洗浄機で洗うこと

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