詩「ありがとう、さようなら」
有原野分
ありがとう、さようなら
「あなたはあなたであなただから
ぼくがぼくとして生まれてきたのはきっと
透明なガラス瓶の中のような夜空から
露天風呂に浸かって星を眺めている
病的だった自分自身に向けて
「さようなら」
を言うためだった
と
ふと思い出したんだ
0と1の隙間
父と母の隙間
海と月の隙間
追憶とは儚い間接照明だ
過去は影のように
絵の具で言えば黒色で
流れる匂いは腐敗して
回転で言えば逆回転で
そしてきみと出会った
いつの間にか逆回転が反転して
星の瞬きが見えるようになったり
打ち上げ花火に涙を流したり
若い両親の皴の少ない手を思い出したり
きみと別れそうなほどのケンカをしたり
過去の手紙を深海に埋めて ぼくたちは一緒
に暮らすようになった 街を見下ろす鳥居を
跨いで そのまま空の隙間に挨拶をする そ
うして ぼくは ぼくを殺したんだ
これは決別の詩だ
露天風呂から星を眺めるように
ぼくはぼく自身に向かって言葉を綴る
ありがとう、さようなら」
詩「ありがとう、さようなら」 有原野分 @yujiarihara
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