第10話 再戦

「おっ! あの時のクソザコちゃんじゃん! お前のおかげで、サイゼリ屋で豪遊できたぜ! ありがとな!」


 鬼頭達の周りにいた3人も、俺の方へとやって来る。

 全員あの時の不良たちだ。


「おやおや、今日も俺達に貢ぎにきてくれたのかな?」

「じゃあ財布チェックしようか!」


 4人が俺を取り囲む。


「先輩……! 早く、通報してください……!」


 紫乃は震えながら俺の袖をひっぱる。


「こいつは、俺にいきなり飛び蹴り食らわす真の男だから、通報なんて卑怯な真似はしないんだよ! なあ、そうだよな?」



[1、「我、真の漢なり!」スマホを叩き折る]

[2、「俺の強肩を見せてやる!」スマホをぶん投げる]



 ちくしょう、マジかよ!?


 俺だけならともかく、ひまりや紫乃も危険に晒されているんだぞ!? この選択肢は笑えなさすぎる!

 ここは災厄覚悟で、選択肢を無視して通報するべきだろう……!



 ……いや、待て。災厄が「仲間が増える」といった、さらに危険性を増すものであるおそれがある。

 ここはやはり選択肢に従っておくべきか。


「我、真の漢なり!」


 俺はひざ蹴りで、スマホを叩き折った。

 不良たちは「ギャハハハハ! マジ、馬鹿だこいつ!」と大笑いする。


「何やってるんですか先輩!? ひまりちゃんを連れて逃げましょう!」


 紫乃はグイグイと袖を引っ張る。


「おっと、逃げねえよな……?」



[1、逃げない]

[2、不良どもをボコす]



 くっそ! 最悪だ……!


「……ああ、俺は逃げない」


 再び不良たちが大笑いする。



「……なあ、あんた達。有り金全部払うから、見逃してくれ。……頼む」


 俺は財布から2千円を取り出し、不良たちに頭を下げる。


 いくらボクシングを習っていると言っても、まだ初心者な上、相手は4人。勝てるはずがない。

 ましてや今は、ひまりと紫乃がいる。もっとも安全な手段を選ぶべきだ。



「たった2千円じゃなあ……? あの金髪の子と、この茶髪の子が俺達と朝まで遊んでくれるってなら許してやるぜ?」


 不良たちはニヤニヤと、ひまりと紫乃をねめ回す。


「先輩……」


 紫乃はギュッと俺の袖をつかむ。


「大丈夫だ。安心しろ」


 紫乃の肩をぽんと叩こうとした時、鬼頭将吾が起き上がった。


「そ、それで俺達を見逃してくれるんすか!?」

「しょ、将吾!?」


 不良たちが大笑いする。


「おう、いいぜ。どうするよ?」

「で、では、そういうことで! あとはよろしくなひまり」

「え……嘘でしょ!?」


 信じられん。鬼頭の奴、自分の彼女を売りやがった。


「よーし、じゃあお前ら3人はもう行っていいぜ。――あ、サツには絶対チクるなよ? チクったら殺すからな?」

「へ……へへ……ありがとうございます……」


 鬼頭達3人は、そそくさと去って行った。



「そんな……」


 ひまりは涙を流す。

 恋人に見捨てられたのだ。そのショックは計り知れない。


「じゃあ、とりあえず車の中に押し込んどいて」

「おっけー!」


 一人の不良がひまりの腕をつかんだ。


「やだっ! 放してよ!」


 ひまりが暴れて抵抗する。


「こいつ……! おとなしくしろって!」

「いやっ! 触んないで!」


 ひまりは、爪で不良の顔を引っかいた。


「いてっ! このクソアマッ!」


 不良がひまりの頬を殴った。


「――ひまり!」


 その瞬間、俺の中で何かが弾ける。

 脳内に選択肢が浮かび上がってきていたが、それを確認する前に、俺の体は動いていた。


 目の前に立っている、不良のリーダーのアゴに左フックを食らわし、すぐさま、その右隣にいる奴のアゴに右ストレートを打ち込む。

 2人は失神し、その場に倒れ込んだ。


「……え?」


 まだ困惑しており、構えすらとっていない奴をワンツーで仕留める。

 そして、ひまりを殴った奴の元へ素早いステップで踏み込み、左ストレートを食らわした後、頭をつかんで膝蹴りを顔面に3発入れた。



「――よし、全滅だ。もう大丈夫だぞ」


 選択肢の一つは不良をボコすことだったので、災厄も起きない。良かった。


「ウソ……でしょ……八神ってこんな強いの……?」

「せ、先輩……すごい……」


 唖然として俺を見つめる姉妹を放って、俺は不良どもの財布を物色する。


「よし、5千円取り返したぜ。……オッサンはいくら取られたんだっけ? ……まあいいや。スマホも買い替えなくちゃいけないし、全部貰っておこう」


 俺は4人の不良の財布から、お札を全て抜き取った。


「12万円ゲット。随分リッチだなこいつら。――さて、これで俺ももう立派な不良か……いや犯罪者だな」


 平穏をこよなく愛する俺が、法を破るなど到底信じられないことだ。

 だが俺は今、戦いの勝利とアウトローに堕ちた快楽に、すこぶる酔いしれている。



「あの……八神……その……」


 俺はひまりを見る。

 どうやら、たいした怪我はしていないようだ。良かった。


「さあひまり、家に帰るぞ。授業再開だ」

「う、うん……!」


 俺はひまりと、俺の袖から手を放さない紫乃を連れ、無事瑠璃川邸へと戻った。




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不良がリッチなのは、鬼頭将吾からカツアゲしたからです。

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