人魚とのファーストキスはどのようなお味?
第4話
今日も朝が来る。テトラと再び会うようになってからは朝が憂鬱ではなくなった。今までだったら絶望が襲ってくるかのような嫌気さだったのに。どのようにして1日を過ごそうか、いいや、寝てよう、みたいな毎日だった。さて、今日も歌にリコーダーをしようと準備する。リュックの中身は昨日と変わらない。変わったのはお弁当が2人分になったことだ。お母さんが喜んで作ってくれた。大変なはずなのに、お友達を大切にねって条件で作ってくれることになった。テトラとは何があっても離れたくないって思ってる。このお弁当でも友情が築ければって思ってる。テトラは今まで海藻や小魚しか食べていないというから、人間の食べ物がとても美味しいって言ってた。なら色々食べさせてあげたい。あたしも弁当作りしてみようかな。そうすれば、お母さんの負担も減るし、自分の料理スキルを身につけることができてテトラに自慢もできるし!
さて、さらに、聴きたいことがある。あたしとのファーストキスはどうだったかをだ。あたしはよく覚えていないけど、キスをしたんだってあんなにあっさり言われて圧倒されている。人魚って愛情表現でキスとかしないのかな……?キスに対して淡泊な気がする。あたしなんかキスって言葉が出ただけで取り乱してしまったというのに。人魚には愛情表現ってないのかな?今日はこれを聞くのが一番楽しみだったりする。
「はい、お弁当、気をつけてね」
「はーい、行ってきます!!」
有理紗は元気よく家を飛び出していった。
「声が元気になってきて、お友達のおかげかしらね」
微笑ましく見送る母親。テトラとの再会は有理紗に良い変化をもたらしていた。
「さて、今日もテトラを呼びますか。す~。~♫」
ザバーンッ
「~♫」
そして、最後までユニゾンで歌いきる。
「おはよう、テトラ!」
「おはよう、有理紗。何だか昔の有理紗に戻りつつあるわね」
「うん、テトラと会っているおかげで元気になれてるような気がする」
「それは嬉しい。有理紗が元気でいてくれると私も元気になれるわ」
そっか、テトラと会っているとあたし、明るくなれているんだ。昔のあたしは明るい性格だって言われてたもんな。それが不登校になってからは塞ぎ込むような性格になって……。テトラに感謝しないと。
「あ、そうだ、テトラ。今日はちゃんと貝殻のブラつけてるね、よし!!」
「有理紗があんなに言うからあれから探してつけたよ。大きくなってもサイズがあったから良かったわ」
「た、確かに大きくなったね」
貝殻のブラからも少しはみ出しているテトラの胸にドキドキするあたし。何でドキドキしているんだ。それに、これから、もっとドキドキすること聞くのに。
「ね、ねぇ、テトラ。あたしとファーストキスした時どうだった?」
「どうって……あの時は有理紗を助けるのに必死だったからキスしているとか思わなかったわ」
「それもそっか……」
あたしもよく覚えてないし、もうこのキスはノーカンなのかもしれない。人命救助で一々キスしただなんて思わないよなぁ……でも、心なしかテトラの顔が少し赤いのは何故?
「テトラ、人間のように、人魚にもキスに特別な意味ってある?」
ドキドキ、ドキドキ。聴いてしまった。この返答次第では、このファーストキスも特別になる。
「あるよ。人魚は好きになった人に唇を捧げるんだよ。でも、その人と報われなければ泡となって消えてしまうの」
「めっちゃ重っ!!!!! じゃ、じゃあ……あたしに唇捧げちゃったけど、あたしと恋人同士にならないといけないってこと?」
「……う、うん」
「だ、大事なもの人命救助の為に貰っちゃってごめんね!! やり直したいでしょ!?」
「ううん、有理紗で良かった。後は、有理紗が私のことどう思ってるか知りたい」
「テトラ……。」
ちょっ!? 予想外の答えが返ってきて驚きだよ!! あたしは……あたしは……!!
「テトラ、あたしもテトラとキスできて良かったよ。でも、さらにごめんね。その時のこと覚えてなくて。しかも、出会ったきっかけだったというのに……」
「幼い時の記憶だししょうがないよ。幼い時の記憶って曖昧になるっていうもんね。な、ならさ。また、して、みる??」
「えっ!? まさか、キスを……??」
「そ、そうだよ」
「ええい、なら、しようじゃないか!! キス!! テトラ、好きだよ!!」
「私も有理紗のことが好きだよ」
2人は目を閉じた。そして近づけていく顔。抱きしめ合う体。もうすぐ触れ合う唇と唇。邪魔する者は誰もいない。2人の唇は1つになった。
「どどどどどどうだった? キスの味は??」
「有理紗、テンパり過ぎ。笑っちゃうよ。そうだな。私がついているからか海水の味」
「あたしも思った。テトラとのキスは海水の味だ!」
ファーストキスはレモンの味とか甘酸っぱい味を連想させるのに、テトラとのキスの味は辛みの効いた塩味であった。テトラとのキスを甘くするには、事前に甘いものを食べてもらうしかない。よし、今度のお弁当にデザートを持ってくることに決めたあたしであった。
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